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神のい(ら)ない世界  作者: ..
4.1. 光救出編
13/16

それでも守る

 ─────ウッド兄弟との決着より少し前


 血が飛ぶ。

 ジェイルは、綾人を刺し貫いたそれを振り払った。

 赤が床に散る。


「それで――そっちの二人はどうするんだ?」


 問いに対し二人は臨戦態勢で応じる。

 鞭と銃。

 間合いを支配する二人。

 ジェイルはめんどくさそうに小さく溜息をついた。


「彼を傷つけた手前、信じられないだろうが……俺は別にお前らに手を出すつもりはない。引け」

「黙って引いたら、光さんは解放してくださるのですか?」

「それはない。一応あれは回収対象だ。連れて帰る」


 沈黙。

 一拍。


「そうですか」


 嶺花の目が細まる。


「では――力ずくですわ」


 鞭が振るわれる。

 空気を裂き、一直線に走る。

 ジェイルは半歩でそれをかわした。

 だが、終わらない。

 鞭はそのまま伸び続け、壁に叩きつけられると、反発して軌道を変えた。

 死角から、再びジェイルへと襲いかかる。

 それでも――ひらりと回避。

 視線すら向けていない。


(伸縮か)


 短い思考。


(分かっていれば対処は容易い)


 だが――


(隣の銃使いが厄介だ)


 嶺花は伸び続ける鞭で空間を縛るように動きを制限する。

 雫はその外から、寸分の狂いもなく狙いをつけ続けていた。

 どれだけ動いても、銃口は外れない。


(……なぜ撃たない)


 違和感。


(何かを待っているのか。それとも――)


「そろそろですわね」


 嶺花が静かに告げる。


「花籠」


 鞭を軽く引いた。

 その瞬間、空間に広がっていた鞭が各所から縮み始める。

 まるで見えない指で摘ままれているかのように、節ごとに寄り、重なっていく。

 一本だったはずの鞭が、無数の束となり――

 閉じる。

 花弁のように。

 ジェイルを包み込んだ。


「さぁ、今ですわ!」


 完全な隙。

 だが――撃たない。


(やはりな)


 確信。


(撃てない)


「勿体ないな」


 余裕の声が落ちる。


「それだけ技術があって、拘束とはな」

「何を言ってますの」

「こういうことだ」


 全身に力を込める。

 拘束ごと引き寄せる。


「きゃっ!」


 嶺花の体が引き寄せられ、宙へ浮く。


「力で劣る拘束は愚策だ」


 蹴りを放とうとした、その瞬間――

 発砲。

 弾丸が二人の間を正確に通り抜けた。

 蹴りが止まる。


(……いい腕だ)


 嶺花は床に転がるが、すぐに立ち上がる。

 緩んだ鞭を引き直し、再び締め上げた。


「だから意味はないと言っている!」


 再び引き寄せようとする。

 だが――

 パン、パン。

 置き撃ち。

 動こうとする位置を読んだ牽制。

 ジェイルの動きが止まる。


(撃てないわけじゃない)


 結論。


(撃たないだけだ)


 ならば。

 雫へ標的を変える。

 踏み込み、一気に距離を詰める。

 嶺花が止めようとするが、力の差で押し切られる。

 雫は引き金を引けないまま、足を止めていた。


「雫ちゃん、早く逃げてくださいまし!」


 だが、間に合わない。

 手が届く距離。

 その瞬間――強く、鞭が引かれる。


「悪い、遅れた」


 声が割り込む。


「ようやく動けるようになった」

「……ありえない」


 ジェイルの目が細まる。


「確かに刺したはずだ。まさか……再生か」

「まぁとりあえず――」


 鞭を引く。

 全力で。


「雫から離れろ!」


 ジェイルの体が宙を舞う。

 斧が振り下ろされる。

 だがジェイルは、わずかに動く腕で何かを操り、それを受け流した。

 そのまま跳び、嶺花の元へ。

 鞭を叩き落とす。

 手から離れた鞭は縮み、拘束が解ける。


(……厄介だな)


 思考が回る。


(二人でも面倒だったが、再生持ちか)


 判断。


(仕方ない)


 標的を、綾人へ。

 踏み込む。

 速い。

 斧を受け流し、そのまま“何か”を振り上げる。

 雫と嶺花が同時に牽制を放つ。

 だが――

 直前で軌道が変わる。

 狙いは、光。

 その変化に気付いたのは――綾人だけだった。


「危ない!」


 椅子ごと押し倒す。

 その身を差し出す。


「ぐっ……!」


 斬撃。

 右腕が切断され、床に落ちる。

 血が広がる。


「綾人さん!」


 やがて切断面が蠢くように再生し、出血が止まる。


「大丈夫だ」


 息を荒げながら言う。


「この体になってから、多少は慣れてる」


「でも……!」

「治る」


 光は目の前で起こった出来事にショックを受け、目に軽く涙を浮かべている。


「ただ――」


 斧を拾う。

 立ち上がる。

 ジェイルを睨む。


「今、光さんを狙ったな」


 綾人は床に落ちた斧を拾い立ち上がってジェイルに向き直る。


「最悪、死体でもいいと言われている」


 淡々とした返答。


「想定よりお前たちが面倒だった。それだけだ」

「……ふざけるな」


 一歩踏み出す。


「そんな理由で、人を殺すのか!」


 声が荒れる。


「罪は消えないんだぞ!」


 沈黙。

 そして――


「……まるで経験者だな」


 突き刺さる言葉。


「お前も、殺したことがあるのか?」

「違っ……!」


 揺らぐ記憶。

 母。

 血。


「俺は……!」


 呼吸が乱れる。


「しょうがなかった……!」

「言い訳だ」


 冷たく断じる。


「事実は変わらない」

「……!」

「大事な相手だったんだろ」


 さらに踏み込む。


「自分の手で殺した相手が」

「やめろ……!」

「その顔が証拠だ」

「やめろ!!」


「もうやめてください!!」


 声が遮る。

 光だった。


「綾人さんは!」


 涙を浮かべながら叫ぶ。


「ほとんど関わった事も無い私を命懸けで助けてくれてるんですよ!」


 響く声。


「進んで人を殺すようなあなたと、同じなわけないじゃないですか!」


 廃屋の外にまで響くような声に、先程まで狼狽えていた綾人は正気を取り戻す。


「それに……理由があったはずです」


 まっすぐに見据える。


「何も知らない私たちに、責める資格なんてありません!」


 空気が止まる。

 そして――


「……ありがとう」


 綾人が息を吐く。


「光さん」


 視線が戻る。


「冷静になれた」


 一拍。


「確かに、事実は消えない」


 斧を握る。

 強く。


「だからこそ――」


 顔を上げる。

 その目に、光が宿る。


「俺は守る」


 一歩踏み出す。


「ここにいる人たちを!」


 再び、構えた。

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