第百四十話 司令官室での慟哭
結果的に、戦闘自体は二時間も経たないうちに王国の圧勝で終わった。
沢山の捕虜が運ばれてきては、僕達が頑張って治療していた。
前回も思ったけど、攻撃よりも圧倒的に治療の方が大変だった。
捕虜は逐一麓の軍の施設に護送され、護送用の馬車がひっきりなしに動いていた。
「くそ、俺を解放しろ! この国がどうなってもいいのか!」
捕虜の中にはかなり大きなことを言っているものがおり、鑑定したら帝国軍の幹部だった。
他にも、幹部クラスの帝国兵がぞろぞろと出てきた。
更に、魔法兵も多数捕虜となっていた。
魔法が放てないように、魔法兵用の拘束魔導具も使った。
魔法兵はかなり大人しくしていたが、どうも多数の魔法を撃ち込んだのに王国を落とせなかったのが原因らしい。
うん、その、お疲れ様です……
「帝国側には、王都から連絡を入れている。帝国側の陣地は、厳重に警戒しながら占領するように。その際に、備品などの破壊は厳に禁ずる」
「「「「「はっ」」」」」
ジーグルト様は、帝国側の陣地を警備する兵に厳命を下した。
王国兵は違うのだぞと、改めて見せつけるためだ。
こうして、大体のことが落ち着いたのはオヤツの時間になってからだった。
僕たちは、一旦司令官室に集まることになった。
「ルーカス様、クリス、皆さん、兄が大変なことをして本当に申し訳ありません。その、クリスに人を斬ることをさせたなんて……」
冒頭、僕は集まっている人たちに深々と頭を下げた。
何というか、本当に兄が情けなく、そしてクリスに本当に申し訳ないと思った。
色々な感情がぐるぐると回ってポタポタと涙を流していたら、誰かが僕の体をそっと抱きしめる感覚があった。
「ケン、一人で抱え込まないでいいのよ。私もいるよ」
「クリス、スラちゃん……」
クリスだけでなく、スラちゃんたちも僕をギュッと抱きしめてくれた。
そして、暫くの間僕は涙が止まらなかった。
「ご、ごめんなさい。思わず泣いちゃいました……」
「ケン君、泣きたい時に泣いていいんだ。ケン君の実家の件は、今までずっと心に刺さっていたんだ。でも、もう大丈夫だ。ケン君は、ようやく解放されたんだ」
ルーカス様も、問題ないと僕に言ってくれた。
まだ実感はなかったけど、兄も裁判にかけられることは確定だ。
そうなると、爵位も完全に国に返上となるはずだ。
あと、クリスが大丈夫だよと手を握ってくれていて、スラちゃんたちも僕の周りに集まって心配ないと言ってくれた。
そして、クリスはこんなことを言ってきたのです。
「あの、私は人を斬ったとは思っていないよ。まるで魔物以上の何かだったよ。ミュウさんのお友達の方が、余程良い子だと思ったよ」
「私も、もはや人の心を無くした何かにしかみえなかった。周りの状況などお構いなしに、自分の欲望の赴くままに動いていた」
ルーカス様の言葉に、スラちゃんたちもふにふにと頷いていた。
もう、兄は僕の治療を受けたとしても駄目だったのかもしれない。
そして、ルーカス様がこの場を切り替えた。
「さて、帝国側の話をしよう。帝国より、三日ほど待つようにと連絡があった。三日後に、帝国側陣地にて停戦の下交渉を行う。ジーグルトは基地の指揮があるので不在だが、それ以外のここにいるメンバーが交渉に参加する」
ルーカス様の方針に、僕たちはコクリと頷いた。
僕とルーカス様は前回の停戦交渉にも参加したし、今回はナッシュさんやスラちゃんたちもいる。
なお、チビスライムたちは交代で国境の施設の警備にあたるそうだ。
「三日後の下交渉に合わせて、ヘルナンデス様が王都から来ることになっている。大規模な衝突だったとはいえ、実質二日間で終えている。王国も、下手に事を荒立てることは考えていない」
怪我人や死者も出たが、死者数だけ見ると今までの単発的な衝突と同じ位らしい。
もちろん、僕たちがたまたま国境にいなかったら大変なことになっていた。
前回の単発的な衝突といい、本当に運が良かったのかもしれない。
「当面の方針はこんなものだな。治療などの必要はないから、ケン君は明日から気にしていた防壁の強化を行ってくれ」
「はい!」
ルーカス様は、僕が気持ちを切り替えられるようにやり甲斐のある仕事を与えてくれた。
クリスは、ナッシュさんと共にルーカス様の補佐をするという。
その後も今後の事を話し合って、打ち合わせは終了した。
丁度夕食の時間だったので、僕たちは司令官室から食堂に移動した。
「はあ、とっても疲れました。でも、魔法をいっぱい使ったのでお腹ペコペコです……」
「腹が空くってのは良いことだ。いっぱい食べて、いっぱい寝るんだな」
「じゃないと、身体が大きくならないぞ。ケンは、まだまだ背が低いからな」
夕食を食べようとした僕に、トレーを持った顔見知りの兵がニカッとしながら声をかけました。
こういう時に、明るく声をかけてくれる存在ってとてもありがたい。
「そういえば、ケンが六歳でここに来た時はどうだったの?」
僕の隣に座るクリスが、夕食をもぐもぐと食べながら兵に質問してきた。
スラちゃんは六歳の頃の事を大体のことを知っているが、チビスライムたちもかなり興味津々だ。
「ガリガリに痩せていて物凄いちびっ子がやってきたかと思ったら、あっという間に負傷兵を治療していくんだからビックリしたぞ」
「確かに、凄く小さかったな。なのに、魔法はとんでもなかったな。そういえば、試しに撃った魔法がとんでもない距離を飛んで山を直撃したぞ。みんな、唖然としていた」
「全員ケンの境遇を知っていたから、特に女性兵がケンを可愛がっていたな。あと、お風呂なども作ってくれたのはありがたかったぞ」
こうして、昔の僕を知っている兵が色々と話をしていた。
クリスとチビスライムたちだけでなく、ナッシュさんもふむふむと頷いていた。
そして、いつの間にか他の兵も集まって話を聞いていた。
僕はというと、そんなところまで言うのとちょっと恥ずかしくなってしまったのだった。
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