二重の死角
━━━時は少し遡り 城下町
恒星たちは、桃から聞いた誘拐犯の潜伏場所――その建物のすぐ近くまで辿り着いていた。
「そろそろだな」
「あぁ……ちょっと止まってくれ」
建物の角に差し掛かったところで、恒星が足を止める。
「……誰かいる」
小さく告げると、他の四人も息を潜め、壁越しにそっと様子を窺った。
そこにいたのは――
周囲を落ち着きなく見回す、一人の男。
明らかに不自然な動き。警戒しているのが見て取れる。
「……怪しいな」
「あの方が光さんを連れ去った人物ですの?」
「断定はできないけど……可能性は高い」
短く言葉を交わす。
「どうする? 全員で囲んで――」
「いや」
恒星が即座に否定する。
「敵の数が分からない以上、全員が一人に集中するのはやめた方がいいだろう」
(光さんがいるなら、建物の中だ。最悪――こいつは倒さず、足止めできればそれでいい)
「……あいつは俺が引き受ける」
静かに言い放つ。
「みんなは先に行ってくれ」
「おい、待て。その怪我で――」
綾人が眉をひそめる。
柊との戦いで負った傷は、まだ万全ではない。
「大丈夫だって」
軽く肩をすくめる。
「戦うんじゃない。足止めするだけだ」
だが――
誰も動かない。
「……いくら丸腰とはいえ、怪我人を一人で戦わせるなんてできませんわ」
「えっ、何言って――」
(丸腰? どう見ても、あいつの両手には――)
背後から声。
「――っ!?」
振り返るより早く。
斬撃が走った。
だが――
「っ!!」
ギィンッ!!
徹の展開した障壁が、寸前でそれを弾く。
「へぇ……いい反応だなぁ、お前」
そこに立っていたのは、見張りの男とよく似た顔の男。
足元から伸びる刃が、鈍く光っていた。
(……気配がなかった)
(全く気付けなかった……!)
「兄者ぁ~、見つかっちゃったみたいだよぉ」
「なにぃ!? 待ってろ弟者、今行くぞぉ!!」
建物の前にいた男――兄者が駆けてくる。
「さっき言った通りだ!」
恒星が叫ぶ。
「徹はそのままそいつを! 俺はあいつを止める! みんなは先に中へ!!」
その一言で、三人が動いた。
だが――
「あいつは丸腰だ! 無視して――」
「違う!!」
恒星が飛び出す。
抜刀。
一閃。
「両手に武器を持ってる!!」
ギィンッ!!
兄者の手に握られた“クナイ”が、刃を受け止めた。
「……へぇ」
兄者が笑う。
「お前、見えてるなぁ」
「止めた!? どうやって……」
「よそ見は駄目ですわ!」
嶺花が声を張る。
「ここはお二人に任せて、私たちは先へ進みますわよ!」
三人はそのまま建物の中へと駆け込んだ。
「あ~あ、三人も通しちゃったよぉ兄者ぁ」
「問題ない!!」
兄者が笑う。
「分隊長クラスでもない限り、子供三人程度――ジェイル一人で十分だ!!」
恒星は一度距離を取る。
弟者も、徹から離れて兄者の隣へ戻った。
「恒星君……」
徹が低く言う。
「君は怪我人だ。極力サポートはするから無理だけはしないでくれよ」
「ありがとう。でも――」
あえて、軽く笑う。
「こいつら、そこまで強くなさそうだしな」
「兄者ぁ、オラ達なめられてるみたいだよぉ」
「仕方ねぇなぁ……俺達の力を見せてやるか弟者よ!!」
二人が同時に動く。
左右へ分散。
兄者がクナイを投げた。
(遅い……?)
だが――
(違う)
徹が避けないようとしない。
見てもいない。
【丸腰】
【見えてるな】
(……そういうことか!!)
「しゃがめ!! 徹!!」
咄嗟の叫び。
徹が反応し、身を沈める。
その頭上を、クナイが通過した。
――ガンッ!!
壁に突き刺さり、金属音を響かせる。
「び、びっくりしたよ……って危ない!!」
直後。
背後から迫る気配。
障壁が再び展開され、斬撃を防ぐ。
(まただ……気付けなかった。音がない……?)
「徹、足音は聞こえたか?」
「いや……一度も」
「やっぱりか……」
思考が繋がる。
(見えない武器)
(無音の接近)
(どっちかに意識を割けば、もう片方が死角になる)
「……厄介だな」
小さく呟く。
額に、冷や汗が伝う。
「こいつら――思ったよりずっと強いぞ」
兄者と弟者が、同時に笑った。
その笑みは――
完全に、“狩る側”のそれだった。




