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神のい(ら)ない世界  作者: ..
4.1. 光救出編
14/16

契約と選定

血の契約(レッドクロス)!!」


 綾人の声が響く。

 応じるように、手に持った斧が赤く発光した。

 淡い光ではない。

 脈打つような、血そのものの輝き。


第1の契約(ファースト)、“奪”」


 その瞬間。

 床に広がっていた血溜まりが、音もなく消えた。

 いや――違う。

 “吸われた”。

 斧へと。

 まるで、生き物のように。

 刃が、わずかに震える。


(……なんだ、あの武器は)


 ジェイルの眉がわずかに動く。


(嫌な気配だ。触れるべきじゃない)


 直感が警鐘を鳴らす。

 ジェイルは後方へ跳ぶ。

 だが――

 発砲。

 雫の弾丸が、退路を正確に塞いだ。

 逃げ場が消える。

 舌打ち。

 やむなく、迎撃。

 手に持った“見えない何か”で、斧を受け止める。

 ――接触。

 その瞬間。

 斧が、消えた。

 否。

 透明化。

 同時に――

 ジェイルの手にあった“何か”が、完全に消失した。


「なっ……!」


 手応えが消える。

 感触すら、ない。


「驚いてるな」


 綾人が、静かに言う。


「まぁ、俺には最初から見えてなかったが」

「一体何が、それにお前のそれは俺の…」


 言葉が途切れる。

 理解が追いつかない。

 綾人は透明になった斧の刃先を、慎重に床へと当てる。

 位置を確かめるように。

 その動きは、明らかに“扱いづらい”ことを示していた。


(扱いきれていない……だが)


 ジェイルの目が細まる。


(能力としては危険すぎる)


 その時。

 足音。

 廊下から、駆け込んでくる気配。

 扉が開く。


「みんな、光さんは!?」


 息を切らした恒星が飛び込んできた。


「大丈夫、無事だ」

 

 短い返答。

 それだけで、理解する。


(……外は片付いたか)


 綾人は斧を構え直す。


「勝負ありだ」


 一歩、前へ。


「武器は消えた。仲間も捕まってる。助けも来ない」


 言い切る。


「大人しく捕まれ」


 静かな圧。


 ジェイルは一瞬だけ黙る。


「……確かに、その通りだな」


 認めた。

 その時――

 足音が、もう一つ。

 止まらない。

 異質な気配。

 扉の向こうから、滑るようにカノアが現れた。


「カノア様。お探しのものは見つかりましたか」


 ジェイルが問う。

 カノアは、首をかしげる。


「うーん。最初の目的は外れちゃったね」


 一歩、部屋へ。

 そして――笑う。


「でもね。それよりずっといいものを見つけたよ」


 剣を、軽く振った次の瞬間。

 肉片が、空中に散った。

 それは地面に落ちる前に蠢き、形を持つ。

 人型。

 歪な、肉の人形。

 カニバルドールが数体現れる。

 一瞬で、全員の四肢を拘束した。


「っ!?」


 動けない。

 力が入らない。

 絡みつく肉が、筋肉の動きを阻害し締め付ける。

 呼吸すら、わずかに苦しい。


 そういうとカノアは剣を振って肉片を飛ばし、生み出したカニバルドールで恒星たちを一瞬にして拘束した。


「僕はね」


 カノアは、くるりと回る。

 まるで舞台の上の役者のように。


「ずっと探してたんだ」


 両手を広げる。


「お父さんとお母さんを――蘇らせてくれる人を」


 満面の笑み。


「さて」


 ぴたりと止まる。

 視線が鋭くなる。


「表の二人組を倒したのは――誰かな?」


 沈黙。

 その中で。

 カノアの目が、恒星で止まる。


「おや?」


 瞬き。


「恒星?」


 空気が変わる。


「君も来てたのかい?」


 少し不満そうに、近づく。


「酷いなぁ。君が言ってたもの、どこにもなかったよ?」

「……何の話だ。それに、なんで俺の名前を」


 困惑。

 カノアは、一瞬だけ考え――


「ああ、なるほど」


 納得したように頷く。


「そういうことか。ごめんね」


 軽く手を振る。

 そして。


「じゃあ改めて聞くよ」


 目が細まる。


「表の二人を倒したのは、君?」

「……そうだ。それがどうした」

「へぇ……君が」


 じっと見る。

 観察。

 評価。

 そして――笑う。


「うん、いいね」


 一歩、下がる。


「でも、まだ違う」


 独り言のように呟く。


「今は、その時じゃない」


 満足げに頷く。


「これからが楽しみだ」


 その時、靄が現れる。

 そこから、セバスたちが姿を現した。


「お嬢様、お待たせいたしました」

「ちょうどいいタイミングだね」


 カノアは振り返る。


「じゃあ、帰ろうか」


 その言葉に、ジェイルが動く。

 光へ手を伸ばす。

 だが。


「ジェイル」


 呼び止める声。


「その子は、置いていっていいよ」

「……ですが、それでは収穫が」

「言ったでしょ?」


 カノアは笑う。


「もっといいものを見つけたって」


 視線が、恒星へ向く。


「収穫をくれた彼に免じて、今日はここで引いてあげるんだ。いいね?」


 理解できないまま。

 ジェイルは手を引いた。

 わずかに逡巡。

 だが従う。

 カノアの元へ戻る。


「それじゃあ――」


 最後に、恒星を見る。

 まっすぐに。


「次に会う時は、僕の望む存在になっていてくれると嬉しいな」


 微笑み。

 靄が揺れる。

 そのまま、全員が溶けるように消えた。

 ――静寂。

 直後。

 拘束が崩れる。

 絡みついていた肉が、力を失ったように剥がれ落ちる。

 カニバルドールは形を保てず、崩壊。

 ただの肉片となって、床に散った。


「はっ……!」


 息を吐く。

 空気を、ようやく肺に取り込む。

 痺れていた四肢に感覚が戻る。

 重かった体が、動く。


「光さん!」


 駆け寄る。

 斬られていない腕で何とか抱き上げる。

 顔を上げる光。


「……無事か?」

「はい……」


 短いやり取り。

 それだけで十分だった。

 外へ出て入り口近くで仮眠をとっていた徹を回収し、撤退する。

 誰も振り返らない。

 急ぎ、城へと戻った。


 ――この日の出来事は。

 表向きには、王国軍による緊急防衛訓練とされた。

 人々の混乱と不信を避けるため、光の拉致未遂は秘匿。

 だから。

 城下町の人々の生活は、何も変わらない。

 いつも通りの一日。

 何事もなかったかのように、時間は流れていく。

 だが――

 当事者たちにとっては。

 確実に、何かが変わった一日となった。

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