95.レクはだいぶ強くなったようです
外の空き地に到着し、テイニーと相手の女性が対峙する。
相手の女性はミノタウロスの角が生えたトロールをその前に出してきた。
どうやらそのトロールでテイニーの相手をするらしい。
一方でテイニーはレクを自分の前に出す。
やはり、テイニーはレクで戦うようだね。
ただ、魔法は表立って使えないし、レクは一回も合成していないから、身体能力は普通のケットシーとなんら変わりない。
こんな状態で、本当に大丈夫なんだろうか?
「アンタ、そんなケットシーでアタシのトロールちゃんと戦うつもり? アタシもなめられたものね。そこのリザードマンで戦うのが普通でしょ?」
「いえ、わたしはあなたをなめてなんていません。この状況ではこの子の方が活躍できる。わたしはそう判断しただけです」
そう言ってテイニーはレクの頭に手を乗せる。
レクはテイニーが頼りにしてくれている事を感じ取り、一瞬嬉しそうにしながらも、すぐさま真剣な表情へと切り替えていた。
「ケットシーの方が活躍できる? ふん、何言ってるんだか。打ちのめされても泣くんじゃないよ! いけっ、トロールちゃん!」
トロールに指示をして、トロールはレクへと襲いかかる。
だが、トロールの攻撃をレクは軽快に避けた。
その間、テイニーはぶつぶつと何かをつぶやいている。
するとその後、レクに何かのオーラみたいなものがうっすらとまとわれたように見える。
「テイニーの奴、レクに身体強化の魔法を使っていやがるな」
「そうなんだ。でも一体いつの間に覚えたんだろう? テイニーがそんな魔法を使っている所は見た事ないのに」
「テイニーはアークが寝た後もこっそり起きて、リザから魔法を教えてもらっていたからな。まさに努力の賜物って訳さ」
そう言うとヴァルドはテイニー達の方へと向き直る。
テイニー、結局毎日頑張り続けていたのか。
無理しないと言いつつ、やっぱり無理していたんじゃないか、テイニーは。
僕もあまり人の事は言えないんだけどさ。
「そういえば、ヴァルドって結構そういう所を見ているよね。ウルの時も僕に黙って見てきていたようだしさ」
「……ふん、アークには関係ないだろ。ただ俺様が面白そうだと思ったから見ていただけ。ただそれだけの事だ」
ヴァルドはそう言うと、黙ってテイニー達の事を見守り始める。
面白そうだから見ていただけ、か。
でもそれだったらウルがこちらに来ている事を遠回しにほのめかしたりしないだろうし、僕が無茶をしようとしている時に全力で協力してくれたりはしないだろう。
ヴァルドは何だかんだで仲間思いなんだろうな。
何て言っても何十年も魔王をやっていた訳だし、いくら強かったとしても、人望がないと長年そんな立場をやっていられるはずもないか。
ヴァルドがずっと魔王やっていたのも少し納得したかもしれない。
テイニーの魔法の援護を受けたレクはより素早く、そして軽快に動き回り、トロールを寄せ付けなかった。
そしてそんな軽快な動きで、レクはいつの間にか手に持っていた氷のナイフでトロールに攻撃する。
「トロールちゃん! そんなケットシーなんかに負けていないで反撃をしてっ!」
レクの攻撃を受け、苦痛に顔を歪ませるトロール。
トロールはすぐさま反撃をしようとするのだが、動こうとしたら、その場でつまづいてしまった。
トロールの足元にはツタが絡まっていて、トロールはそのツタに足を取られてしまったようだ。
あれはきっとトレント由来の魔法”バインドウィップ”によるものだろう。
レクならではの早く、そして効果を弱めた魔法が何気なくトロールの足にかかっていたという所か。
レクは特に口を開く事もなかったし、全くその事に気付かなかったんだけど。
結局レクにそのまま一方的に攻撃され続け、トロールはなす術なく倒れる事になった。
体を動かす主要な部位はレクによってきっちりと傷つけられていて、この様子じゃしばらくの間は立つ事すら出来ないだろう。
「これで勝負ありました……よね?」
「と、トロールちゃん!? アタシのかわいいトロールちゃーん!!??」
倒れるトロールの元に駆け寄る女性。
そんな予想だにしない結果にどよめく観衆。
そして少し経つと……
「す、素晴らしい! そこの嬢ちゃんにケットシー! 是非うちの研究室に入ってくれ!」
テイニーの素晴らしい戦いに感動した人達が一斉にテイニーの元に駆け寄っていく。
……うん、まあこの戦いの後じゃそうなるよね。
テイニーは困惑しつつも、人混みをかいくぐって、僕達がいる所までたどり着く。
「ううっ、酷い目にあいました……」
「よく頑張ったね、テイニー。まさかレクでトロールに勝つとは思わなかったよ。というか、そんな事をしたら騒ぎになる事は想像出来たんじゃ……」
「そうですよね。アークさんを助けようと思ったらつい……むしろご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした……」
「いや、良いんだ。それより、レク、いつの間にそんなに強くなったんだよ? びっくりしたよ」
「フッフッフッ、あっしの実力に驚いたかニャ? まあ、ここでは話せないから、部屋に戻ってゆっくり話す事にするニャ」
確かにこんな所で魔法の話なんてしたらまずいもんね。
それに町をフラフラ歩いていると、先程の人達がテイニーを見つけて、また騒ぎになるかもしれない。
ここは宿屋に早い所戻って休もう。
そして一泊したら早めに町を出発しなくては。
宿屋に戻ってから、僕達は一旦テイニーの部屋に集まって、しばらく雑談をした。
部屋の中で、テイニー達がどのように魔法の勉強をしていたのか、どうやって魔法を使っているのかバレにくくしているのかなどを聞く事に。
聞いた話によれば、リザが技を出す様子を何度も繰り返し見て、テイニーとレクは魔法を覚える。
そして覚えた後、イメージを固めて、無言もしくは小声で詠唱しても大丈夫になるまで魔法を極める。
そんな事をしていたようだ。
「というか、それだとリザってとんでもない数の魔法を使える事になるよなぁ。さっきテイニー達が使っていた魔法は全部使えるんだよね?」
「ああ、俺、全部使える」
「一体いくつ位使えるの?」
「1、2、3……あれ、指、足りない」
「えっと、そうですね。多分30近くはもう使えるような気がします。もしかしたらもっと多いかも……」
30か。
そんなに魔法を使えたら、リザはもう立派な魔法使いといっても良さそうだな。
「そういえばあの場面でどうしてレクに戦ってもらったの、テイニー? リザだったらトロールに勝ってもそれほど騒ぎにならなかったんじゃ?」
「確かにそうなんですけど、でもリザは人に気付かれないように魔法を使うのは苦手なんです」
「テイニーの言う通り。俺、レクみたいに魔法使えない」
「その点、レクはとても上手いんですよ。人が見えない位置で素早く詠唱したり、そもそも言葉を発しなくても発動出来たりするんです。ですからあの注目された場面でもレクならやってくれるかと思ったんです!」
「フフフ、そういう事なんだニャ、アーク。少しはあっしの事を見直したかニャ?」
「うん、そりゃあもう。まさかこんなに早く魔法を実践で組み込めるとは思わなかったよ。こりゃ、強力なライバル、出現だな」
「……え、ええっ!? わ、わたし、アークさんと戦うつもりなんてないですよ!?」
「いや、今はそうだけど。でも、テイニーも大会に出るんでしょ?」
「そ、それはそうですけど……でも、わたし、アークさんと戦いたくないです。もし対決する事になったら、わたし、棄権しようかなと……」
そう言ってうつむくテイニー。
どうやら余程僕と戦う事が嫌らしい。
ずっと一緒に旅してきたし、思い入れがある僕達を傷つける事が嫌なんだろうな、きっと。
「テイニー、そんなに嫌がらなくても良いんだよ? むしろアタイは戦ってみたいな。さっきのレク、とっても強そうだったし!」
「ふふ、今ならホクにも余裕で勝てそうだニャ」
「言ったね、レク? その言葉を発した事を後悔させてあげようか! アーク、ちょっとレクと戦ってきてもいい?」
「いや、ダメだよ。まさにその事でテイニーが悩んでいるというのに、そんな事が出来る訳ないじゃないか」
「ちぇー残念。力の差を思い知らせてやろうかと思ったのに」
テイニーの気持ちとは裏腹に、戦う側であるレク達は実にのんきなものだ。
別に敵対しての戦いではないんだから、命の危険はそんなにないだろうし、僕もそう身構える事はないと思っているんだけどね。
テイニーって、結構仲間思いの所があるから、そこの踏ん切りがつかないのかもしれない。
まあ、それはテイニーの良い所でもあるんだけどさ。




