第二十二章 暗い遊園地
「おいおい~!ジェットコースター最前列は私の席だぜ☆」
そう言うグリザイユくんが想像できる。
でも。
今は、いない。
僕、ミライ・ユくん、キアロくん、トロンプくんの四人で、トロンプくんがくれたチケットで遊園地に遊びに来ていた。
〈星降り丘ワンダーランド〉
大きな門の向こうには、まるで別世界が広がっていた。カラフルな旗が風に揺れ、遠くからはジェットコースターの走る音と、人々の楽しそうな歓声が聞こえてくる。
「わあ……」
思わず声が漏れる。
入り口の前には、チケットを握りしめた子どもたちが待ちきれない様子で跳ね回り、家族連れや友達同士のグループが笑いながら中へ入っていく。甘いポップコーンの香りと、焼きたてのお菓子の匂いが風に乗って流れてきた。
一歩、足を踏み入れる。
そこには、巨大な観覧車が空を背景にゆっくりと回り、色鮮やかなアトラクションが並んでいた。音楽が流れる広場ではキャラクターたちが手を振り、人々はスマホを片手に楽しそうに写真を撮っている。
「すごい……本当に来たんだ」
周りから聞こえる笑い声。走り抜ける人の足音。きらきらと輝く景色。
星降り丘ワンダーランドは、ただの遊園地じゃなかった。
ここにいる全員が、今日という一日を特別な思い出にしようとしている——そんな空気に満ちていた。
僕は少しだけ笑って、次に乗るアトラクションを探しながら、にぎやかな園内の奥へ歩き出した。
「うおーー!めっちゃ楽しもうぜい~!」
「お化け屋敷入ろー!カゲエちゃん先頭で(^^)」
「ポップコーン、どの味にしたらいいか分かんなかったから……全部ミックスしてきたよん☆」
……周りのアトラクションを見るたびに、グリサイユくんならこんなことを言うだろうな、という想像ができてしまう。
表面上は、皆すっごく笑顔だった。僕を、グリサイユくんとバロロさんがいない分、全力で楽しませようとしてくれてるんだろう。また改めて、Venom Desireのエリートたちの凄さが分かった気がした。
……でも、心のどこかでは、皆寂しい顔をしていた……。
◇
観覧車に入る。四人でぴったりサイズの丁度いい広さだった。……大柄なキアロくんには少し狭いみたいだけど。窮屈そうに座るキアロくんがなんだか可哀そう&可愛くて、思わずふふっと笑ってしまう。
「……よし!これでこの遊園地のアトラクション全部制覇したな!」
ミライ・ユくんがパンフレットをパタン、と折る。ミライ・ユくんは、パンフレットを見るなり、全部のアトラクションを回る最適解のルートを導き出し、待ち時間も少なく、安全に楽しめるルートをすぐさま割り出した。……もう、流石としか言いようがなかった!兄さんが用意した人材ってのは、マジに凄すぎる……!
「ミライ・ユくん、本当になんでもこなしちゃうね!」
「はは!だろ?」
「ミライ・ユくんのお陰で今日楽しかったよー!ありがとね!」
トロンプくんがそう言う。
「ああ、確かにミライ・ユ殿のお陰でもあるが……チケットをくれ、計画を提案してくれたのはトロンプ殿だろう?トロンプ殿にも感謝しているぞ」
キアロくんは優しくそう言った。僕もミライ・ユくんも賛同する。
「……えへへ~♪」
トロンプくんはご機嫌だ。
観覧車はゆっくりと動く。そして、頂上に上ったころ。
……我慢できなかった。
僕は、ついに口に出す。
「……やっぱり、本当は皆で来たかったね……」
三人は一瞬驚いた顔をして、
「ああ……そうだな」
「うむ……」
「うん……」
そう言った。
「この景色、写真撮らない?……あ!なんなら、お土産買って行こうよ!」
僕が提案する。すると、
「確かに!買おう買おう!」
皆も乗ってくれた。
「バロロさんにはコーヒーでも買う?……グリサイユには……」
ミライ・ユくんが言葉に迷う。一瞬の静寂。そして、
「グリサイユくんの好きな物って、何だろう……?」
改めて考えると、僕はまだまだグリサイユくんのことについて、全然知らなかった。皆も疑問を口にする。
「む……改めて考えると、グリザイユ殿は謎が多いな」
「確かに……!そういえば、皆の好きな食べ物って何?」
「……俺はハンバーグかな」
ミライ・ユくんがそう言うと、他の二人も教えてくれた。
「私は、ステーキだな」
「僕は駄菓子が好き~!ご飯なら、カルボナーラとか!」
「良いね良いね!僕はトンカツが好きかなあ!」
ワイワイと盛り上がる。そして観覧車を乗り終えて、お土産を買って家へと帰ったのだった……。
◇
深夜……こっそりと、部屋へ侵入する。
僕は……グリサイユくんが収容されている部屋に来ていた。
本当は、当分は会えないってバロロさんに晩御飯の時に説明を受けたんだけど、どうしても、どうしても会いたくて来てしまった。鍵は、意外とかかってなかった。
それに……。
「カゲエちゃんて本当に優しいよねえ!」
「そうかな?」
これは、ちょっと前に僕たちがした会話。
「いや、改めて思ったんだけどさ……、今私がこうしてカゲエちゃんって呼んでるの、他の組員に見られたら信じられないものを見る目で見られると思う!」
「あはは……!」
「ボスのご令弟がこんなに優しいとか、ボスもどんだけいい人なんだよ!?」
「!!兄さんは、世界で一番優しい人なんだよー!」
それから僕は、兄さんのココがすごい!ってところを、丸ッと一時間弱話した。長かったけど、グリサイユくんはうんうんと聞いてくれた。そして。
「……ボスの凄さも分かったけどさ、今日の一番の収穫は、やっぱり、改めてカゲエちゃんの優しさを再確認したことかな~」
「もう……またそういうこと言うんだからっ」
「ねえ、カゲエちゃん……」
グリサイユくんは、少し真剣な声になる。
「今度で、今度でいいからさ……ちょっと悩み相談に乗ってくれない……?」
「悩み?僕でいいなら、全然いいけど……」
グリサイユくんはほほ笑む。
「うーん、なんていうか、もうちょっとまとまってから話すね。それに……」
「こういうのって、カゲエちゃんにしか話せないからさ」
グリザイユくんの方を見る。ちょっと前まで寝息を立てていたが、僕が部屋に入った瞬間、
「!」
すぐさま、パタリと起きた。これが凄腕剣士か……。
グリサイユくんはじっと僕の方を見る。
いつものニコニコ顔じゃなかった。
それは——真っ赤な瞳だった。
鮮血の様な赤い瞳に、限界まで開かれた瞳孔。
まるで——血に染められた、狂い桜。
僕はハッと息をのむ。……そして、グリサイユくんに恐る恐る話しかけた。
でも、明るく取り繕った。
普段、グリサイユくんが僕たちにしてくれてるみたいに。
明るく、接そうとした。
「……ヘーイ☆グリサイユくん、折似合わないねエ!元気かいッ!?」
「……」
グリサイユくんは黙ったままだ。
黙って、僕を見つめてる。
見開いた眼で。
「あ……き、今日遊園地行ってきたんだけど、グリサイユちゃんにもお土産買ってきたから、あげちゃうよ~ん☆」
袋からお土産を取り出す。買ってきたのは、遊園地限定の味のポテトチップス。
グリサイユくんは黙ったままだった。
でも。
喋った。
「……一口、くれよ」
「!」
やっと喋った。
「うん!いいよ!ちょっと待ってね!」
僕は、グリザイユくんが答えてくれたのが嬉しくて、すぐさまポテトチップスを用意する。
袋を開けて、一枚取り出す。
「はい!あ~ん」
折の中に手を入れる。すると。
ガシッッ!!!
「ッ!?」
グリザイユくんが僕の腕を掴む。
力強くて、折れるかと思った。
ポテトチップスが床にハラリと落ちる。
「ちょ、グリザイユくん……!痛いよ……!」
そう言うが、離してもらえない。グリザイユくんは、僕の方を真っすぐ見てこう言った。
「……狂桜は、どこにある」




