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神のい(ら)ない世界  作者: ..
4.1. 光救出編 間章
15/16

お弁当から始まる関係

 ─────翌日の早朝 光宅


 キッチンで、光が弁当を作っていた。

 見慣れない調味料をいくつも使いながら、手際よく調理を進めていく。


「……よし」


 小さく息をつく。


「喜んでもらえるかな」


 ふと、表情がやわらぐ。

 誰かの顔を思い浮かべているようだった。

 足音が近づく。


「明さん、光、おはよう」


 振り返る光。


「今日はずいぶん気合い入ってるね、その弁当」

「えっ!? そ、そうかな〜。気のせいじゃない?」


 少し視線を逸らす。


「……そういえば、あの件。考えてるか?」

「分かってるってば〜。今日、お願いしてみるつもり」


 一瞬、言葉を区切る。


「昨日助けてくれた人に」

「ふむ……なるほどね」


 父はそれ以上深く聞かなかった。

 光の様子で、だいたい察したらしい。


「その子の名前は?」

「下の名前しか分からないけど……綾人さん」


 その名前を聞いた瞬間、父の表情がわずかに変わる。

 ほんの一瞬だけ、遠くを見るような目になった。


「……どうかした? お父さん」

「いや、何でもないよ」


 すぐにいつもの調子に戻る。


「綾人くんか。じゃあ今日は歓迎パーティーだな」

「まだOKもらってないんだから……気が早いよ、お父さん」


 呆れたように息をつく。

 その時、時計が目に入った。


「……あ」


 嫌な予感。


「遅刻する……!」


 慌てて弁当と荷物を掴み、家を飛び出した。


━━━ ━━━ ━━━ ━━━ ━━━ ━━━ ━━━


 ─────朝のSHR


 教室の扉が開く。

 桃の後ろに、一人の男子生徒がついて入ってきた。

 目つきも歩き方も、どこか荒れている。


「みんなおはよ〜。今日から謹慎で学校に来れてなかった八雲君が復帰するよ~。みんな、仲良くやってね☆」


 桃が軽く挨拶を促す。

 だが、八雲は無視した。

 そのまま教室を進み、恒星の前で足を止める。

 数秒の沈黙。


「ぶっ潰す」


 一言だけ告げて、席へ向かった。

 ざわつく教室。

 SHRが終わると、八雲はすぐに教室を出ていった。


「恒星様、大丈夫ですか!?」


 由宇奈たちが集まってくる。


「……大丈夫だ。それより」


 少し考える。


「あいつ、さっき謹慎って……」

「光さんを勧誘する際に少々強引すぎたみたいで」


 誘うだけで謹慎になるのかとも思いながら、あんなことを言われた理由についてはなんとなく察しがいった。

 恒星は小さく息を吐く。

 きっと目をつけていた光を取ったことで恨みを買ってしまったのだろう。

 一方的な敵意。

 今はどうすることもできない。


「それより、だれか光さんにあったか?」


 話題を変える。


「昨日あんなことがあったから学校には来てないかもしれないけど」

「光君か。話してはないが、学校に来ているところは見たよ」


 由宇奈や恒も恒星の帰りが遅かったため事情は知っていた。

 ただ、他のクラスメイトに知られるわけにはいかない。

 放課後に様子を見に行くということにして足早に話を切り上げることにした。


━━━ ━━━ ━━━ ━━━ ━━━ ━━━ ━━━


 ─────昼


 昼休み。

 人の流れが食堂へ向かう中で――

 教室の扉の影から中を伺う人物に、恒星は気付いた。


(あれは……光さん……)


 わざわざ回り道をするように反対側のドアから出る。

 気づかれていない様子。

 光の背後から声をかけると、よほど驚いたのか大声とともに飛び上がってしりもちをついた。


「光さん」

「っ!?」


 大きな声。

 驚いて飛び上がり、そのまましりもちをつく。


「ご、ごめん!」

「す、すみません……!」


 一拍置いて。


「いや、悪いのはこっちだから」


 手を差し出し、立たせる。

 様子を見る。


(……体調は大丈夫そうだな)


 ほっとする。


「それで、それは?」


 光の手にある包みに目を向ける。


「これは、その……」

「誰かに用事とかなら俺が呼んでくるけど」

「でしたら、えっと……」


 少し迷ってから。


「綾人さんを」


 小さく答える。

 顔は少し赤くなっている。


(……なるほど)


 快く了承し、綾人を呼ぶ。



 中庭へ向かう二人。

 それを、少し距離を取って追う恒星。

 さらにその後ろから、由宇奈たちもついてくる。


「……お前らも来るのか」

「気になりますので」


(みんな結構めざといな)


 茂みに隠れて様子を見守る。


「綾人さん」


 光が頭を下げる。


「昨日は本当にありがとうございました。お怪我は大丈夫ですか?」

「これくらいなら問題ない」


 軽く答える。


「それに、俺だけのおかげじゃない」

「それでも……」


 光は弁当を差し出す。


「命懸けで守っていただいたので……よければ」


 綾人は少しだけ迷い、受け取った。

 蓋を開ける。

 色とりどりの料理。

 一口食べる。

 手が止まらない。


「……うまいな」

「本当ですか!?」


 ぱっと表情が明るくなる。


「自作の調味料なんです」

「いいと思う。クセになる味だ」


 満足そうに頷く。

 少し間が空く。


「……一つ、お聞きしてもいいですか?」


 空気が少し変わる。


「昨日の……話です」

「人を殺したことについてか」


 光は黙って頷く。


「それは、“まだ”話せない」


 短く答える。


「……そうですよね。すみません」


 少し落ち込む光。


「でも」


 綾人が続ける。


「昨日の言葉は、嬉しかった」


 光が顔を上げる。


「だから……話せる時が来たら話そうと思う」

「……はい。待ってます」


 小さく笑う。


「それで、もう一つお願いがあって……」


 少し言いにくそうにする。


「以前から護衛をつけるようにと言われていて……今回、正式に選べって」

「へぇ」

「それで……綾人さんにお願いしたいんです」


 茂みの中で、全員が身を乗り出す。


「護衛、引き受けてもらえませんか?」


 一瞬の沈黙。


「俺? 普通は兵士じゃないのか?」

「それは……その……」


 言葉に詰まる。


「年齢が近いほうが話しやすいですし……それに、安心できますし……」


 なんとか絞り出す。


「……なるほどな」


 少し考えてから。


「いいぞ。引き受ける」

「本当ですか!?」


 ぱっと表情が明るくなる。


「よろしくお願いします!」


 深く頭を下げる。


 茂みの中では、小さくガッツポーズが起きていた。


━━━ ━━━ ━━━ ━━━ ━━━ ━━━ ━━━


 ─────放課後


 護衛の任のために光の家に住むことになった綾人。

 元々城に住んでいた綾人は事情を恒人に話し、とりあえず運べるだけの荷物を持って光の家にきた。


「ただいま〜」

「お、お邪魔します? お世話になります? どっちがいいんだ……」


 少し戸惑いながら入る綾人。

 中ではすでに準備が整っていた。。


「綾人くん、久しぶりだね。今日から光のことをよろしく頼むよ。もちろん、君の事も僕らの息子として扱うつもりだから何かあれば遠慮なく言ってくれていいからね」

「久しぶりです(あきら)さん。迷惑かけてしまうかもしれませんが、光さんは必ず守るのでよろしくお願いします」


 快く迎え入れるように軽く握手を交わす。


「そう気負わなくてもいいさ。とにかく、今日は綾人くんのために美味しい料理を用意したんだ。部屋に案内するから荷物を置いてご飯にしよう」


 案内された部屋に入り、綾人は違和感を覚える。


「……この部屋、前に誰か使ってたのか?」

「いえ、使っていないはずですが……」


 中を見る。

 服も家具も揃っている。


「それにしては、何もかも揃ってるような……」

「実は私もこの部屋についてはよく知らないのですが、お父さん曰く、“この部屋は来るべき時に使おうと思ってる”と言ってましたよ」

「そんな大事な部屋を使わせてもらってもいいのか?」

「気にしてなくて良いと思いますよ。この部屋に案内したのはお父さんですし」


 納得しきれないまま、深く考えるのをやめて夕食を食べることにした。

 夕食はとても賑やかだった。

 笑い声。

 会話。

 暖かい空気。


(……こういうのも、悪くないな)


 幼い頃から城で過ごしてきた綾人。

 食事もほとんどひとりで取ってきた。

 そんな綾人にとってとても貴重な時間となった。


「それじゃあ2人ともおやすみ。ちゃんと歯を磨いて寝るんだよ」

「はーい! おやすみお父さん」


 静かになる家。

 別室で、明が口を開く。


「やっとあの子を迎えることができましたね」

「本当は僕が迎えに行くつもりだったんだけど……」


 小さく笑う。


「まさか娘に先を越されるとはね」


 一拍。

 窓の外を見ながら、呟く。


「これも運命かもしれないな……なぁ、白夜(びゃくや)

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