群治 第四話 群治再び捕まる
2週間ほど群治を見かけないので、早紀がまたさらったのではないかと思っていたら、新しいトレーナー上下を着てひょっこり現れた。
「おまえ、また安藤さんに飼われていたのか?」というと、
「地下酒場で働かされていただけだ」と言う。
事の発端は群治が見つけたスキ間バイトで、車で運べない裏路地の飲食店にオシボリの交換配達を自転車で行うというものだった。
ところが、そのバイト先が以前トラブルを起こした店の関連企業だったのだ。
群治は十数件の配達をした後、地下にある怪しいバニーガール酒場にオシボリを届けた。
するとそこに知っている顔があった。
「サナエちゃん、久しぶり」と言ってそいつは笑った。それは群治が以前、働かされていたガールズバーの店長・高橋だった。
「まだ借金があるの忘れてないよね?」
と高橋は言った。
群治が首をかしげると高橋は、「ガールズバーの一件だよ。弁護士が出て来て、表向きは終わったね。けど現実にはそうじゃないんだな。残りの2万円と弁護士に払った2万円、合計4万円はウチらの業界では残っていて、利息が付いて今じゃ17万円になってるんだわ」そう言いながら近寄って来た。
ダッシュして逃げればいいのにと思ったが、群治はヘビに睨まれたカエルのように動けなかったらしい。
「僕は昼間はガールズバーで、夜はこの店で店長をしているんだ。ここはね、借金まみれのオバサンたちが働いているバニー・オバサン酒場でさ。ガールズバーのように接客が難しくなくて簡単な職場なんだよ。家族的な雰囲気でみんな親切。いじめもされず、給料も結構高い。サナエちゃんなら2週間だけ働いてくれれば借金もクリアーできるよ。働いてくれるね」
と言われたようだ。不思議なことにこの時の高橋はあまり怖くなかったという。
「でも交換のオシボリを返さないと……」
群治が言い訳をして店を出ようとすると、「そのオシボリ屋さんもウチの会社なんだよ。だからサナエちゃんが最後にここに来るようにしておいたんだ」
そう言って群治が手に持っていたオシボリの束を取り上げた。
「そうと決まれば、これに着替えて待っててくれる? 先輩を寄こすから」
群治が逆らえずにバニーの衣装に着替えていると、けっこう明るめのオバサンがバニーの衣装を着込みながらやってきて、「あれ、久しぶりに若い子。あんた名前は?」と言った。
「群治……」
「コラコラ、サナエだろ。お前は」
高橋が笑いながら言った。
「こいつ、変な奴でなあ。ガールズバーでは役に立たなかったんだけど、ここなら大丈夫っしょ」
「そうね。ここには尖った子はいなくて、やさしいオバサンばかりだから。よろしくねサナエちゃん」
そう言われると群治は「あ、よろしくお願いします」としか言えなかったようだ。
店は夕方の6時開店だった
奥の方から三十代から五十代までのオバサンたちがゾロゾロ出て来て、年配の人はカウンターに入り、それより若い人はバニーの衣装を着けて整列した。
「今日からしばらく働いてくれるサナエちゃんだ。みんなよろしくね」
高橋がそう言った。
「この子の借金は?」バニーの中では年配の四十代くらいのオバサンが聞いた。
「17万。だから2週間くらいのご奉公だね。勿論もっといてくれたら優遇するけど」
「あら残念。すぐに帰っちゃうのね。私なんか十年もここでご奉公してるけど」
そう言って笑った。この人は金井さんと言って、パチスロで数百万円の借金があり、一度返済してもまた負けて戻って来るらしい。
そんなファミリーな雰囲気も看板に火が入ってお客さんが入ってくると、急に全員がプロらしくなった。
「あの、俺はどうすれば?」
群治が金井さんに聞くと
「俺っていうのは止めてね。あなたはただ、お客さんがお酒やオツマミを注文すると、それをテーブルやカウンターに運ぶだけ。その際にこれはウチのルールなんだけど、一回だけお客さんがあなたにタッチするの。おっぱいとかお尻とか。でも、嫌な顔はしないように。ウチは持ち帰り無しで安全安心の店だから。それさえ我慢できればいいのよ。特にあなたは若いし初々しいから喜ばれるわ」と言った。
実際にその通りだったという。
客は一回注文するたびに一度触ってくる。群治は若くて可愛いので、けっこう注文が多かったようだ。その際、おひねりを胸元に入れる客がいるが、これは借金の返済には充てられないが奉公明けに全部もらえるのだと聞かされた。
裏路地の分かりにくい場所で、地下なのに、このバニー酒場は結構繁盛していた。
バニーに触れられるのに比較的料金が安いという点が受けたのかもしれない。
開店するや、すぐに数人が入店してきた。客は若くて可愛い群治を見つけると喜んでお酒を注文してきたと言う。
「この子は2週間くらいしかウチにいないようだから、会いたかったら毎日来てね」
と最年長の京本さんがカウンター越しにそう言った。
理不尽な借金で無理やり働かされている群治だが、店の雰囲気は悪くなく、先輩バニーが結構面倒を見てくれるので居心地は良かったようだ。
普段は三十代から四十代のバニーだけなのにしばらくの間とはいえ、まるで十代にさえ見える群治が加わったことが噂を呼んで連日二十人しか入れない店は大混雑。
その間群治は、どのテーブルからもお呼びがかかって、まるで身代わり地蔵のようにスリスリ、ポンポン、ナデナデと大変な目にあった。
「そんなふうにお触りされるのは嫌だったんじゃないのか?」
と、俺が聞くと、
「客は俺の正体が48のオッサンだとは知らないからな。詐欺をやってる気分でさあ。まあ、触りたきゃ触ればいいって感じだったよ」とくったくなく笑った。
群治の奉公は高橋が言っていたように2週間で開けた。こういうところは裏業界の矜持なのかもしれない。
「金が必要な時はいつでもバイトに来てくれ」
高橋がそう言って別れ際にボーナス・十万円を群治に握らせたという。
第5話 同級生 は4月16 午後9時頃に貼ります。




