第十八章 そして、虹は輝く
苦しい。
息ができない。
体が重い。
まるで、このまま意識まで奪われてしまいそうだった。
ドミニオンの車は、もう前。
僕たちは追いつかれている。
完全に。
《終わりだ》
通信から聞こえる声。
《これで証明された!魔法能力を持たない奴が、魔法能力を持つ俺に勝てるわけがない》
「……っ」
悔しい。でも。本当に。このまま終わるの……?その時。
「……なあ」
ミライ・ユくんが、静かに言った。
「……?」
僕は苦しいながらも、隣を見る。
「なに……?」
ミライ・ユくんは前を見たまま。
ハンドルを握ったまま。
小さな声で。
「……今でも、俺を信じているか?」
「……」
突然の質問。
でも。
その声は。
どこか不安そうだった。
「俺は……」
ミライ・ユくんは続ける。
「ハッキリ言って、デキナイ奴だ」
「……」
「何をやっても結果が残せない。いつも失敗してばかりだ。家族にも期待されていない。……寂しい毎日を送っている」
夕焼けの光が、車内を照らす。
その言葉。
胸が痛かった。
だって。昨日。
ミライ・ユくんが話してくれた過去を知っているから。
ずっと。一人で頑張ってきたことを知っているから。
「でも」
ミライ・ユくんは言う。
「そんな俺でも」
「唯一、自信を持てるものがある」
少しだけ。
笑った気がした。
「それは……カゲエくんを勝利へと導くことだ」
「!」
胸が熱くなる。
ミライ・ユくん。
この人は。ずっと。僕のために……。
「……俺を信じてくれるか?カゲエくん」
少しの沈黙。
そして。
「……当たり前だよ!」
僕は叫んだ。
苦しい。
息も辛い。
でも。
これだけは絶対に伝えたかった。
「僕は!ミライ・ユくんを信じてる!だって!ミライ・ユくんは、僕の——」
言葉が詰まる。
でも。
もう迷わない。
「親友だから!!」
「……」
ミライ・ユくんは一瞬黙った。
そして。
「……ふっ」
小さく笑った。
「そっか……じゃあ、ちょっと、こっち見てくれるか。親友」
「?」
僕が首を傾げる。
すると。
ミライ・ユくんは片手を伸ばした。運転中なのに。器用に。自分のサングラスを外す。
「え?」
そして。
僕の顔に、そっとかける。
「わあ……!」
視界が少し暗くなる。
でも。僕は不思議に思って。サングラスを少しずらした。そして。ミライ・ユくんの方を見る。
「——」
言葉が出なかった。
夕焼けに照らされた。
ミライ・ユくんの瞳。
それは。
虹色だった。
赤。
青。
緑。
紫。
黄金。
この世界にある全ての美しい色を集めたような。
夕焼けの黄金の光の中に。
一筋だけ差し込む奇跡の光みたいな。
そんな瞳。
「……」
僕は。
ただ見とれていた。
綺麗。
あまりにも。
綺麗だった。
すると。
ミライ・ユくんは。
少しだけ笑った。
「……オーバー・レインボー・ロード」
「……?」
僕が首を傾げる。
ミライ・ユくんは前を見る。
そして。
「俺の……魔法能力名さ」
「……!!」
その瞬間。
世界が変わった気がした。
ミライ・ユくん。
魔法特殊能力がないんじゃなかった。
ただ。まだ。自分でも知らなかっただけだった。そして。その瞳は。今。最高の相棒を乗せた車の中で。静かに。
虹色の光を放っていた——。
次の瞬間。ミライ・ユくんの車は超猛スピードで加速し始めた!
「!?」
《!?》
「……ふっ」
《な……》
ドミニオンが何か言いかける前に、あっという間に追い抜いてしまった!魔法が解除される。
「ぷはあっ!!やっと息ができる……!いや、そんな場合じゃない!?」
目の前には、ぐにょぐにょとカーブの連続のコース。なのに。ミライ・ユくんは曲がる気がないのか、まっすぐと走っていた。
「え!?!?ミラ……!」
そう言いかけた時、車は……壁を貫通していた。
「!?」
《!?は……!?お前、何をした!?!?》
ミ「……これは、俺の、俺だけの魔法能力。オーバー・レインボー・ロード。これは……ノッている物の、物理情報を無視するッ!!」
グングンと真っすぐ走り続けるミライ・ユくん。
す、すごい…!ミライ・ユくんもすごいけど、何よりスピードがすごい!?」
時速150キロなんて余裕で越えてるスピードで走る車。そして、ミライ・ユくんは言う。
「そして、〈戦場〉にノッている時!」
「戦いは、勝利の運命へと進んでいく——ッ!!」
ミライ・ユくんはカチッと音楽をかける。
『カラフル・ハイウェイ』——明るいリズムと弾むようなメロディーが印象的な、車でのお出かけにぴったりなポップソング。窓を少し開けて風を感じながら走りたくなるような爽快感があって、聴いていると自然と気分が前向きになる曲調だ。友達との運転に最適☆
ドミニオンは。
言葉を失っていた。
《……ふざけるな》
声が震える。
《俺は……一日で何度も練習した》
《お前を超えるために……!》
赤い車が迫ってくる。
加速するドミニオン。だが、
「あ……!?」
ドミニオンはコースアウトしてしまった!空高くから車体が落ちていく。
《……!》
《は……》
《俺の……完敗ってわけ、かよ……》
死を覚悟するドミニオン。
落下していく車。
その目には。
悔しさと。
どこか、満足したような色があった。
でも。
次の瞬間。
バサッ!!
「なっ!?」
空から誰かが飛び込んできた。
「キアロくん!?」
キアロくんがドミニオンを抱えて、空を駆け抜ける。
「……全く。最後まで手のかかる相手だ」
そして落下する車。
そこへ。
「バター・チェンジッ!」
バロロさんが手を伸ばす。車体が光に包まれる。金属の塊だった車が。ぐにゃり。まるで巨大なバターのように柔らかくなる。そして。ドスン!!地面に落ちる。……しかし。壊れていない。
「……」
全員が静かになる。
そして。
ミライ・ユくんの車がゴールする。ゆっくり止まる。僕は隣を見る。
「……ミライ・ユくん」
「ん?」
「勝ったね」
ミライ・ユくんは。
一瞬だけ驚いた顔をした。
そして。
「……ああ」
小さく笑う。
「勝ったな」
その笑顔は。
今まで見たどんな表情よりも。
嬉しそうだった。
魔法能力がないと言われ続けた少年。
何もできないと言われ続けた少年。
でも。
彼は。
誰よりも大切なものを持っていた。
技術。
覚悟。
そして——。
信じてくれる親友。
夕焼けの中。
虹色の道は、まだ続いていた。
——サマー・ラッシュ・チェイサー。
決着。




