第二百九話 新人回復魔法兵への指導
仕事をしたり学園の教師の準備をしたりと忙しい日々を過ごす中、今日は久々に軍の施設に向かった。
最近は会議などで予定が潰れていたし、事務作業ばっかりだったので体を動かしたいと思っていた。
でも、午後からは王城で仕事なんだよなあと思いながら、僕、スラちゃん、ピーちゃんを乗せた馬車は軍の施設に到着した。
「ケン、来たね。今日は、新人治療兵を指導しながら負傷兵の治療をしてね。治療が終わったら、王城に行っていいわ」
軍の施設に到着すると、クリスとチビスライム達が僕達を出迎えてくれた。
チビスライム達はクリスか屋敷に分かれている事が多く、特にリーフちゃんとアクアちゃんは結婚式の準備を手伝ってくれる事が多かった。
リーフちゃんとアクアちゃんはアイテムボックスが使えるので、フリージアお祖母様とケーラさんもとてもありがたがっていた。
ぴょーん。
そして、僕の肩にシロちゃんとレモンちゃんがぴょーんと飛び乗った。
二匹とも、今日の僕の活動を手伝ってくれるみたいだ。
という事で、僕達は早速軍の治療施設へと向かった。
すると、治療施設の入口に少し不安そうにしている銀髪ロングヘアの背の高い女性がいた。
新人治療兵は、多分あの人かな。
「ごめんなさい、待たせてしまいましたか?」
「ひゃぁ!? あの、大丈夫です!」
新人治療兵は、僕が声をかけたのと僕の姿を見た事の両方で驚いていた。
僕達も少し驚いたけど、ここは僕から自己紹介をしないと。
「ケン・アスター子爵です。宮廷魔導師を拝命しています、宜しくお願いします」
「ご丁寧にありがとうございます。私は、アリシア・ドルーリーです。ドルーリー子爵家の出身になります。【蒼の治癒師】様、宜しくお願いします」
アリシアさんはかなり緊張していたが、貴族令嬢らしく丁寧な返事をした。
すると、シロちゃんとレモンちゃんがアリシアさんに触手をフリフリとしながら挨拶をした。
「その、クリスさんが私に良くしてくれまして。その縁で、シロちゃんとレモンちゃんと知り合いました」
あれ?
もしかして、クリスは最初から今日僕が教える相手を知っていたのかな。
後で、詳しく聞いてみよう。
玄関で立ち話もなんなので、早速治療施設に入った。
「おばちゃん、おはようございます」
「あら、ケン君じゃないの。久し振りだね」
「元気そうにしていて、何よりだね」
たまたま調理室のおばちゃんと鉢合わせしたが、おばちゃん達は相変わらずパワフルだ。
おばちゃん達と別れて、僕達は大部屋へと向かった。
「おっ、ケンじゃねーか。久し振りだな。今日は、いつもの嬢ちゃんと一緒じゃねーのか?」
「今日は、新人治療兵の指導で来たんです。クリスは、自分の仕事をしていますよ」
「はは、そうか。あのチビだったケンも、今じゃ宮廷魔導師様だもんな」
大部屋に入ると、たまたま僕の知り合いの兵がベッドで寝ていた。
足を怪我しているみたいだが、体調はかなり良さそうだ。
すると、アリシアさんは僕と兵のやり取りを少し不思議そうにしていた。
「クリスさんの言う通り、ケン様は色々な方と仲が良いのですね」
「そりゃ、ケンが六歳の頃から知っているからな。兵や職員には、ケンを自分の子どもみたいに見ているのもいるぞ」
僕が父親と兄によって軍の物資として送られて以降、色々な人達が僕にとても良くしてくれた。
結婚式にも参加してくれるし、僕にとって恩人みたいな人達だ。
では、早速治療を始めよう。
アリシアさんは聖魔法使いだけど、治療の原理は一緒だ。
「最初に、治療対象者に軽く魔力を流します。すると、相手のどこが悪いかが分かります。そして、相手の悪い所を治すイメージで回復魔法を放ちます。そうすると、ただ回復魔法を放つよりも効率的に魔力を扱えます。因みに、この負傷兵は足の骨折の他にお腹に少し淀みがあります。お酒の飲み過ぎですね」
「ははは、ちょっと飲み過ぎたな。でも、入院している間は酒は飲んでねーぞ」
景気よく笑う負傷兵に、少し場の雰囲気も明るくなった。
早速、アリシアさんに実践して貰うことに。
シュイン。
「あっ、確かに足だけでなくお腹からも反応がありました」
「うん、それで良いですよ。じゃあ、悪い所を治すイメージで治療しましょう」
「イメージ……」
軍の魔法訓練でも、イメージはとても大切だと教えられていた。
アリシアさんも、集中しながら回復魔法を放った。
シュイン、ぴかー!
「おっ、足の痛みも良くなった。嬢ちゃんは、中々の腕だな」
「わっ!?」
怪我が治った兵は、上機嫌でアリシアさんの頭を撫でていた。
念のために僕も確認したが、きっちりと治療できていた。
「じゃあ、早速他の人も治療しましょう。僕はアリシアさんについているから、スラちゃん達も治療をお願いね」
スラちゃん達は、任せろと触手をフリフリとしていた。
こうして、どんどんと治療は進んでいったのだった。
「おっ、ここにいたのね」
「あっ、クリスさん」
三つ目の大部屋に入院している負傷兵を治療しているタイミングで、クリスが様子を見に来た。
クリスとアリシアさんのやり取りを見る限り、本当に知り合いなんだ。
「アリシアは見ての通り美人だからね、ちょっかいを出す勘違い野郎がいるのよ。でも、ケンは美人に慣れているから大丈夫だと思ったのよ。様子を見るために、敢えて何も言わなかったけどね」
つまり、クリスは敢えて僕にアリシアさんの事を教えなかったんだ。
僕だって、キチンと節度は守りますよ。
「ケン様は、本当に丁寧に指導してくれました。それに、ケン様がいると他の人達もみんな笑顔になっていましたわ」
「この軍の施設には、ケンの知り合いが本当に多いからね。私も小さい頃から軍の施設で魔法の訓練をしていたけど、その時からケンは色々な人に声をかけられていたよ」
「ケン様は、色々な人に愛されているのですね」
アリシアさんとクリスのほのぼのとした会話を聞き、何故か大部屋にいる負傷兵は僕の事をニヤニヤとしながら見ていた。
うん、気にしないようにしよう。
さて、次の負傷兵は初めて会うけど、左手の小指を切断していますね。
打ち身もあるけど、ちゃちゃっと治療しよう。
シュイン、ぴかー。
「え、ええー!? ゆ、指が!」
僕が治療を終えた負傷兵は、小指が再生しているのにかなりびっくりしていた。
これには、周りにいた負傷兵も思わず苦笑していた。
「相変わらず、ケンの魔法はデタラメね。私も、両足の重度の骨折を治して貰ったから、あの負傷兵の気持ちは分かるけどね」
「こ、これが【蒼の治癒師】様の回復魔法。私の回復魔法とは、レベルが違いすぎる……」
クリスは、苦笑しながら驚愕しているアリシアさんの肩をポンポンと叩いていた。
その後は、クリスも加わって大部屋に入院している負傷兵の治療をした。
無事に午前中で大部屋に入院している負傷兵の治療を終え、個室はシロちゃんとレモンちゃんが対応してくれる事になった。
軍にもキチンとした回復魔法が使える治療兵ができ、僕はホッと胸を撫で下ろしたのだった。
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