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陽菜乃は初日がこれでいいのかと大いに困惑したが、二日目も外骨格を起動した以外、仕事らしい仕事をせず終わろうとしていることに困惑していた。
これから仕事を共にしてくれるという先輩達は、昼間っから酒を飲んでできあがってしまっていた。
頼れる上司であるコウヅキさえ「これも業務だから」といってジョッキに口を付けて、勧められるがままにグビグビと飲んでいる。
彼女自身は飲酒可能年齢ではないのでと、彼が鬱陶しく絡もうとしたリズを止めてくれたから何とか魔の手から逃れられていたが、コンプライアンスという単語を写経でもしたような下士官でもなければ、実際に飲まされていたかもしれない。
奇妙な時間だ。これを食べなさい、これを飲みなさいと色々押しつけられて、翻訳機如しに矢鱈と『えらい』『感心した』『私は、あなたの味方です』と半泣きになって話かけてくる金髪の女性。
自分を一瞥したあとは、邪魔にさえならなければいいと黙々酒を飲むだけの、如何にも魔法使いといった――そういえば、列島の特撮は干渉式のプロを雇ってCGよりも品質が上がったと人気であった――風情のフェアルリリムも『頑張れ』と一言激励してくれたのを、他の面子は意外そうに見ていた。
そして、一番構いたそうにしているベリアリューズは、性質が悪いからとコウヅキが上手いことブロックしている。ただ、彼女としては他の二人と違って、女ならば自分のために戦うべきだろうとの持論をブチ上げているが、それはスラングが酷く、殆ど翻訳されていないため伝わっていなかった。
ここら辺は、親から大事にされてこなかったどころか、酷い修道院にブチ込まれたリズには理解できない感情なのだろう。
なので彼は面倒になったのだろう。普段はペース配分を決めてやっているところだが、リズに飲みたいように飲ませ、そのまま潰して五月蠅い口を閉じさせようと決めたようだった。
そして、潰れた頃に便所に連れて行って、喉に指を突っ込んで吐かせようと、ギルドハウスの寝床に放り込むべく背負って運んでいると――膂力が嘘のように彼女は軽いのだ――頭に反吐を吐きかけられたトラウマを背負う彼は計画している。
「あの課長……」
「ん? どうかした?」
「いや、いいんですか? 訓練とかしなくて……」
ああ、とコウヅキは酒が回り始めて、上機嫌に歌っているリズが肩に手を回そうとしているのから上手く逃げつつ、優しく微笑んだ。
「まだ体力回復しきっていないだろう?」
「えっ、いや、それは……」
ごにょごにょと言い訳をしようとしている陽菜乃に、兵卒の王様たる下士官は隠すな隠すなと笑った。
彼にとって部下を見守り、限界が近いかどうかを判断するのは仕事だったのだ。
下士官権限で閲覧できる、隊員のバイタルだけではなく、挙動の一つからも状態を察して元気に戦えるかどうかを見て、小隊長に派遣する隊員の進言をしなければならなかった彼にとって、陽菜乃の空元気なんぞ見破るのは容易かった。
「君だって、寝不足で部活に来る馬鹿くらい分かっただろう?」
「あー……ッス。そういうのは、危ないから追い返してたッスね……」
これが耐久訓練、ギリギリまで追い込んで限界を理解させるカリキュラムなら話は別だが、じっくり育てようと決めた今、無茶をさせるつもりはなかった。
むしろ、外骨格はタフネスの教育を省くためにあるものだ。
それをして当人の体力と極限に耐え得る精神力を求められるレンジャーや郷愁偵察要員ならまだしも、彼女はPMCのオペレーターとして教育する。
だとすれば、早々に万全な状態を取り戻して貰った方が良い。
「安心してくれ。元気を取り戻したら、部活が温かったと思うくらい扱いてやる」
「望むところッス!」
「キツいぞ、外骨格があっても一日中第一匍匐するのは」
「匍匐前進っすか?」
「中腰で這うって方が正確かね」
匍匐前進といえば伏せきって行うイメージが多いが、これには段階があって地面に膝を突き、片手を支えに進む形もある。
強固な外骨格があったとして、関節への負荷はどうしても避けられない。故に、これがまたキツいのだ。普通に歩いたり走ったりするのとは使う筋肉が違いすぎて、体力自慢の男であっても、不慣れ故に数分で根を上げることがあるほどに。
「だから今は楽しむと良いよ。みんな良い人だしね」
「了!!」
元気よく返事して、構いたそうにしているアゼリアに翻訳機を向ける陽菜乃。
彼女は部長もやっていたようだが、人なつっこさから可愛がられる後輩気質も併せ持つ。良い感じに馴染んでくれそうで、上司としては一安心といったところのコウヅキ。
しかし、気になるところもある。
「いいのかね、ウチに合わせて下級ダンジョン挑むなんて」
最初、彼は実施研修を二人で低級ダンジョンにて行うつもりであった。それならば自分だけでもお守りができるし、寄越された半端な20mm砲パックでも役に立つだろう。ダンジョンの主として出てくる怪物も中型異形が精々であろうし、死の危険を孕むような罠も少ない。
ただ、それに正比例して〝アガリ〟も少ないため、熟練冒険者の三人を付き合わせるつもりはなかった。
しかし、三人はそれに付き合うと言ってくれた。報酬は少なくていいと。
アゼリアは下級の探索者が十分いるわけでもなし、新たに来た大手PMCは大型ダンジョンにしか興味がないため、小粒なダンジョンに困らされている人は多いため貢献したいと気合いを入れている。
何とかかき集めた小銭を握りしめて、ギルドを訪ねた人々を助けることは高貴なる務めの一つであると、随分乗り気であった。
フェアルリリムは、最近大物ばっかり狩っていたので雑魚狩りの腕前が落ちている気がするとして、雑兵が蠢くダンジョンに武者修行に行くのは悪くないと同意した。彼女がその程度で腕を落とすか? とコウヅキは訝しんだが、女は直截にお前が心配だからと言わない生物であることを知らぬが故だ。
そして、フェアルリリムもまた、同行を申し出た。
何でも、食べて霊力を養うのに丁度良い、使い捨てて惜しくない品質の世界晶ストックが切れてきたそうだ。彼女は身に蓄えた霊力は膨大であるが、この間のように連続して挑む仕事の際は、流石に全力を保ちたい時は世界晶を摂取して霊力を補っている。
そのため、ある程度は品質の低い、言うなれば小腹が減った時に摘まめる〝軽い〟ものがほしい時があるのだ。
そして、その採取に低級ダンジョンは最適なのである。
五級の世界晶を宿した小人がワラワラいるし、四級もそこそこ採れる。
面倒な解体作業をやってくれる新人がいるというのであれば、むしろ手間が減っていいと、少しの照れ隠しを混ぜて同道を申し出たのだ。
斯くして、ドラゴンスレイヤーの一党が低級ダンジョンに潜るという奇妙な構図が生まれることとなったのである。
「さてはて、優しく厳しく……塩梅が難しいな」
コウヅキは、これで新人が死ぬことは万が一にもなくなったが、逆にダンジョンをイージーゲームだと勘違いされたら困るなと、何とも扱い辛い悩みを抱えるのであった…………。
パワーレベリング、お好きでしょう?




