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現代の榴弾砲は高性能化に伴って、非情に〝スマート〟だ。信管に搭載できるほど小型化された電算機の登場で、弾頭自体が物を考えるようになっているのだから。
故に放たれた20mm砲は誘導通りに飛翔した後、内部のレーダーによって敵の真ん中まで到達したと判断した後に、最適箇所と自己判断した後に炸裂する。
そして、半径20mを襲う鋼の嵐。欠片一つ一つが対物ライフルを超える運動エネルギーを持った千個を超える破片の鉄槌に晒されて、敵の一団が木っ端の如く吹き飛んだ。
「おおー、流石は砲。雑魚には効果覿面だな」
原形を残しているのは巨人だけだが、満遍なく全体をぶん殴られたせいで内蔵機能の殆どを損なったのだろう。藻掻くだけで起き上がることすらできていない。小型はぐにゃぐにゃの肉袋みたいになって頽れ、生命反応は消失していた。
これで静音性さえ高ければな……。
「こちらアルファ1より2、効果を認める。ターゲット、オールキル」
『了。えーと、再装填は……』
観測のために身を潜めていた方から仲間達を見れば、ガコンと音を響かせて背部バックパックを全て砲撃用の装備に置換したM2が排莢と排熱を行っているところであった。
背中の真ん中から下を埋める四角い弾倉部分に砲弾が詰められており、そこから機構部を通して薬室に送られる仕組みであり、サブアームがなくても次弾を込められる造りになっていた。
とはいえ、カンパニーが送ってきた旧型なので、弾種を一々指定できる訳じゃないんだけども。弾倉を一々手で交換しなければ、弾種変更ができない、痒いところに手が届かない残念仕様である。
『再装填完了。次弾、いけるッス』
「撃たなくて良い。無力化できたが、次が来るぞ」
『えっ』
何処からか吠え声が聞こえた。洞窟を反響して音響素子が拾い切れていないが、肌感覚で分かる。
「アゼリア、そっちから見て六時の方向、皮癬餓狼共が来る」
『分かり、ました』
まぁ、あれだけの轟音を響かせたのだ。迷宮に入り込んだ異物を排除することを目的としている異形共が、反応しない道理がどこにあろう?
『さて、仕事、です』
リズが風切り音を立てながら戦槌を肩に担ぎ、獰猛に笑った。
そして、腰を低くとったかと思えば、一気に飛び出していく。
『絶叫 発生者:リズ』
彼女は重戦士であり、この面子の中では遅い方だ。同じく探索者最前線を突っ走る界隈の中でも、下から数えた方が良い方だと言えよう。
しかし、それでもM2の最高速と並ぶ程度の速度は出せるので、鍛え抜かれた西方人というのはおっかない。
その上、槌を振り下ろす勢いで雑兵の〝被弾部位〟が消し飛ぶ火力を出すのだ。
私のセンサーでは木っ端微塵になった、皮膚がボロボロに剥がれた痩せた狼のような怪異にどれだけの運動エネルギーが襲いかかったかは窺い知れない。計器が計測不能との推計を出しており、正直45mm砲並なんだろうなと分かるくらいだ。
「リズ、やり過ぎないでくれ。世界晶の回収が面倒になる」
『分かりました ※酷いスラングにより平易に翻訳しております』
彼女は重戦士の中でもトップの破壊力を持っている。酒場で短躯を揶揄ってきた先輩に跳び蹴りをかまし、一撃でノックアウトする様を何度か見てきた彼女の腕っ節は、自衛軍が地上掃射を主任務とする近接強襲攻撃機の機首機銃並ということだ。
っと、拙いな、見惚れている場合じゃない。やっぱ20mmの音はデカ過ぎるか。
「アゼリア、11時の方向から小人達が来る。約20。騒がしくし過ぎた。群れが合流してるようだ」
『リリム、護りを、任せ、ます』
『……はい……』
アゼリアは剣を鞘から払うと、そのまま姿がかき消えるような速度で駆け出していった。AI補正された映像ではブレた姿しか映らず――本来は迷彩を見抜く装備だ――補正を切ると辛うじて視覚素子が彼女を捉えていた。
その速度は生身で時速100kmを超えており、しかもトップスピードになるまで二秒という素早さだ。
そして、銀光が閃いた。
波のような線を描くそれは小人の群れの中を複雑な軌跡を描いて泳ぎ、通り過ぎて残影を連れた彼女が足を止めれば、まるで斬られたことを思いだしたように首がごろりと落ち、全力で走っていた体が数歩だけ歩いて次々に倒れていった。
『す、凄い……』
「これが異世界人だよ、佐々木さん」
といっても、彼女達は上澄みも上澄みだから、これを基準にしたら価値観がバグるかもしれないけど……まぁ、上を知っておくのはいいことだ。
しかし、思えば思うほど、彼女達は私が憧れたRPG世界の住人に近い。
鍛えれば鍛えるだけ強くなり、その強度はLv1の貧弱な時と対比すれば、生物として数百倍の強さになる。
正に私が憧れ、心を灼かれ、目指した世界。
ああ、何故私はこの世界に異世界人として生まれることができなかったのだろう。
古いアーカイブにあったような、異世界転生? とかいうジャンルの主人公達が羨ましかったよ。今では列島全体が異世界に転移するという事態が起こったせいで、往事に比べれば下火になったジャンルなれど、昔の人が好んだ理由は分かる。
自分ではない、もっと強い何かになりたい。
持っていない物を手に入れたい。
憧憬に一歩でも近づきたい。
分かるよ、本当に。
「おっと、八時方向からまた来るぞ」
『……コウヅキ、撃たせて、ください……』
「え? でもまた敵が……」
『……大丈夫です……』
何だと思って目線をやると、フェアルリリムは干渉式を練った杖で20mmの砲身をコツンとつついた。
これで大丈夫だというので、ならば我等が一党の魔法使いを信用してみようと巨人に体を含む一団に照準し、佐々木さんのFCSにデータをリンク。
「やれるかい?」
『りょ、了! 射撃姿勢に入ります!!』
再び膝射姿勢に入り、両手をクラウチングスタートのように地面に突いて安定性を高めた彼女は、火器管制システムが完全に敵を捕らえたことを伝えてきた。
「撃て」
『了!』
そして高性能榴弾によって敵が吹き飛び、弾よりも遅く伝播するはずの大気が揺れ……なかった。
「聴覚素子がイカれた? いや、干渉式か」
『……音を、阻む、カーテン……』
遮音力場といえば一部の特殊部隊が、対抗周波を発して無音を強制的に作り出すことができる装備であり、300mm砲や艦船搭載用レールガンにも搭載されているが、機密技術の結晶過ぎて軍の外に出ることはない。
科学の結晶、数十億の開発費を投じ巨大軍事企業三社の合同開発で、ようやく成功した製品が一人の手で実行される。
ああ、何と言うか、流れ星を捕まえて敵に叩き落とす派手さはないが、むしろ理不尽さでは上回っているようにさえ思える。
うん、深く考えるのはやめよう。ここは常識を試される土地。色々と諦めておかないと気が変になるのは自分だ。
「ちょうどいいな、砲撃の練習をしよう。次、4時から来るぞ。方向転換急げ」
『りょ、了!!』
その日、我々は〝迷宮内の怪物を壊滅させる〟という中々有り得ない方法で、Ⅱ等級のダンジョンを踏破し、帰宅することとなった…………。
常識が向こうの常識で塗りつぶされると、さて何が残るのでしょうか。
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