第二百十五話 パレード開始です
僕とクリスは、ササッと控室へと移動した。
これから馬車に乗ってパレードをするのだけど、もう少し準備に時間があった。
他の貴族が大教会内から出る必要もあったし、僕もクリスも一息つけたかった。
「クリス、ビーズリーさん大丈夫かな?」
「多分、今日は駄目かも。さっきお母様が教えてくれたけど、お父様は私が産まれた時にも号泣していたらしいわ」
クリスは先程の父親の姿に苦笑していたが、それだけビーズリーさんは感受性が強いのかもしれない。
それだけ、クリスが結婚して感無量だったのかも。
その後もクリスと雑談をしていたのだが、一向にパレードに呼ばれないのが気に掛かった。
「様子を見てきますので、少々お待ち下さいませ」
案内役のシスターさんも心配になり部屋を出たが、何故か直ぐに引き返してきた。
しかも、シスターさんはかなり慌てていた。
「あ、【蒼の治癒師】様、大変です。大教会に、重傷者が運ばれました!」
「「えっ!?」」
完全に予想外の情報に、僕とクリスは思わず顔を見合わせてしまった。
だが、結婚式であっても重傷者は治療しないといけない。
僕とクリスは、急いで控室を出た。
「えーっと、あ、あそこ……おや?」
「あれ? あの担架に乗せられている人ってもしかして……」
僕とクリスは、大教会の入口付近に運ばれていた担架を見つけた。
すると、担架にうつ伏せで乗せられている大男を見てびっくりしてしまった。
「うぐっ、畜生……」
「ユータ、しっかりして!」
背中に傷を負ってスラちゃん達の治療を受けていたのは、なんとユータだったのです。
少しお腹が目立ってきたスィーパーが心配そうに声をかけていたが、ユータの傷はかなり深そうだ。
それでも悪態をつく事が出来る辺り、ユータは頑丈だと思った。
周りにいる人もかなり心配そうにしており、ユータをよく知っている王太后様も心配そうにしていた。
「スラちゃん、シロちゃん、レモンちゃん、僕も治療するよ!」
シュイン、ぴかー!
僕は、魔力を溜めて回復魔法を放った。
スラちゃん達の治療のお陰でかなり良くなっていたが、それでもかなりの重傷だ。
ユータの頑丈な体だからこそ助かっているのであって、普通の人なら間違いなく死んでいただろう。
「ふう、これで何とか治療できました。でも、何でユータがこんな大怪我を負ったのですか? ユータの実力なら、簡単に敵を倒せると思うんですけど」
「その、実は折角だから指輪を買おうとしたのよ。しかも【蒼の治癒師】様の結婚式で、商店街がフェアをやっていたわ。そうしたら、パレード前に強盗が入ったのよ。よりによって、店の子どもを人質に取ったわ」
スィーパーが状況を教えてくれたが、どうやら強盗はパレードが始まる前なら警備も厳しくないと思ったみたいだ。
ちょうどパレード出発前なので軍の兵も集まっており、強盗も手負いのユータによってノックアウトされた。
「出血量が多いので、教会の治療施設に入院しないと駄目ですね。というか、ふつうの人からしたら生きているのが不思議なレベルです」
「はは、伊達に鍛えてないからな……」
弱々しい声ながらも、ユータは僕に返事をした。
あれだけの治療をすれば、普通は体力回復の為に寝るはずだ。
すると、今度は王太后様がユータに話しかけた。
「ユータも、子どもができて情が湧いたのかね。まあ、良い傾向よ。もうすぐパレードが始まるから、見てから搬送するわ」
「ははは、こりゃありがてーな。まさか、【蒼の治癒師】様のパレードを間近で見るなんてな」
王太后様も、ユータへの治療が上手く行ってホッとしていた。
やはり、王太后様はとても優しい人だ。
僕は、ユータの血で汚れた服を生活魔法で綺麗にした。
すると、ちびっ子達がニコニコ顔で僕に声をかけた。
「「「「「パレード、頑張ってね!」」」」」
「「ウォン!」」
ちびっ子達は、ズバッと町の方に指を差した。
すると、とんでもない光景が広がっていたのだ。
「わあ、流石【蒼の治癒師】様ね。どんな時でも、怪我人をお救いになるわ」
「折角の豪華なモーニングなのに、血がついても気にせずに治療していたわ」
「新婦も、ウェディングドレス姿で【蒼の治癒師】様に心配そうに寄り添っていたわ。もう、お互いに心が通じ合って居るのね」
あの、アーサー様の時よりも多くの人が集まっているのは気のせいでしょうか。
しかも、口々に僕がユータを治療した事を褒めていた。
その間にも、更に数多くの町の人が大教会周辺に集まってきた。
「陛下、僕はこの人数が集まるだなんて完全に予想外です……」
「そうか? 元々、有名な【蒼の治癒師】様の結婚式だ。更に、こんな状況でもケンは怪我人を治療した。ああ、その怪我人が子どもを守ったのいうのも一つあるな」
陛下は、ニヤリとしながら治療を終えているユータを見た。
商店街で大捕物があったのも、人を呼ぶ呼び水になったみたいだ。
他の人達も、もう観念したらとニヤリとしながら言っていた。
僕とクリスは、思わずガクリとしながらオープンタイプの馬車に向かった。
スラちゃんも一緒についてきたが、チビスライム達は王家や子ども達の護衛として残っていた。
ガチャ。
「おっ、やっと来たな。ははは、この先も凄い事になっているぞ」
隊長として先頭にいるゴードン様が、機嫌よく話していた。
その情報を聞くと、更に緊張しちゃいそう……
「ゴードンよ、出発するのだ」
「はっ、出発!」
「「「「「わぁ!」」」」」
僕とクリスが緊張している間に、陛下が出発の合図をした。
沿道に集まった人はもう大興奮で、しかもとんでもない数の人があつまっていた。
僕とクリスは、何とか笑顔を作りながら沿道に手を振った。
スラちゃんも、周囲を警戒しながら触手をフリフリとしていた。
パレードは大教会から商店街を抜けて貴族街を通るのだが、どこも、人、人、人だらけだ。
小さい子どもから年配の人、それこそ屋敷の使用人なども屋敷から手を振っていた。
「あっ、ようやく屋敷が見えてきたよ」
「本当だね。でも、まだまだ沢山の人がいるよ」
僕の屋敷の周囲にも、本当に沢山の人が集まっていた。
とてもありがたい事なのだけど、もうそろそろ笑顔のしすぎで頬の筋肉がつりそう……
僕とクリスは、ラストスパートと気合を入れて沿道に集まった人に笑顔で手を振ったのだった。
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