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神のい(ら)ない世界  作者: ..
5.1. 修学旅行編
19/21

金髪の少女

 ハロウに乗って数十分。


 恒星達は、ニューヨーク有数の観光名所――タイムズスクエアへとやって来ていた。


 巨大なビル群。

 無数のビルボード。

 ネオンサインに埋め尽くされた街並み。

 その光景だけなら、恒星が元いた世界のニューヨークと大きくは変わらない。

 ――AR技術が存在している事を除けば。


 建物の壁面には立体映像が浮かび、人の視線に反応して広告が切り替わる。

 空中には案内表示が幾重にも重なり、道行く人々は当たり前のように空中のウィンドウを操作していた。

 現実の街へ、もう一つ別の世界が重なっている。

 そんな感覚だった。


「くしゅん」


 突然、未由来が小さなくしゃみをした。


「大丈夫か? 風邪か?」

「ん……違う。ただ、ちょっと寒い……」


 未由来は肩を小さくすくめる。

 人見知りしているのか、本当に寒いのか。

 相変わらず感情が読み取りづらい。


(未由来って、小動物みたいだって女子に可愛がられてるけど……自分から話すタイプじゃないよな。まだクラスにも馴染みきれてないのかな?)


「寒いのは、空に浮かんでいる建造物群が日光を遮っているからですね」


 クレアが説明する。

 恒星は改めて上空を見上げた。


 空には、巨大な建造物群が幾重にも浮かんでいる。

 そのサイズは凄まじい。

 地上より太陽に近い位置に存在しているせいで、広範囲へ影を落としていた。

 だが、完全に暗いわけではない。

 建造物の下部――中心付近には、白く輝く巨大な光源が浮かんでいた。


「あれは……」

「人工太陽です」


 クレアが続ける。


「空中都市によって日光が届かなくなった区域のために造られた物ですね。本物の太陽ほど熱量はありませんが、光量自体はかなり近いですよ」


 確かに、見上げるだけで目を細めてしまうほど眩しい。

 恒星は未由来へ視線を向けた。


「ほら、これ使いなよ」


 そう言って上着を差し出す。

 未由来は少し驚いたように目を瞬かせた後、小さく頭を下げた。


「……ありがとう」


 その様子を見ていた綾人も、


「風邪引かれたら面倒だしな」


 と言いながら、自分の上着を光へ渡していた。


「それじゃあ散策を開始しましょう。私はこの付近にいますので、何かあればすぐ呼んでくださいね」


 どうやら、ここからは班ごとの自由行動らしい。

 とはいえ、この班分けも“生徒を一人にさせていません”という建前に近い。

 別に全員で固まって行動する必要は無かった。

 その証拠に、八雲は説明が終わった瞬間、一人でどこかへ消えていた。


「何というか……自由な奴だな」


 恒星は苦笑しながら、綾人達と歩き始める。

 そろそろ昼時という事もあり、まずは食事場所を探す流れになった。

 ――のだが。


「なぁみんな。飯より先に、あそこ行ってみたくないか?」


 綾人が指差した先。

 そこには、小規模なカジノ施設があった。

 入口付近では派手なホログラム演出が流れ、観光客らしき人々が次々と中へ入っていく。


「確かに気にはなるけど、年齢的にアウトじゃないか?」

「カジノに年齢制限なんて無いぞ。それに王様から金いっぱい貰っただろ。少しくらい遊んでも問題ないって」


 綾人がにやりと笑う。

 恒星も少し迷った。

 剣術を始める前――両親が死ぬ前の自分は、ゲームが好きだった。

 だから、こういう場所には少なからず興味がある。

 元いた世界の日本にはカジノなんて存在しなかった。

 だからこそ、余計に。


「……少しだけだからな」


 そうして恒星達は、カジノへ足を踏み入れた。

 中にはスロットマシンが並び、ルーレットやカードゲームのテーブルが広がっている。

 もっと騒がしい場所を想像していたが、意外にも落ち着いた雰囲気だった。


 所持金の一部をチップへ交換し、何を遊ぶか周囲を見回していると、一つのテーブルへ人だかりが出来ているのが見えた。


「なんだ?」


 近づいてみる。


 そこでは、一人の少女がブラックジャックをしていた。

 年齢は恒星達と同じくらいだろうか。

 制服のような服装。

 だが何より目を引いたのは――積み上がったチップの量だった。


(なんだあれ……)


 最高額らしき紫色のチップが、山のように積まれている。

 周囲の客の話によれば、彼女は最初からほとんど負けていないらしい。

 一度もバストせず、勝ち続けているという。


「そんな勝てるもんなのか……?」


 恒星も興味本位で別テーブルへ座り、ブラックジャックを始めてみる。

 だが、現実は甘くなかった。

 勝てない。

 とにかく勝てない。

 チップがみるみる減っていく。


(……そろそろやめるか)


 そう思った、その時だった。


「さっきから随分ツイておらぬのう。どれ、妾も混ぜてもらおうか」


 聞き覚えのない少女の声。

 振り返る。

 そこには、先ほどの少女が立っていた。


 珍しい金髪碧眼。

 小柄な体格。

 だが、不思議と高貴な雰囲気がある。

 周囲には、同じ制服を着た生徒達が護衛のように控えていた。


「隣、失礼するぞ」


 少女は恒星の隣へ腰掛け、そのままゲームへ参加する。

 するとディーラーは、何故かそれまで使用していたカードを回収し、新しいデッキを用意した。


 ゲーム再開。

 数ゲーム続ける。

 だが恒星は相変わらず勝てない。

 一方で少女は、やはり一度もバストしなかった。

 引き分けになる状況以外では、必ず適切なタイミングで降りている。


 そして彼女はプレイ中ずっと、

 自分の手札。

 恒星の手札。

 ディーラーのカード。

 山札の流れ。

 それら全てへ視線を巡らせ、背後の生徒へ何かを記録させていた。


 途中、恒星がヒットしようとした時などは、


「やめておけ」


 と止められる事まであった。


 数戦後。

 少女が初めてカードから視線を外す。

 そして、ディーラーを見た。

 その目は、先程までの柔らかな雰囲気とは別物だった。


「なるほどのう……ディーラー」


 冷えた声。


「お主、イカサマしておるな」

「は? 負け始めたからって言いがかりか?」


 ディーラーが露骨に苛立つ。

 だが少女は怯まない。


「全ゲームの手札と山札の流れを記録させてもらった。本来引かれるはずだったカードと、実際に配られたカードが一致しておらぬ場面が複数ある」


 そう言ってメモを見せる。

 そこにはカードの流れが細かく記録されていた。

 恒星の記憶と照らし合わせても、確かに一致している。


「そんなもん証拠になるか。第一、カードの順番なんて分かるわけ――」

「妾には分かる」


 少女は言い切った。


「もっとも、どのような手品を使っておるのかまでは知らぬがな」


 やれやれと言いたげに肩をすくめる。

 ディーラーは苛立たしげに舌打ちし、新しいカードをシャッフルしてテーブルへ広げた。


「なら当ててみろよ」


 少女は並べられたカードを一瞥する。

 そして。


「スペードの7。次はクラブのキング。その隣がハートの2じゃ」


 次々とカードを言い当てていく。

 周囲が静まり返った。

 気づけば、全て当て終えていた。


「……これで分かったか?」


 少女は静かに立ち上がる。


「このゲームで失ったチップ、返してもらうぞ。何ならもう一度勝負してやってもよいが……どうする?」

「くっ……」


 結局、少女は自分の分だけでなく、恒星の負け分まで取り返してしまった。


 ディーラーは悔しそうに顔を歪めていたが、何も言い返せない。

 そこへ、騒ぎを聞きつけた綾人達も駆け寄ってくる。

 その時だった。

 恒が、少女をじっと見つめながら呟く。


「……もしかして、アリスお姉ちゃん?」

「あっ、恒ちゃん!」


 少女の表情が一瞬で明るくなる。

 二人は久々の再会を喜ぶように抱き合った。


「ということは……」


 少女が恒から離れ、今度は恒星へ向き直る。


「まさかとは思ったが、お主は恒君じゃな!」


 突然の展開についていけない恒星へ、恒が小声で耳打ちする。


「あの人はアリス・リュゥフワさん。フランス国王の娘で、お兄様の――」


 そこまで言った瞬間だった。

 アリスが勢いよく恒星へ抱きついてくる。


「久しぶりじゃなー、恒君!」

「なっ――!?」

「妾との結婚の事、ちゃんと考えてくれたかのう?」


 恒星の思考が止まる。

 そして恒が、さらりと言った。


「アリスお姉ちゃんは、お兄様の許嫁なの」

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