表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神のい(ら)ない世界  作者: ..
4.1. 光救出編 間章
16/16

動き出す影

 ─────とある遺跡の地下


 靄がゆっくりと揺れる。

 視界を覆うほど濃いそれが、内側から押し広げられるようにして裂けた。

 その中から、数人の影が現れる。

 先頭に立つのはカノア。

 その後ろに、見慣れた顔ぶれが続く。


「久しぶりに来たね」


 軽く周囲を見回す。

 古びた石壁。ひび割れた床。崩れかけた柱。


「疲れた~! もう無理! しばらくは絶対働かないからね!」


 その後ろで、ノアがその場に崩れ落ちるようにしゃがみ込む。

 肩で息をしながら、床に手をつく。


「使いっぱしりにしすぎなんだよ……ほんとに……」


 ぐったりとした様子。

 靄での移動を何度も繰り返したせいか、明らかに消耗している。

 その時。

 軽い足音。

 奥の通路から、小さな影が勢いよく飛び出してきた。


「あ~! ノア君だ!」


 奥の通路から、小さな影が勢いよく飛び出してきた。


「小春じゃねえか! 元気してたか?」

「元気元気!」


 そのままノアに飛びつく小春。


 そのままノアに飛びつく小春。

 勢いのまま、軽く押し倒す形になる。


「うおっ!?」


 ノアがよろめく。


「それよりノア君、ワープなくなったからまた頂戴」

「えぇ……」


 露骨に嫌そうな顔。

 顔をしかめたまま、空を仰ぐ。


「今日はもうほんとに無理……また今度にしてくれ」

「これあげるからお願い!」


 小春はポケットを探り、ビー玉を取り出す。

 ころん、と手のひらに転がす。

 淡く光るそれは、ただのビー玉ではない。


「アナお姉ちゃんに創ってもらったお菓子、三か月分だよ」

「……マジか」


 一瞬、沈黙。

 ノアの視線がビー玉に固定される。


「三か月……?」


 ごくり、と喉が鳴る。


「……しょうがないなぁ!」


 即答。

 さっきまでの疲労感はどこへやら。

 勢いよく立ち上がる。


「ほら、行くぞ! 場所どこだ!」

「こっちこっち!」


 そのまま小春の手を引き、奥の通路へ走っていく。


「ノアのやつ、さっきまで死にそうだったよな……」


 誰かが呟く。

 遠ざかる足音。

 残された空間に、静けさが戻る。


「……頑張ってくれたのだから、少しくらいは休ませてあげようじゃないか」


 カノアが小さく笑う。

 その声に――


「遅刻だぞ、カノア」


 低い声。

 振り向くと、そこに恒星が立っていた。


「おや、恒星じゃないか」


 少しだけ目を細める。


「すまないね。いろんな場所を回っていると、どうも時間感覚が曖昧になる」


 軽く肩をすくめる。

 恒星は腕を組んだまま、じっと見ている。


「そういえば」


 カノアが口を開く。


「君が言っていたものだけど……見つからなかったよ」

「そうか……」


 短く返す。


「無駄足させたな。アンプルがあるとすれば、あそこだと思ったんだが」


 少しだけ視線を落とす。

 だが、その表情に大きな落胆はない。

 それどころか――


「……それにしては、ずいぶん機嫌がいいな」


 恒星が指摘する。

 カノアは、くすりと笑った。


「分かるかい?」


 一歩、距離を詰める。


「実はね」


 少し声を落とす。


「見つけたんだよ」


 わずかな間。


「僕のお父さんとお母さんを――蘇らせてくれるかもしれない人をね」


 静かな言葉。

 だが、その奥には確かな熱があった。

 狂気にも似た執着。


「へぇ……」


 恒星は軽く眉を上げる。


「そんな奴が日本にいたとはな。一度会ってみたいものだ」


 その言葉に、カノアは何も言わず――

 ただ、指を差した。

 まっすぐに。

 恒星へ。


「……は?」


 一瞬、理解が追いつかない。


「まさか……」


 次の瞬間。

 何かに気づく。

 表情が変わる。


(……来ているのか)


 内心で呟く。


(あっちの俺が)


 わずかに目を細める。

 興味と警戒が混ざった視線。


━━━ ━━━ ━━━


 ─────遺跡地下 円卓の間


 重い扉が、鈍い音を立てて開く。

 広い空間。

 中央には、大きな円卓が一つ。

 石でできたそれは、無数の傷を刻まれている。

 周囲に並ぶ七つの席。

 すでに五つは埋まっていた。

 それぞれの背後には、従者と思われる影。

 動かない。

 ただ立っているだけで、異様な圧を放っている。


「カノアを連れてきたぞ」


 恒星が言う。


「さあ、始めようか」

「やっとか……」


 熊の刻印の席。

 だるそうな男が、体を預けたまま呟く。


「めんどくさ……」


 大きくため息を吐く。


「相変わらずやる気ないのう~」


 山羊の刻印の席。

 妖艶な女が、くすくすと笑う。


「その体、いらんならわっちが使ってやろうか?」


 細めた目。

 明らかな捕食者の視線。


「え~いらないの~?」


 豚の刻印の席。

 巨漢の男が身を乗り出す。

 椅子が軋む。


「じゃあ食べていい? おら、前からお前おいしそうだと思ってたんだよな~」


 よだれが床に落ちる。

 空気が一気に濁る。


「……黙れ」


 机を叩く音。

 狐の刻印の席の女が立ち上がる。


「私の前で、私以外が何かを奪う行為は許さないぞ」


 低く、はっきりと。

 その一言で空気が張り詰める。

 殺気。

 沈黙。


「はいはい、そこまで」


 割って入る声。

 獅子の刻印の席。

 冷静な女が全体を見渡す。


「恒星、カノア。早く座りなさい」


 静かだが、有無を言わせない口調。


「このままじゃ始まらないわ」


 恒星は龍の席へ。

 カノアは蛇の席へ。

 椅子に腰を下ろす。

 全員が揃う。

 円卓の上に、見えない緊張が満ちる。

 誰もすぐには話さない。

 数秒の沈黙。

 そして――


「それじゃあ」


 誰かが口を開く。


「話し合おうか」


 低く、重く。


「来る1月1日から開始する――」


 一拍。


「破天計画について」


 その言葉と同時に。

 空気が、明確に変わった。

 ただの集まりではない。

 ここから何かが始まる。

 そう確信させる重さが、その場を支配していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ