96.人は見た目で判断してはいけないようです
翌朝。
とりあえず僕達は朝食をとって、待ち合いスペースでくつろぐ。
さて、今日は何をしようか?
「……何をするのもええけど、ギルドの近くにはあまり立ち寄らん方がええやろな」
「そうだね。テイニーに興味を持った人達がまたテイニーを取り囲むかもしれないからその方が良さそうだ」
「……ごめんなさい、みなさん。わたしが調子に乗り過ぎてしまったせいで……」
「いや、僕も通った道だし、気にしなくていいよ。正直この町にはとても居にくそうだし、早い所、次の町に出発した方がいいかもしれないね」
「そやな。ほんなら荷物をまとめて出かける準備をしよか」
僕達は荷物をまとめ、そして重い荷物を持った状態で外に出る。
すると、通りにあまり人がいない事に気が付く。
「……あれっ? 何かやけに人通りが少なくない?」
「確かにそうやな。昨日はこんな人通りが少ないなんて事はなかったのに、妙やな」
「でも、これはチャンスかもしれない。とりあえず今のうちに町から出てしまおう」
もたもたしていると、変な人に目をつけられて面倒な事になるかもしれない。
なので、さっさと移動してしまうのが良いだろう。
僕達はそれから次の町に向けて北門の方へと進むのだが、何だか進むにつれて、通りに人が多くなって騒がしくなっていく。
そして北門を通過した時に見えたのは、道で戦っているウンディーネとキメラ、そしてその二体を取り囲む大勢の観衆だった。
「あー汚らわしい。それにムカつくわね、そのタフさ。早くくたばってくれないかしら?」
「フフフ、シーミア様のそのお言葉、褒め言葉と受け取ってもよろしいですかな?」
「褒めてない。というか、本当にアンタの話し方、キモいんだけど。……ったく、次で決めるわよ、ウンディーネ! アクアスラッシュ!」
ウンディーネが高速で打ち出した水の刃はキメラにヒットし、キメラの体の一部を切り裂いた。
だが、数秒経つと、その切り裂かれた部分が元通りになっていく……!?
「フフフ、効きませぬな」
「あー、本当に腹立つわね! ウンディーネ、さっさとそんなヤツ倒してよ!?」
ウンディーネの使い手はそう叫んで、なかなかダメージを与えられない事にイライラしているようだ。
そしてキメラの使い手であろう白衣を着た男はその様子を見てニヤニヤと笑みを浮かべている。
正直気持ち悪い。
というか、どうしてこんな町の外で戦いが起きているんだろうか?
それにあのウンディーネの使い手の女性、シーミアと呼ばれていたが、それってAランク魔物使いのシーミアって事じゃないか!?
Aランク魔物使いであるシーミア。
彼女はウンディーネを主力として、水系の魔物を主に使っている魔物使いだ。
Aランクである事もあって、彼女も父さんやボルージに負けない実力を持つはずだ。
そんな彼女がBランク魔物であるキメラに苦戦するなんて、なかなか珍しい事もあるものだなぁ。
事の成り行きが気になった僕は、近くで野次馬している人に話を聞いてみた所、どうやらシーミアがパミランの町に喧嘩を売ってきたらしい。
合成された魔物は汚らわしくて目障りだから、そんな魔物を愛する者が集まるパミランを破壊しに来たのだとか。
そしてそれを止めたのが、今戦っている白衣の男らしい。
……あれっ?
あの気持ち悪い人の方が良い人のように聞こえるんだけど……。
「その内容を聞くと、シーミアさんって悪者にしか思えないですね」
「世間的にはどうなのかは知らねえが、間違いなくオレ達にとっては悪者だな。あのシーミアという奴、定期的に町を破壊していくんだよ。何かのストレスがたまった時の憂さ晴らしって感じだろうな。ほら、あそこの外壁に崩れた所があるだろ? あれは全部あいつが壊した跡さ」
その人が指差した方向を見れば、そこには高く積み上がった瓦礫の山があった。
その近くには新しい壁みたいなものができていることから、きっと多くの壁が壊されたに違いない。
「そんな事をして、許されるんですか?」
「正直どうかと思うんだけどな。ただ、あいつはそんな性格をしていても紛れのないAランク魔物使いだ。あいつに勝てるような奴はそんな多くないし、その上あいつには裏に強大な勢力を味方につけていると言われている」
強大な勢力……。
確かに合成自体に忌避感を持つ人は相当数いるだろうし、シーミアはそんな人々の象徴みたいな感じになっているんだろう。
そんな人々から支持されているからこそ、他のAランク魔物使いはシーミアの行動を止めさせる事ができない。
下手に刃向かえば、シーミアの支持者から何されるかたまったものじゃないから。
「だからあいつに刃向かうような奴なんていなかったし、そんな奴がこれからも現れる事はないと思っていた。だけど、そこにあの勇者が登場って訳さ。白衣を着たキメラ使い。最初見た時はただの無謀な気持ち悪い奴だったんだが、今やオレ達の期待を一身に背負う勇者さ。あの独特な微笑が段々と癖になっていくんだ。君もそうは思わないかい?」
なるほど。
確かにその人が言う通り、事情を聞いた今では、あの白衣の男性の不気味な笑みはとてつもなく心強く見えるし、どこか憎めなくて愛着を感じる。
同じ場面を見ているというのに、こんなにも見方が変わるなんて、何かちょっと恐ろしいなぁ……。
しばらくウンディーネが攻撃するが、キメラがその攻撃で受けたダメージを即座に回復させる事が続いていた。
だが、その展開に変化が訪れる。
「……さて、そろそろお遊びはここまでにしましょうかねぇ。そろそろ攻めましょうか。173号、ウルフファング!」
白衣の男がキメラにそう命じると、キメラの中にある体が一部うごめき、そしてキメラの右脚がダイアウルフのものへと変化する。
そしてキメラはウンディーネへと向かっていき、そのダイアウルフの脚でウンディーネに襲い掛かる!
「くっ、ウンディーネ、アクアドーム!」
指示を受けたウンディーネが持っている槍をくるくると回転させると、ウンディーネの周囲に水色の膜が出現する。
そして、キメラの脚は水色の膜に弾かれて、それから何度もダイアウルフの脚で攻撃しようとするも、水色の膜に阻まれてなかなか有効打を与える事ができない。
さすがはAランク魔物であるウンディーネ。
まさに鉄壁の守りとでもいうべきか。
それからしばらくキメラは攻めあぐねており、戦いは膠着状態に入る。
これは決着がつくまでにまだまだ時間がかかりそうだと思っていると、そんな僕につんつんと僕の体をつついてくる何かが。
その方向を見ると、ラスが何かもの言いたげな様子で僕の事を見てきているようだった。
ラスの話を聞く為、僕は一旦人混みから離れた所まで移動する事にした。




