第二百三十三話 崩落した橋の復旧作業
僕達は、ブレッド様の後をついて執務室から食堂へと移動した。
すると、一人の若い女性が僕達を出迎えてくれた。
紫髪のセミロングで、背は低いがスタイルはとても良かった。
「皆様、はじめまして。シェイク子爵夫人のマリアーナと申します。どうぞ、宜しくお願いします」
マリアーナ様は、ニコリとしながら頭を下げた。
僕達も順に挨拶をしたが、マリアーナ様のあるところに目が行った。
「わあ、随分とお腹が大きいですね」
「ガウッ」
「もう臨月ですので、もうそろそろ出産となりますわ」
興味津々なクリスとトラちゃんが、にこやかに自身のお腹を撫でるマリアーナ様に話しかけていた。
何人もの出産に立ち会っているスラちゃん曰く、恐らくもう間もなく出産だと予測していた。
早速指定された席に座って食事なのだが、僕は貴族当主なのでブレッド様の隣に座ることになった。
「今回は、乾杯を省略させて頂く。ある程度復旧作業が完了したら、改めて労いの会を開く予定だ」
ブレッド様の方針に、僕達も頷いた。
今は、目の前の災害復旧に対応しなければならない。
早速食事が目の前に運ばれ、直ぐに食事を始めた。
「普段なら、兵の教育も兼ねて現場作業を行う。しかし、今回は人の命がかかっている。ケンの力を借りて、一気に進めないとならない」
ナッシュさんは、お肉を食べながら話を進めた。
今回はとても急ぎの対応だから、どうしようもないですね。
「僕も、今回はしょうがないと思っています。幸いにして工兵が同行していますので、僕がやった内容は他の人にも伝える事ができます」
「まあ、ケンの場合は人海戦術でコツコツとやる事を魔法で一気に行う。作業実績をまとめれば済む」
ナッシュさんだけでなく、他の人も問題ないと頷いていた。
工兵だけは、責任重大だとかなり緊張していた。
そして、急いで食べ終えたタイミングで通信用魔導具に連絡が入った。
「陛下からです、作戦オッケーが出ました。人命救出を最優先に、迅速に対応する様にとの指示です」
「「「「「はい!」」」」」
「「「「ピィ!」」」」
「ガウッ!」
他の人も問題ないと声をあげ、直ぐに準備を整えた。
そして、僕達は直ぐに屋敷の外に出た。
「じゃあ、みんな宜しくね」
「「「「ピィ」」」」
庭に出ると、ピーちゃん達はアクアちゃん達を背に乗せて鉱山へと飛び立った。
僕達も、用意された馬車に乗って河川が氾濫した現場に急いで向かった。
現場に着くと、目の前にもの凄い光景が広がっていたのだ。
ズゴー!
「うわあ、これは凄いよ!」
「ガウガウ!」
だいぶ収まってはいるがそれでも目の前には濁流が流れており、街道と一緒になっている川肌の一部がごっそりと削られていた。
更に対岸へと続く橋も流されており、これでは確かに鉱山へと向かう事はできない。
安全の為にシェイク子爵領兵が周囲を警戒しており、住民も不安そうに河川を眺めていた。
「えっと、ブレッド様、ナッシュさん、浚渫して川幅を広げつつ、護岸工事をする。そして、仮設の橋を作るでいいですか?」
「うむ、それで良い。ここは重要地点だから、早く直さないと行けない」
「取り敢えず、これでいこう。では、周囲から人を遠ざけよう」
ブレッド様とナッシュさんと簡単に打ち合わせを行い、僕、スラちゃん、カレーちゃんは魔力を溜め始めた。
その間に、シェイク子爵領兵が周囲の住民を下がらせた。
すると、ブレッド様が集まった人達にこんな説明をしたのだ。
「諸君、王都より宮廷魔導師でもある【蒼の治癒師】様が来られた。これより奇跡を目にするかもしれないが、【蒼の治癒師】様にとっては造作もない事だ」
「「「「「おおー!」」」」」
あの、ブレッド様、その言い方は少し語弊を呼びそうですけど。
集まった住人が感嘆の声を上げる中、僕、スラちゃん、カレーちゃんは地面に手をついて溜めた魔力を解放した。
シュイン、シュイン、ぴかー!
ズゴゴゴゴゴ……
「な、なんだこれは!? 切れた堤が直っていくぞ?」
「川幅も直っていくし、道も直った……」
「こっち側だけでなく、対岸も直っていくぞ。何がどうなっているんだ?」
住民はかなり驚いているが、対岸も地面で繋がっているから一気に直せるんだよね。
まだ濁流が流れているから、浚渫は一旦待ちです。
「ふう、僕達を起点にして半径五キロ程の川の護岸工事をしました。強化した土の上に、普通の土を置いています。なので、護岸はかなり硬くなっています」
「こ、これ程の工事を一瞬にして行うとは……」
ブラッド様だけでなく、途中でついてきた工兵やトラちゃんも目玉が飛び出そうなくらい驚いていますね。
ナッシュさんやクリスは、何故かドヤ顔をしているけど。
「じゃあ、今度は仮設の橋を作りますね。最初に、護岸をもう少し強化してっと……」
シュイン、ズゴゴゴゴ……
僕達は、再び地面に手をついて護岸の再工事を始めた。
更に、川底からかなり圧縮した土の土台をせり出した。
濁流の中でもびくともしないから、強度は大丈夫ですね。
「そこに、土魔法で圧縮した橋を出現させて。安全のために、欄干もつけてっと……」
ズゴゴゴゴゴ。
「「「「「うそ……」」」」」
馬車がすれ違えるくらいの幅にして、荷物を積んでも大丈夫なくらいの強度にします。
勿論、雨や水に濡れても大丈夫な加工もします。
「取り敢えず、仮設の橋ができました。じゃあ、今度は対岸に行って鉱山までの道の修復をしますね」
「あ、ああ……」
ブラッド様は、突然橋が現れた目の前の光景にまだ夢気分な感じだ。
僕達は、出来上がった橋を渡って対岸に到着した。
「えーっと、うーん土砂崩れを起こしている所は直接行かないと駄目だね」
ズゴゴゴゴ……
がけ崩れみたいになっている所は、今は後回しにした。
道自体があまり良くなかったので、纏めて修復した。
「よしっと、一旦これで大丈夫ですね。ナッシュさん、周囲の確認をお願いします。問題なければ、街道は通行許可できます」
「それくらいは、こちらもやらないとな。ケンは、少し休んでくれ」
まだまだ魔力は大丈夫だけど、僕達はナッシュさんの指示で強制的に休憩を取ることになった。
我に返ったブラッド様も、領兵に周囲を確認する様に指示を出した。
「いやはや、これが噂に名高い【蒼の治癒師】様の魔法なのか。想像していたものの何倍も凄いぞ!」
「「「「「うおー! すげー!」」」」」
「わわっ!?」
そして、ブレッド様はかなり興奮しながら僕の両肩をパンパンと叩いた。
住民はまだ規制線の外だが、こちらも歓声を上げていた。
でも、まだまだ復旧作業は序盤戦だ。
僕達は、水を飲みながら鉱山の方に視線を移したのだった。
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