第二百三十二話 シェイク子爵領に到着
翌朝、僕達は朝早くから出発の準備を整えた。
昨日暴れた兵は、処分方針が決まっているのでそのままお任せだ。
新たに二人の工兵が合流し、僕達を乗せた魔導船はシェイク子爵領へと出発した。
「予定だと、午前中のうちにシェイク子爵領にある軍事基地に到着するね。その後はシェイク子爵と面会して、午後からさっそく行動開始の予定になっています」
「シェイク子爵はブレットと言って、俺と同じ年の軍人気質の男だ。本人は最前線で指揮を執りたいのだろうが、流石に領主に死なれては駄目なので家臣が懸命に抑えているだろう」
ナッシュさん曰く、シェイク子爵は銀色ツンツンヘアの大男だという。
どんな人なんだろうと想像しながら、時間は過ぎていった。
そして、シェイク子爵領に隣接する軍事基地に近づいた時だった。
「あっ、あの山が鉱山だ。確かに、ここからでも山道が崩れているのが分かるな」
遂に、目的の鉱山が魔導船の窓からでも確認できた。
僕も双眼鏡を使って窓から鉱山を眺めると、がけ崩れが数か所確認できた。
大きな岩が転がっている所も確認できたし、これは大変な事になっていると直ぐに分かった。
こうして周囲の確認をしつつ、魔導船は無事にシェイク子爵領郊外にある軍事基地に無事に到着した。
「ナッシュ、久しぶりだな。いやあ、とっておきの助っ人を連れてきてくれて本当に助かったよ」
出迎えてくれた軍の司令官は、またもやナッシュさんに気軽に話しかけた。
ナッシュさんの交友範囲って、本当に凄いと改めて感じた。
馬車の準備をする間に、司令官から簡単に話を聞く事にした。
「大雨が五日間続いて、その影響で災害が発生した。山道の土砂崩れや河川の越水が発生したが、幸いにしてシェイク子爵領の領都は無事だ。だが、下山できない坑夫が百人以上いる。いずれにせよ、早急に対応しないとならない」
河川の氾濫は以前から起きている所で、少しづつ対応していたという。
ところが、今回過去に例のない規模で雨が降ったので一気に崩れたという。
「自然の猛威の前に、人は無力だと改めて実感した。だが、ここで立ち止まってはいけない。既に部隊を向かわせたが、明日には別の軍事基地からも応援が来る」
司令官は、真剣な表情で僕達に決意を示した。
困っている人がいる以上、助けないといけないのは僕も同じ気持ちだ。
馬車の準備ができたので、さっそく司令官室を後にしてシェイク子爵領へと向かった。
なお、司令官も僕達と一緒についてきた。
パカパカパカ。
「領都は、なだらかな坂の町なんですね」
「鉱山の付近にある、比較的平らな場所に町が作られている。標高は高いが、過ごしやすい場所だ。冬は雪が積もるがな」
馬車から見える景色は、まさに街道の宿場町といった雰囲気だった。
鉱山町に加えて宿場町の性質もあり、人も多く中々賑わっていた。
災害復旧ではなく普通に旅行に来たならば、さぞかし楽しく過ごせたのかと思った。
そんな町の少し小高い丘に領主の屋敷があり、僕達を乗せた馬車も屋敷へと向かった。
「皆様、長旅お疲れ様です。執務室へ案内いたします」
屋敷の玄関に着くと、直ぐに使用人が出迎えてくれた。
使用人の先導で屋敷に入ったが、沢山の剥製が僕達を出迎えた。
恐らく、周辺の山地で倒した大物を剥製にしたのだろう。
クリスもスラちゃん達も不思議そうに剥製を眺めていたが、トラちゃんは自分が
剥製にされるのではと少しビクビクとしていた。
コンコン。
「失礼します。旦那様、皆様がお見えになりました」
「おお、そうか。通してくれ」
ガチャ。
執務室に入ると、複数人が地図を囲んでまさに災害復旧の打ち合わせの真っ最中だった。
そんな中、一際大柄な銀髪の短髪をツンツンヘアにしたイケメンが僕達に歩み寄った。
「シェイク子爵家当主、ブレッドだ。遥々王都からの救援、感謝する」
ブレッド様は、大きな手で僕達一人ひとりと握手をした。
スラちゃん達とも握手をしてくれたし、トラちゃんの頭も優しく撫でてくれた。
そして、僕達も直ぐに席についた。
「しかし、ナッシュは凄い助っ人と親戚になったな。私も、かなりびっくりしているぞ」
「ははは、こればかりはどこでどういった縁が繋がるか分からないからな」
ブレッド様とナッシュさんだけでなく、多くの人が僕の事を見ていた。
うう、流石にそこまで見られると恥ずかしいよ。
「どうやら、【蒼の治癒師】様は恥ずかしがり屋の様だな」
「ケンは、いつもこんな感じだぞ。偉ぶったりはしないから、未だに食堂のおばちゃんとも友好的だ」
「嫌われるよりもいいではないか。それだけ、多くの人に愛されている証拠だ」
ブレッド様とナッシュさんは、上機嫌で僕を見ていた。
場の空気を和ませようとしているのは分かったが、そろそろ本題へと移りましょう。
「現在確認されている被害だが、川の越水が二カ所に土砂崩れが五カ所だ。落石で通りにくい場所もあるので、被害の全容は分かっていない」
ブレッド様が地図を手にして説明してくれたが、越水の影響で山道に向かう大きな橋が流されてしまったという。
街道の一部も深くえぐられており、これが被害調査や復旧作業に大きな影響を与えていた。
「さて、ケンならどうする?」
すると、ナッシュさんが僕に話を振ってきた。
ナッシュさんだけでなく、この場にいる全員が僕に視線を向けた。
うーん、この案はどうかな?
「まず、坑夫への食糧と治療、それから上空からの被害確認の為にピーちゃん達とアクアちゃん達を鉱山へ派遣します。その間に、僕、スラちゃん、カレーちゃんで河川の復旧と仮設の橋を作ります。明日以降、順次山道の土砂崩れを直します。出来れば、僕がトラちゃんに乗って鉱山側と麓から両方で土砂崩れを直したいです」
僕が案を出し、スラちゃんやピーちゃんも問題ないと言ってくれた。
すると、他の人達は思わずぽかーんとしていた。
正確には、僕達の魔法を知っているクリスとナッシュさん、それに王都から派遣された兵は苦笑していた。
「ははは、流石は【蒼の治癒師】様だ。そんな作戦を立てるとは、恐れ入った。優秀な仲間がいるからこそ、これだけの作戦を立てることができる」
ブレッド様は、上機嫌で通信用魔導具を操作した。
僕の立てた作戦で問題ないか、陛下など各所に確認するためだ。
「では、確認の間に昼食としよう。腹が減っては、満足な仕事はできなからな」
そう言い、ブレッド様はスッと席を立った。
さてさて、陛下はどんな判断を下すのかな。
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