第二百三十一話 暴れている兵
「あなたは、トラちゃんなのね。とっても可愛いね」
「ガウッ」
魔導船が安定飛行に入ると、少し怯えていたフォレストタイガーも落ち着きを取り戻した。
何というかそのままの名前だが、本人が気に入っているらしいのでそのままにしておこう。
なお、三羽のサンダーホークは名前がないらしく、後で名前をつけて欲しいとアピールしていた。
勝手に名前をつけていいのかと思ったが、飼い主のミュウさんも許可をしていた。
クリスとスラちゃん達が名前をあーだこーだー考えていたので、僕は暫く待つことにしよう。
「あー、河川の氾濫はやっぱりあそこかぁ。前にも氾濫を起こして、補修していたっけなぁ」
「そうなると、単に補修するだけでは駄目ですね。現地を見ないといけないけど、別の対策をしないといけませんね」
僕は、ナッシュさんと通信用魔導具にもたらされた情報を整理していた。
土砂崩れの箇所も土地の補強なども必要で、やる事はたくさんありそうだ。
「取り残された坑夫の所にスラちゃんがピーちゃんに乗って飛んでいけば、アイテムボックスに入れた食料を運べるはず。時間さえ稼げれば、街道復旧に専念できそうです」
「全く、その一時的な対応が大変なんだよ。ケンは、あっさりとそういうのをクリアしようとするな」
僕の立てた作戦に、スラちゃんとピーちゃんも頑張るぞと意気込んでいた。
クリス達も混ざってあーだこーだ話をし、こんな感じでやりますよというのを通信用魔導具で各所に伝えた。
やりすぎない程度にとの謎の指示が入ったが、先ずは現地の様子を見ないといけない。
こうして色々と話をしている間に時間が過ぎていき、僕達を乗せた魔導船は夕方前には今日宿泊する軍事基地に到着した。
「魔導船の魔石への魔力補充は、さっきクリスが行いました。なので、出発準備も軽減できると思います」
「クリスは、そんな事もできるようになったのか。昔と比べると、随分と成長したものだ」
到着後の整備も、みんなでパパッと済ませた。
ナッシュさんも驚くほど、クリスも軍人として大きくなっていた。
その後、僕とスラちゃんとナッシュさんはこの軍事基地の司令官室に顔を出した。
クリスは、シロちゃんと共に軍事基地内の怪我人の治療を頼まれた。
きちんと軍の偉い人の許可も取ったし、トラちゃん達が護衛しているし、クリスも強いから大丈夫だろう。
「しかし、あのナッシュが【蒼の治癒師】様の義理の兄になるとはな。世の中、ほんとうに分からないものだな」
「ははは、そうだな」
基地の司令官はナッシュさんの知り合いらしく、かなりフランクに話しかけていた。
ナッシュさんも、旧友との再会を喜んでいた。
「明日は、基地の工兵を二人同行させる。ある意味、良い現場研修となるだろう。もっとも、【蒼の治癒師】様の魔法は参考にならないと思うがな」
「クリスの魔法剣も、ほぼ参考にならないだろう。とはいえ、何をしているかは参考になる。経験を積むのは良いことだ」
魔導船にはまだ乗員可能なので、直ぐに二人を連れて行く事が決まった。
後で、ナッシュさんが王都に情報共有するという。
その後も、物資の積込などの話をしていた。
ところが、ここで思いがけないトラブルが発生したのだ。
「し、失礼します。また、あの兵が王都から来られた方達に噛み付いております。現在は、お連れしているスライムの拘束魔法にて捕縛されました」
「はあ、またあの馬鹿か。貴族出身で、自分は偉いのだぞと思い込んでいるのがいるのだよ……」
報告を聞いた司令官も、思わず頭が痛いという表情をしていた。
どうやら、父親と兄と似た性格の兵がいるらしい。
その兵は拘束されているとはいえ、何かをしたのは間違いなさそうだ。
しかも、よりによって治療部屋で問題を起こしたみたいだ。
僕達も、急いで司令官室から治療部屋へと向かった。
「くそ、何で俺が捕まるんだ! さっさと治療しろ!」
すると、縄でぐるぐる巻きにされていながらも大騒ぎしている兵が床に転がっていた。
クリスのみならず、シロちゃん達や治療部屋にいた兵もかなりプリプリとしていた。
とりあえず、クリスに話を聞いてみよう。
「シロちゃんと負傷兵を治療していたら、いきなりこの兵が入ってきたのよ。お前らは、王都から来て俺の事を馬鹿にしているのかってね。しかも、突き指レベルで治療しろと言ってきたのよ。骨折も靭帯も痛めてないので少しすれば治ると言ったら、また大暴れしたのよ」
クリスもかなり困惑気味だが、僕もナッシュさんも正直意味が分からなかった。
えーっと、状況を整理してっと。
「怪我は置いておいて、何でこの兵は王都から来た僕達を目の敵にしているんですか?」
「単に、成績不良で王都からこの基地に飛ばされたのだよ。だから、都落ちしたと思っているんだ。そこにたまたま皆が来て、自分を馬鹿にしているのだと思い込んでいるみたいだ」
司令官も溜息を漏らす程に、この兵は思い込みをしていたんだ。
でも、僕達はキチンと許可を取って治療しているし、そもそもこの兵の存在や背景を全然知らないもんね。
「えっと、僕達は国王陛下の命によりシェイク子爵領の災害復旧へと向かっています。この軍事基地で一泊する事になっています。なので、貴方がクリスに暴行を働こうとした事は、陛下の命を阻害する事になります」
「はぁ?」
僕が陛下の命令書を兵に見せながら説明をしても、兵は興奮してそれどころではないですね。
スラちゃんがこっそりと鎮静化の魔法を兵に掛けたけど、効果が全くなかった。
治療しても突き指以外に悪い所がないし、逆にもう僕達ではどうしょうもない。
あっ、返信が返ってきた。
「陛下より、あなたに命令が下りました。武装解除した上で、牢に入れます。帰りの魔導船に乗せられて、王都で軍事裁判を受ける事になりました。どうやら、王都にいた時に複数の傷害事件を起こしているみたいですね」
「ふざけるな! 何で、俺が牢屋に入らなければならないんだ!」
駄目だ、僕が懇切丁寧に説明しても兵は益々興奮して話を聞かなかった。
もうしょうがないと、僕はある魔法を使った。
シュイン、もわーん。
「なっ……ぐぅ」
睡眠魔法を使って、兵には眠ってもらいます。
これなら、当分は大人しくなるはずですね。
グーグーと寝ている兵は、担架に乗せられて運ばれていった。
「うーん、まだ父親や兄みたいな兵がいるんですね」
「こればっかりは、どうしようもないぞ。確か、あの兵はそこそこ剣の腕がある。だからこそ、のぼせ上がっていたのかもしれないな」
ナッシュさんも、もう打つ手無しって感じだ。
その間に、治療部屋に入院していた負傷兵全ての治療を終えた。
でも、あの調子なら治療とか関係なく僕達に食って掛かってきた可能性が高い。
何にせよ、軍も不正には厳しくなったし、ここはしっかりと罰を受けてもらいましょう。
読んでいただき、誠にありがとうございます
ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!
作者のモチベーションも上がります!




