第二百五十二話 僕よりも張り切っていたもの
スラちゃんとピーちゃん達の偵察は一週間続き、続々と証拠が集まった。
それでも、スラちゃんとピーちゃん達は捜査の手を緩めず、これでもかという量の情報を集めた。
「正常な取引に見せかけて、資金をプールさせていたのか。金額も大きいし、常習性も見受けられる」
情報の分析をするエレンお祖父様も、思わず呆れるレベルの証拠だった。
強制捜査ができるだけの材料が整い、軍も準備し始めた。
そして、軍の事務棟の会議室に関係者が集まった。
「強制捜査は、奴らが直轄領に行く前に行う。強制捜査の命令書の手続きを取っているから、命令書が発行され次第直ぐに向かう」
「「「「「はい」」」」」
ヘルナンデス様の捜査方針に、僕達は頷いた。
今回は、何と僕が捜査指揮を執ることになった。
これも将来に向けての勉強だと、ヘルナンデス様のみならず他の人達も是非やるようにと言った。
うーん、個人的にはクリスに捜査指揮をやってもらってもいいと思ったりして。
というか、クリスは将来の軍の幹部候補だ。
「奴らは、子爵家に集合しているという。明日の直轄領行きで、あれやこれやと考えているのだろう。良い機会だから、一網打尽にしてしまおう」
今回問題になっているのは全部で四家で、一番爵位が上なのが子爵なので僕と対等だ。
だが、新興貴族だと相手にしない可能性が高いので十分気をつけないと。
と、ここでヘルナンデス様の通信用魔導具に連絡が入った。
「強制捜査命令書が発行された。ケンとスラちゃんの通信用魔導具にも送られている。存分にやってくるように」
「「「「「はい!」」」」」
ヘルナンデス様の激に、僕達も勢いよく返事をした。
僕の顔見知りの兵が、僕達の護衛としてついてくれる事になった。
さっそく馬車に乗り込み、準備していた部隊と共に目的地の子爵家へと向かった。
僕、クリス、エレンお祖父様、ミュウさんに加え、スラちゃん達やピーちゃん達、更にミュウさんの魔物やトラちゃんまでいた。
余程の相手じゃない限り、魔物が千匹いてもあっという間に殲滅できるとヘルナンデス様も大変満足していた。
なお、他の三家にもそれぞれ部隊が向かった。
「しかし、あのちびっ子だったケンが部隊式を取るとは。時間が経つのも早いな」
「そうだな。今じゃ、こんなに大きくなったもんな」
馬に乗る兵が、馬車の窓越しに何だか感慨深そうに話をしてきた。
同行しているエレンお祖父様も、兵の話を聞いてニコニコとしていた。
そう思うと、僕も何だか不思議な感じだ。
そんな話をしているうちに、あっという間に子爵家に到着。
僕達は馬車から降り、さっそく門兵に通信用魔導具の画面を見せた。
門兵は、突然現れた軍の大軍にポカーンとしているね。
「宮廷魔導師のアスター子爵です。陛下の命により、強制捜査を実施します。今すぐ開門して下さい」
「「「「「ガルル!」」」」」
「「はっ、はい!」」
僕が突きつけた強制捜査命令よりも、キングレオやトラちゃん達の大きな唸り声の方が効果的だったみたいだ。
門兵は急いで開門し、更に屋敷へと向かった。
僕達も急いで門兵の後をついて行ったのだが、ここでスラちゃん達はピーちゃん達に乗ってもらって二階のバルコニーから侵入してもらった。
ガチャ、ギギギギ……
「宮廷魔導師のアスター子爵です。これより、強制捜査を開始します」
「「「「「ガオー! ガオー!」」」」」
あの、キングレオにトラちゃん達、張り切り過ぎてちょっと唸り声が大きすぎるかも。
僕の声が、殆ど周りに聞こえなかったよ。
そして屋敷中に響き渡るキングレオとトラちゃん達の大きな唸り声に、屋敷にいる使用人は恐慌状態に陥った。
恐怖の余り腰が抜けてしまった人もいるぞ。
ああ、キングレオとトラちゃん達がやり過ぎてごめんなさい。
そして、僕達は屋敷の執務室へと向かった。
ガチャ。
「宮廷魔導師のアスター子爵……」
「「「「「ガオー! ガオー!」」」」」
「「「「「ヒィィィ……」」」」」
執務室に入って、強制捜査を宣言しようとしたんだけどなあ。
キングレオ、トラちゃん達、お願いだからちょっと静かにしようね。
この前謁見の間で見た四人の横に大きい貴族に加え、執務室内にいた貴族夫人と思われる女性、執事、使用人までもが、魔物の唸り声に腰を抜かしていた。
では、改めて。
「宮廷魔導師、アスター子爵です。横領、贈収賄、架空取り引きなどの罪状により、これより強制捜査を開始します。大人しくするのでしたら、手荒な真似はしません」
「「「「「ガルル……」」」」」
「わ、分かったから、分かったから、その魔物を遠ざけてくれ!」
あーあ、子爵に限らず貴族当主は大パニックになっちゃった。
貴族夫人の中には、恐怖で気絶している人もいるね。
その間に、クリス、エレンお祖父様、ミュウさんがササッと帳簿などを確認した。
スラちゃん達が確認済みだから、再確認かな。
うーん、この部屋も金品や豪華なものがたくさんあるなあ……
「ケン君、架空取引と資金プールを確認した。四家と夫人を連行して構わない」
「「「「トホホ……」」」」
四家の当主は、あっさりと見つかった証拠にガックリとしていた。
エレンお祖父様確認済みと通信用魔導具で連絡し、直ぐに連行の手続きを取った。
気絶した貴族夫人は、担架に乗せられて運ばれた。
更に、鑑定魔法で執事や使用人の罪状も確認して、罪状がある人は連行した。
屋敷内もスラちゃん達が動いており、問題のある商人が拘束されていった。
う、うーん、あっさりと終わっちゃった。
「まあ、この子達が張り切った結果と言えよう。ちょっと、張り切りすぎの時もあったがな」
「役に立とうと、頑張ったみたいです。頑張りすぎのところもありましたけどね」
エレンお祖父様とミュウさんも、役目を終えて休んでいる魔物たちにちょっと苦笑していた。
こうして、ほぼ怪我人を出すことなく主犯の子爵家の捜索をする事が出来たのだった。
なお他の三家では若干抵抗があったらしいが、念の為について行ったリーフちゃん達によってほぼ何事もなく終わった。
代理当主になったのが僕よりもまだ年が若いが、こればっかりは仕方ないと思ったのだった。
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