↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Venom Desire  作者: 永井健作
PR
17/24

第十七章 第二ラウンド、開始

 翌日の夕方。豪邸の庭。僕たちは、いつものように集まっていた。……昨日の戦いの疲れが残っているはずなのに。ミライ・ユくんは、いつも通りスーツを整えて、車の整備をしていた。

「……」

 僕はその姿を見ながら思う。昨日、あんなに苦しそうだったのに。それでも。ミライ・ユくんは、前を向いている。そんな時だった。

 ゴォォォォン!!

 森の奥から、巨大なエンジン音が響いた。

「……え?」

 皆が一斉に振り返る。木々の間から、一台の赤い車が現れる。昨日の車。オーバーテイク・ドミニオンの車だった。

「……また来たか」

 グリザイユくんが刀に手をかける。

「懲りない奴だな……」

 キアロくんも警戒する。車から降りてきたドミニオンは、ニヤリと笑った。

「ミライ・ユ」

「……」

「昨日の勝負、楽しかったぜ」

 ドミニオンは腕を広げる。

「だからよ、もっと最高の舞台を用意した」

「……舞台?」

 すると。ドミニオンの後ろ。森の中が、突然光り始めた。地面に魔法陣。木々の間を縫うように作られた道路。そして——

「……サーキット?」

 僕は呆然と呟く。森の中に。一周何キロあるのか分からないほど巨大な専用コースが出来ていた。

「ええええ!?」

 トロンプくんが叫ぶ。

「昨日まで何もなかったよね!?!?!」

「一日で……?」

 キアロくんも目を疑う。

「魔法を使ったとしても、この規模は……」

 バロロさんですら驚いた顔をしていた。

「恐ろしい執念だね……」

 しかし。そんな中。ただ一人。ミライ・ユくんだけは、落ち着いていた。

「……」

 ゆっくりとドミニオンを見る。

「……随分、準備がいいな」

「当然だ」

 ドミニオンは笑う。

「昨日の俺は負けたわけじゃない」

「ただ、準備不足だっただけだ。次は違う」

 赤い車を撫でる。

「今度こそ、お前を追い越す」

 静かな沈黙。そして。ミライ・ユくんは答えた。

「ああ。いいだろう」

「!!」

 皆が驚く。

「ミライ・ユくん!?」

 僕が声を出す。

 ミライ・ユくんは続けた。

「でも」

 一瞬。

 僕の方を見る。

「……カゲエくん」

「え?」

「今回は」

 ミライ・ユくんは少しだけ緊張したように言った。

「君が助手席に座っていてくれないか……?」

「……え?」

 空気が止まる。

「えええええ!?」

 トロンプくんが一番大きな声を出した。

「分かってるの!?ミライ・ユくん!敵は追いついた相手をどんどん衰弱させるんだよ!?カゲエくんにもその魔法はかかっちゃうよ!!」

「……分かってる」

 ミライ・ユくんは静かに答えた。

「でも。昨日、俺は一人で走ってた。技術も。経験も。全部、自分が積み重ねてきたものだって証明したかった」

 ミライ・ユくんは少し笑う。

「でもな。気付いたんだ」

「……」

「俺が一番、俺らしく走れる時って。誰かのために走ってる時なんだよ」

 僕を見る。

「昨日だって。カゲエくんや皆がいたから、最後まで諦めなかった。だから」

 少し照れくさそうに。

「今回も。隣にいてほしい。俺の親友として」

「……!」

 胸が熱くなる。

 一昨日。何も出来なかった僕。ミライ・ユくんが傷ついているのを見ているだけだった僕。でも。今度は。僕が隣にいる。

「……」

 皆も何も言えない。

 そして。

「……ミライ・ユ殿」

 キアロくんが小さく笑う。

「そこまで言われては、止められないな」

「だね~」

 グリザイユくんも笑う。

「ミライ・ユがそこまで信じてるならさ。俺たちも信じるしかねーよな」

 バロロさんも優しく頷く。

「カゲエくん。君が決めることだよ」

「……」

 僕は。ミライ・ユくんを見る。あの日。初めて友達になってくれた人。僕に「親友」って言ってくれた人。だったら。答えは決まっている。

「……分かった」

 僕は笑う。

「僕、ミライ・ユくんの隣に乗るよ」

「!」

「絶対に怖くない。だって」

 拳を握る。

「ミライ・ユくんは、僕が一番信じてる運転手だから!」

 ミライ・ユくんは一瞬驚いた顔をして。

 そして。

「……ふっ」

 小さく笑った。

「ありがとな」

 ドミニオンが車に乗り込む。

「決まりだな。なら始めようぜ。最高のレースを」

 夏の夕暮れ。

 森に作られた巨大サーキット。

 二台の車が並ぶ。

 一台は、魔法能力を極めた男。

 一台は、魔法能力を持たない男。

 そして。今回は。ミライ・ユの隣に。親友がいる。

「……行くぞ、カゲエくん」

「うん!」

 エンジンが唸る。

 ——サマー・ラッシュ・チェイサー


 第二ラウンドが、始まる。


 ◇

 エンジン音が、森全体に響き渡る。

 サーキットを二台の車が駆け抜けていく。一台は、赤い車。オーバーテイク・ドミニオン。

 もう一台は、ミライ・ユくんの車。

「……!」

 僕は助手席から前を見る。速い。昨日とは、明らかに違う。ドミニオンの運転技術が。たった一日で。別人みたいに上がっている。カーブ。直線。減速。加速。全てが完璧。

「……嘘……」

 思わず呟く。昨日までなら。ミライ・ユくんは、少しずつ距離を離していた。でも。今日は違う。離れない。むしろ——

「……近づいてる」

 ミライ・ユくんの車の後ろに。

 ドミニオンの車が迫る。

 バックミラーに映る赤い車。どんどん。大きくなっていく。

《どうした?》

 通信から、ドミニオンの声が聞こえる。

《昨日の俺とは違うだろ?》

 笑っている。

《一晩中、走った》

《お前の動きを研究した》

《お前の癖を分析した》

《お前の運転を、俺のものにした》

 ドミニオンの車が、さらに近づく。

《俺は認めない。魔法能力も持たない奴が、俺より上だなんて》

 ミライ・ユくんは。

 何も言わない。

 ただ。

 前だけを見ている。

 ハンドルを握る手。アクセルを踏む足。全てが迷いなく動いている。

 でも。

 ドミニオンは速かった。

「ミライ・ユくん……!」

 僕は思わず声を出す。

 だけど。

 ミライ・ユくんは答えない。

 ただ走る。

 サーキットの中盤。大きな下り坂。そこからの急カーブ。普通なら、少しでも判断を間違えればコースアウトする場所。

 でも。

 二台は同時に突っ込んだ。

 キィィィィィッ!!!

 タイヤが鳴る。

 車体が滑る。僕の体が横に引っ張られる。

「うわっ……!」

 でも。

 ミライ・ユくんは。

 寸分違わない操作で車を立て直した。

「……!」

 すごい。やっぱり。この人は。でも。次の瞬間。ドミニオンの車が。横に並んだ。

《見えたぞ》

 ドミニオンが笑う。

《お前の限界が》

 そして。アクセルを踏み込む音。一気に前へ出る。

「!」

 追い越された。

 その瞬間。

 空気が変わった。昨日と同じ。でも。今日は。僕もいる。

「……っ」

 胸が苦しい。

 息が浅くなる。

 体が重い。

「な、に……これ……」

 指先が震える。

 頭がぼんやりする。

 まるで。

 体の力を少しずつ奪われているみたいだ。

《どうだ?》

 ドミニオンの声。

《これが俺の能力だ。追いついた相手を、弱らせる。昨日はバロックロココの奴に邪魔されたが……今日は違う》

 赤い車が、前を走っている。

《助手席まで巻き込めば!お前らは、ここで終わりだーッ!!!》

「ぐ……!!」

 苦しい。

 息が。

 出来ない……!

「ミ、ミライ・ユくん……!」

 声を出そうとする。

 でも。

 力が入らない。

 目の前が揺れる。

 昨日。

 ミライ・ユくんが耐えた苦しみ。

 これを。

 ずっと一人で。

「……っ」

 悔しい。

 何も出来ない。

 隣にいるだけなのに。

 僕は——

 その時。ちらりと。ミライ・ユくんを見る。

「……」

 ミライ・ユくんは。何も言わなかった。焦ってもいない。怒ってもいない。苦しんでいる僕を見て、慌ててもいない。

 ただ。

 前を見て。

 ハンドルを握っている。まっすぐ。ただ。まっすぐ。走っている。

「……」

 ミライ・ユくん。

 一体。

 何を考えているの……?

 でも。その横顔は。昨日までの不安に揺れていた顔じゃなかった。決意した人の顔だった。ドミニオンの車は。もう。遥か前。完全に追いつかれている。そして。ミライ・ユの車は。今。

 最大の危機を迎えていた——。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
最大の危機!? それは、気になりますね!! ワクワクドキドキしながら、続きも読ませて頂きますm(_ _)m
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。