第二百一話 キケン伯爵家への捜索
僕、ルーカス様、ローリー様は、馬に乗ってキケン伯爵家に向かう事になった。
レモンちゃんとミカンちゃんは、このままジル工務店の捜索の協力をするという。
スラちゃん、シロちゃん、ピーちゃんが僕達についてくる事になった。
「王城の補助金だけでなく、善良な市民も食い物にしていた。父上はかなり怒っていて、叔父上も今回の作戦に参加する事になった」
正式に貴族家への強制捜索となったため、ヘルナンデス様が既に部隊と共にキケン伯爵家に向かっているという。
僕達も急いで現地に向かうと、何故か兵が門番といざこざを起こしていた。
ガシャンガシャン!
「おい、今直ぐに門を開けろ!」
「ぐっ、お、お館様の命で開けられない!」
おお、中々の使用人根性を見せていますね。
門兵も中々難しい立場なのだろうけど、ここは押し通してもらいましょう。
シュイン、ガチャ。
「「「えっ!?」」」
僕は、新たに覚えた解錠魔法を使って固く閉ざされていた門を開けた。
門兵も軍の兵も思わずぽかーんとしていたが、これは日々の魔法訓練で覚えたものだった。
「お前らの気持ちも分かるがな、どっちの命令が上なのか分かるはずだ……」
「はい……その通りです」
ヘルナンデス様は、ガックリと項垂れる門兵の肩をポンポンと叩いた。
そして、僕達は屋敷へと向かったのだがまあ庭がある意味凄いことになっていた。
「ヘルナンデス様、ルーカス様、庭がキンキラキンです。何で銅像が沢山あるんですか?」
「流石にしらんぞ。これは、製作依頼者に話を聞かないといけないな」
「あの銅像を作るだけでも、相当な費用がかかっているな」
当主の銅像らしい物もあったが、似ているのか全然分からなかった。
ここは、本人に聞かないと駄目ですね。
ガチャガチャ。
「玄関にも鍵が掛かっています。直ぐに開けます!」
「ケン君、やってくれ」
僕は、ヘルナンデス様とルーカス様が見守る中、再び解錠魔法を使った。
ガチャガチャ、ガチャ。
門よりも開けるのに手間取ったが、玄関も無事に開いた。
そして僕達が屋敷内に入ると、予想外の事が起きていた。
「王国軍だ、これからキケン伯爵家への強制捜査を行う」
「あ、あ、ぐ、軍の方ですか? お館様が急に倒れまして……」
「なに!?」
強制捜査執行命令を宣言したヘルナンデス様も、流石に使用人の話を聞いてびっくりしていた。
すると、潜入捜査をしていたリーフちゃんとアクアちゃんが僕達の前に姿を現した。
ふりふりふり。
「当主は、つい数分前まで苛立った様子で暴れていたそうです。ところが、ほんの今さっき胸を押さえながら倒れたそうです」
「心臓発作か? 何にせよ、直ぐに向かわないと」
既にスラちゃんとシロちゃんが執務室に向かっているが、僕達も急いで向かわないと。
僕は、ヘルナンデス様、ルーカス様、ローリー様と共に執務室に向かって走り出した。
「国軍だ!」
「うぐっ、む、胸が……」
ドサッ。
「お、奥様!? キャー!」
そして、ヘルナンデス様が先頭で執務室に入ると、今度は横にかなり大きい中年女性が胸を押さえて大きな音を立てながらうつ伏せで倒れた。
使用人の悲鳴を聞き、僕は急いで中年女性を治療した。
シュイン、ぴかー!
「ぐっ、贅沢の影響で身体がボロボロです。発作は収まりましたが、身体中の悪いものが全然良くなりません!」
「どうやら、キケン伯爵も同じみたいだな。辛うじて生きているレベルだ。自業自得としか言えそうにないな」
ルーカス様も、もはや打つ手なしって表情だった。
それもそのはず、二人は醜いほどに太っており、明らかに脂肪が体につき過ぎだ。
心臓のみならず体中がボロボロになっていて、もはや僕やスラちゃんでも治療の限界だった。
「【蒼の治癒師】のケン君ですら治療ができないのだから、こうなってしまってはもはや時間の問題だろう。以前老齢の方は関節の歪みを治せなかったと聞いたが、今回も長年の不摂生が原因と言えよう」
ヘルナンデス様は、もう打つ手なしとして兵に瀕死の二人の搬送を指示した。
軍の治療施設に運ばれるのだろうが、あの状態では聴取は不可能だろう。
治療以前に体力がもうなく、僕もスラちゃんも打つ手なしだった。
「とはいえ、証拠があれば問題ない。確か息子夫婦もいたはずだから、聴取は息子夫婦に行うとしよう」
「「「「「はっ」」」」」
ヘルナンデス様は、気持ちを切り替えて改めて捜査の指示を出した。
その間に、リーフちゃんとアクアちゃんが事前に調べた物を次々とテーブルの上に運んでいた。
因みに息子夫婦は王城で働いているそうで、王城にいる部隊が対応することになった。
「でも、王城にはクロちゃんがいるから、悪い人なら直ぐに判明しますよね?」
「判明するということは、そういうことなのだろう。碌でもない親を持つと、本当に大変だ」
クロちゃんは筆談ができるので、怪しい人がいたら直ぐに兵に報告できる。
きっと、二人は何か情報を持っているのかもしれないですね。
贅沢するなとは言えないけど、あまりにも過度だと身を滅ぼすと改めて思った。
そして、今度は僕の通信用魔導具に王城に来るようにと連絡が入った。
間違いなく、聴取を受けているキケン伯爵の息子夫婦の件だ。
僕は、ピーちゃんと一緒に馬に乗って王城へと急いだのだった。
「その、父が怪しい業者と何かをしている事は知っておりました。その度に、怪しい銅像や金品が増えておりました。しかし、両親は私達夫婦には全く教えてくれませんでした。今となっては、もっと早く他の方に相談しておけば良かったと後悔しております」
「実は、両親は度々胸がおかしいと言っておりましたが、【蒼の治癒師】様の治療を勧めても決して首を縦に振りませんでした。【蒼の治癒師】様の治療でも駄目だという事は、恐らくそういう事なのだろうと覚悟しております」
応接室で会ったキケン伯爵の息子夫妻は、僕よりも少しだけ年上だった。
どうやら、キケン伯爵は陰でこそこそと色々やっていたらしく、息子夫婦を鑑定魔法で確認しても嘘はついていなかった。
だが、自分に不利になりそうな事もキチンと話しているのでとても好印象だった。
そして、聴取に同席していたアーサー様がある事を宣言した。
「現状、キケン伯爵が意識を取り戻す可能性は低いと言わざるを得ない。たとえ意識を取り戻したとしても、もはや今まで通りに動く事は不可能だろう。そこで、そなたを臨時当主として今後の対応にあたる事を命ずる」
「アーサー殿下、この度は両親が大変な迷惑をおかけし申し訳ありません」
「私からも謝罪いたします。本当に申し訳ありません」
息子夫妻は、立ち上がってアーサー様に深々と謝罪した。
僕も失態を犯した父親と兄の事で周りの人に謝罪していたから、息子夫婦の気持ちも何となく分かった。
息子夫婦への聴取はこれで終了し、業務を終了して屋敷に戻ることになった。
「何というか、息子が優秀でも両親が駄目な事ってまだまだあるんですね」
「あの息子夫婦は業務も真面目で評価も良い。だからこそ、両親は息子夫婦に嫉妬していた可能性もある。今になっては、事実は闇の中だがな」
アーサー様も、思わず溜息をついた。
僕も、何となく微妙な気持ちになっていた。
でも、悪い事は駄目だから、対応を進めないといけなかった。
僕はこのまま陛下の執務室に戻って仕事をする事になるのだけど、今回の事件の対応はまだまだ続く事になったのだった。
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