94.テイニーは勇気を振り絞ったようです
「色々な魔物さんがいらっしゃるのですね……」
パミランのギルドの建物に入って、テイニーはそうつぶやく。
町中のあちこちでも合成された魔物はいたのだが、ギルドの中には一層強そうな見た目をした魔物をあちこちに見かける。
例を挙げれば、岩の翼が生えたゴーレム、鱗に覆われた鋭い角を生やしたドラゴニュートのような魔物がいた。
防御力に優れるゴーレムに機動力も加わったら、まさに向かう所敵なしって感じなんだろうな。
ドラゴニュートに角が生えるメリットは正直思いつかないけど、見た目が強そうなら良いんだ、多分。
合成というと、合成された魔物の部位がそのままくっつくような見た目になる場合もあるが、そのようにして自身の体の性質に合わせた形で体が融合した魔物も存在する。
そんな合成された魔物を観察しつつ、僕は受付にたどり着く。
そして順番を待ってから、ようやく自分の番が来ると。
「次でお待ちのお客様、お待たせ致しました。……あれっ? 珍しいですね? 合成されていない魔物を従えられているなんて?」
「いや、合成していますよ。同種と合成しているので分かりにくいですけど」
「同種との合成を好む魔物使いさんですか。それはそれは珍しい事です。……あっ、話がそれましたね。今日はどのような御用件でしょうか?」
町を見た感じ、異種と合成していそうな人が大半だったから、僕みたいに同種か似た系統の魔物を合成する人はやっぱり珍しいんだろうな。
そういう事を考えると、グレートウルフの合成をしたあの女性も同種の合成を行っていたし、珍しい存在だと言えそうだ。
それから僕は受付の人にCランク昇格試験を受けたい旨を伝えると、ホクと自分の腕を例の白い布で結ぶ事になった。
そして白い布が青く染まると。
「確かに確認致しました。これよりあなたのCランク昇格を認めます!」
受付の人によるその宣言を聞くと、周辺にいた人達が一斉にこちらを振り向いてきた。
そして一斉に僕の方へと駆け寄ってきて……
「おお、お前、だいぶ見所があるようだな! どうだ? これを機に異種合成を試してみるのは!? お前なら俺の合成技術を活かせるぜ!?」
「いや、お前は下がっていろ! なあ、オレと手を組もうぜ? オレも同種との合成には可能性を感じていたんだよな、うん。だけどやはり時代は異種との合成だ。同種の合成も異種の合成も理論は同じ。ただ違うのはロマンの違い。そう、ロマンが格別に違うのだ!」
「ロマン厨は黙っていなさいよ! いい? これからはアタシの時代なの。そしてあなたのCランクに達する程の合成技術は必ずアタシの力になるわ。あなたが今アタシに協力すると言うのなら、特別な待遇を約束してもいいわよ? どう、悪くない話でしょ?」
何だ、この争いは。
やはり依頼をこなして上がれる最高ランク、Cランクになると、ここまで反応が違うのか。
いや、というよりも、パミランのギルドが異質なんだろうな。
テイニーがCランクになった時は特別な反応はなかったみたいだしさ。
うーん、それにしても困ったな。
僕が異種の魔物と合成する気は正直ない。
別に今のスタイルで十分過ぎるほど強くなれているし、そもそも僕がこの血気盛んな人達と気が合う気がしないんだよね。
果たしてどうやって断ったらいいものやら……。
それからは三人の口喧嘩が始まってしまった。
俺ならコイツを活かせる、お前じゃダメだオレがやる、アタシに逆らう者は死すべしとかそれぞれ勝手な事を言っている。
別に言い争いをしているだけなら良いんだけど、その人達、通路を塞いでいるんだよなぁ。
だから無視して通り過ぎ事もできず、困ったものだ。
テイニーはそんな悩んでいる僕の様子をチラッと見ると、僕の前に移動した。
「……み、皆さん、やめて下さい!」
「ん? どうしたんだ、嬢ちゃん? そういえばこの少年と一緒にいるようだが、少年の連れか?」
「そうです。わたしはアークさんと一緒に旅をしています、テイニーと申します。アークさん、すごく困っていますから、ここをとりあえず通しては頂けないでしょうか?」
あれ、テイニーが何か頑張っているんだけど。
しかもすごく声を張り上げているし。
だけど内心はビクビクしているようで、テイニーの脚はガタガタと震えていて、緊張している感じがこちらまで伝わってくる。
「いや、嬢ちゃん、俺はその少年の為を思ってだな……」
「アークさんは正直迷惑しているんです! アークさんはアークさんのやりたいようにやります! ですから皆さんは少し引っ込んでいて下さい!」
「は? 何言ってんの、アンタ? アタシに逆らう気? よくよく見れば、アンタの魔物、合成された感じがしないし、とても弱そうね? そんなんでアタシに逆らうとか何様のつもり?」
そう言って女魔物使いがテイニーに対して威圧してくる。
テイニーはその様子を見て、冷や汗を流しながしてオロオロしていた。
そんなテイニーを助けようと僕が発言しようとするのだが。
「さ、逆らってなんていません! ただ、わたしはここを通して欲しいと言っただけで……」
「ここを通して欲しい? 何言ってんの、アンタ? 通して欲しいのなら、力でアタシに打ち勝ってから言うことね。さあ、どうする、アンタ?」
「……分かりました。それなら、わたし、あなたと戦います。それで勝ったら通して頂けるんですよね!?」
「ああ。その時はアンタの言う事、何でも聞いてやるよ。まあ、そんな事はまずあり得ないけどな!」
ハハハと勝ち誇ったような笑みを浮かべる女性。
対してテイニーは冷や汗を流し、足をガタガタと震わせて、緊張しっぱなしの状態だ。
だけど、その目は真っ直ぐ相手の女性の方を見据えていて、決して屈したりはしていなかった。
結局、テイニーと女性はギルドの外にある空き地で戦う事になった。
というか、別にこれ、戦わなくても通してもらえているんだから、もう戦う必要なんてないんじゃ?
「テイニー、大丈夫?」
「アークさん、大丈夫です。わたしなら戦えます」
「いや、別にそもそも戦う必要ないんじゃないかな? もう外に出られている訳だしさ」
「いや、ここで逃げる訳にはいきません。逃げたら、またアークさんが付きまとわれるじゃないですか」
「うーん、まあ、確かにそうなんだろうけど……」
テイニーと相手の女性が戦うということで、先程の二人の男も一緒に観戦するみたいだし、その戦いに興味を持った他の人も何人かついてきているようだった。
こんな状況でテイニー、本当に大丈夫なんだろうか?
色々な意味で心配になるんだけど。
「テイニー、一応言っておくけど、あの技はバレるとまずいからね? 魔物使いはあの技を使う人を嫌っている。その事を忘れちゃいけないよ?」
「はい、分かっています。要は使っているとバレなければ良いんですよね?」
そう言うとテイニーはチラリとレクの方を見る。
するとレクは黙ってこくんとうなづいている。
何か二人の間に作戦のようなものでもあるのだろうか?
「確かにテイニーの言う通りではあるんだけど。……でも、本当に大丈夫なの?」
「はい、任せて下さい! わたし、こういう時の為に一生懸命頑張ってきましたから! レク、一緒に頑張りましょうね!」
レクはテイニーを見て、ニヤッと笑みを浮かべていた。
レクのその表情に悲壮感はなく、むしろこれから起こる事への高揚感で満ち溢れているようだった。
テイニー達、一体何をするつもりなんだろうか……。




