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Venom Desire  作者: 永井健作
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19/24

第十九章 父親

 しばらくの沈黙。森の中に作られた特設サーキット。さっきまで響いていたエンジン音も、魔法の衝撃音も消え去っていた。残ったのは——。

 勝者と敗者。

 そして。

「……いい戦いだった!」

 ミライ・ユくんの、まっすぐな声だった。

「……え?」

 ドミニオンが顔を上げる。ミライ・ユくんは、笑っていた。勝ち誇った顔でもなく。相手を見下す顔でもなく。ただ、本当に嬉しそうに。

「お前、本当に速かったよ」

「……」

「正直、途中で無理かと思った」

「……は」

 ドミニオンが小さく笑う。

「おいおい……勝った側が言うセリフじゃねえだろ」

「でも、本当のことだ」

 ミライ・ユくんは、手を差し出す。

「お前がいたから、俺はもっと速くなれた」

「……!」

「だから」

「……ありがとう」

 その言葉に。

 ドミニオンは、目を見開いた。

 そして——。

「は……」

 小さく息を吐く。

「はは……」

 肩を震わせる。

「……完敗だよ」

 ゆっくりと、差し出された手を見る。

「ミライ・ユ」

 そして。ぎゅっ。

 二人の手が、固く握られた。

「……負けた」

 ドミニオンは悔しそうに笑う。

「俺はずっと、魔法能力がある奴が上だと思ってた」

「……」

「だから、魔法能力もねえお前が認められてるのが気に入らなかった」

 ドミニオンは空を見る。

「でも……違ったんだな」

「速さってのは、魔法能力だけじゃ決まらねえ」

「……」

「お前は……本当に運転手だったよ」

 その言葉に。ミライ・ユくんは少しだけ目を細めた。

「……ありがとう」

 その光景を見ていた僕たちは。

 誰も、言葉を出せなかった。

 だって。

 あのミライ・ユくんが。ずっと自分を「何もない」と言っていたミライ・ユくんが。今、誰かに認められている。それが、嬉しくて。

「……よかったね」

 思わず呟く。

「うん……」

 グリザイユくんも。

「……ああ」

 キアロくんも。

「ミライ・ユくん、かっこよかったね!」

 トロンプくんも。

 みんな、笑っていた。バロロさんも優しく微笑んでいる。

「彼は、もう自分で自分の価値を証明したんだね」

 その時。

「……」

 パチ。

「……?」

 パチパチ。

 拍手。

 誰かが拍手している。

「……?」

 全員が音の方向を見る。

 森の入口。

 夕日に照らされた場所に。

 一人の人物が立っていた。

 その人物は――。

 虹色の髪の束。虹色の瞳。

 まるでミライ・ユくんを、そのまま大人にしたような姿。

 でも。纏っている空気が違う。圧倒的な存在感。

 そこにいるだけで、空気が変わる。

「……素晴らしい」

 その人物は、笑顔で拍手を続けていた。

「見事だったぞ」

 ミライ・ユくんの表情が。

 固まる。

「……」

「……?」

 僕はミライ・ユくんを見る。

 さっきまで、あんなに堂々としていたのに。

 その顔には。驚き。戸惑い。そして——。

 少しだけ、怯え。

「……親父……?」

「……!」

 僕たちは一斉に振り返った。

「え?」

「ミライ・ユくんのお父さん……!?」

 その人物は。

 ゆっくりと歩いてくる。

 虹色の瞳が、ミライ・ユくんを見る。

「久しぶりだな、ミライ。我が息子よ」

 夕焼けの中。親子の再会が。静かに始まった。

「誇らしいぞ。ミライ」

「……父様、何でここに……?」

「イマカとカコミからミライと会ったとの報告を受けてから、しばらくお前のことを監視していたよ」

「な……!?」

「ミライ……私は信じていた。お前が魔法特殊能力に目覚めるのを。そしてそれは現れた……〈勝利へと運命を導く〉。流石は、インパスト家次期当主だ。」

 

 僕は。

 ミライ・ユくんの元へ、走り出していた。

「ッ……!」

 思わず、大きな声が出る。

 「ミライ・ユくんはあなたのじゃない!僕たちの大切な家族です!」

 他の皆も、ハッとする。

「そ……そうだぜ!ミライ・ユは俺たちの家族だ!」

「……お前の都合で、ミライ・ユ殿を渡したりなどせん」

「ミライ・ユくんのことは、ミライ・ユくんが決めるんだー!」

 バロロさんも続く。

「インパスト卿……ミライ・ユくんは、我々の大切な存在です。決して、傷つけることは許しません」

「カゲエくん、グリサイユ、キアロ、トロンプ、バロロさん……!」

 ミライ・ユくんは、覚悟を決めた顔をした。

「父様……いや、親父」

「……なんだ」

「俺……家には戻らない。ここにいる。俺は、Venom Desireの……カゲエくんの、運転手なんだ」

「……」

「……昔のお前なら、私が迎えに来れば帰ってきた」

「……」

「だが今のお前は、私より先にお前を守ろうとする者たちを選んだ」

「ミライ・ユくんは……!」

「分かっている」

 そして、

「……いい仲間を持ったな、ミライ」

「……え?」

 それからミライ・ユくんのお父さんは、ポツリポツリと話し始めた。祖父からの圧力でミライ・ユを次期当主に指名されていただけで、自分で強制的に選んでいたわけではなかったこと。ミライだけじゃない、イマカとカコミにも、申し訳ないことをしたということ——

「……次期当主の件は、私が何とかして見せる。ミライは大切な仲間のところで過ごしなさい」

 そういって、帰っていった。

 ポカンと立ち尽くすミライ・ユくん。そして——

「よっしゃあああ!!」

 ガッツポーズを取る!

 僕は……大号泣していた。

「うう゛……ぐすっ、ミ゛ライ・ユくん、お父さんと、和解できて、良゛かったねえ……!」

 ミライ・ユくんは呆れた顔で僕を見た。

「おいおい……また泣いてんのかあ?」

 そして、僕に微笑みかける。

「……泣き虫」

「だって゛!!あんなの見せられたら……もう゛……!!」

 うわああああああん!!と泣き出してしまう。

 他の皆も、ちょっと笑ってた。

 なぜか、ドミニオンもほほ笑んでた。

 それがおかしくて、今度は大笑いする。

 ミライ・ユくんに、「おいおい、情緒不安定かよ……?」とちょっと引かれた。

 皆で、沢山笑って、そのあとは、サーキットの解体をみんなで手伝って、ドミニオンも一緒に皆で晩御飯を食べた。

 食べ終わって、帰る準備をするドミニオン。帰り際に、

「……ありがとな。カゲエ様。ブラッド・ワークスの件は、俺に任せといてくれ」

 そうして、去っていった。


 夜、皆におやすみをして、自室に戻ってベットの中でいろんなことを振り返る。

 ブラッド・ワークスを倒して、焼き肉店に行って、組員が襲ってきて、それから一週間グリザイユくんとキアロくんとも大学に行って、……ミライ・ユくんが泣いてるところを見て、その夜僕も泣いて、ミライ・ユくんの過去を聞いて。

 一緒にゲームして、僕のことを親友と言ってくれて!

 ふふ!と横になりながら、笑う。

 そして、次の日の朝ドミニオンが来て、勝ったら一億やるって……ん?

 何か、大事なことを忘れているような……——




「一億!!!!!!!!!」

 一億貰うの、完全に忘れてた!!この僕の叫びは、真夜中に家中に響き渡ったのだった……。

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