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88.怪しい人物が家の中に忍び込んでいたようです

「あーく、あーく、おきてー」

「……うーん、何だいラス? まだ真夜中じゃないか」



 いきなりラスが起こしてくる。

 ところが起きてみたが、辺りは真っ暗。

 近くにあった発光石を使ってから時計を確認してみると、時刻は深夜の2時。

 夜明けまではまだまだ時間がある。



「あーく、おきゃくさんがきたよー」

「お客さん……って、ラス、その中に入っている人は何っ!?」

「だからおきゃくさんがきたっていってるんだってばー」



 ラスの体の中には黒づくめの人が入っている。

 その人がもがこうとしている様子を見せているので、ラスがその人を捕えたと言った方が良さそうか。

 ……って、なんでそんな人が家の中に!?

 明らかに怪しそうな格好をしているしさ!?



「ラス、ちょっとそのまま待ってて! みんなを起こしてくるから!」

「うん、わかったー」



 僕は自分の部屋から出て、テイニー達を起こしてきた。

 そしてみんなが僕の部屋へと集まってくる。



「な、なんですか、その人は!?」

「おきゃくさんだよー。まどからいきなりはいってきたからこえをかけてみたんだけど、はなしがつうじなくてこまっているんだよねー」

「うーん、言いにくいんやけど、ラスはん。そいつ、お客さんじゃないと思うで? きっと何か悪さを企んでいる奴と思うのが普通やないんか?」

「えーそうなのー? それってこわいねー」



 ……いや、そんな人を身動きとれないように拘束している君も大概だから。

 だけど、ラスのおかげで助かった。

 ラスが起きていなければ、もしかしたら何か良くない事が起こってしまっていたかもしれないからさ。



「とにかく、その人に話を聞いてみてもいい?」

「うん、いいよー。ちょっとだけこうそくをはずすねー」



 そう言うと、ラスは体の形状を変え、黒づくめの人の口の部分だけ外に出すような形を作った。

 そして話す権利が与えられたその人が発した第一声は――



「……た、助けてくれぇ!? お願いだ! 何でもするからどうか命だけはとらないでくれぇ!?」



 全力で助けを求める必死な声だった。

 ……家の中に入ったらいきなりスライムに体を拘束され、全く身動きもとれない状態にされたら、相当戸惑うだろうね。

 それに口で呼吸をしており、呼吸が荒い事からして、きっとラスに拘束にされている間は呼吸もまともに出来なかったようにも見受けられる。

 まさにこの人にとっては地獄のような時間だったんだろう。



 とにかく何でもすると言ったんだから、とりあえず話を聞いてみようか。

 この人の処遇はその後でどうするか決めよう。



「それならまず聞きたいんですけど、あなたはどうして僕の家に無断で入ってきたんですか? しかもこんな夜遅くに」

「うぐっ……!? そ、それは…………言えない」

「うーん、まあそうなりますよね。でも今の状況を考えて言っています? このスライム、とても強くて凶暴ですから、きっと機嫌を損なうと大変な事になりますよ?」

「……ひ、ひぃぃ!?」

「早く白状しておいた方が身の為ですよ? でないと……ラス、少しだけやっちゃって」

「うん、わかったー」

「……わ、分かった! 全部話すから!? ぐぇぇぇ!?」

「ラス、一旦ストップ。多分話してくれるような気がする」



 この人の処遇はラス、及びその使い手である僕が握っている。

 その事を痛みで分からせないと話してくれなさそうなので、ちょっと鬼畜な事もしてみた。

 拷問なんてした事なかったけど、なんか心が痛むなぁ。



 僕達はそれから黒づくめの人から話を聞いた。

 それによれば、ラス達がここの家にいる事を見たその人の仲間がいて、その情報を基に、ラス達をこっそり盗み出すつもりで家に侵入してきたのだとか。



「盗んでどうするつもりだったんですか?」

「そりゃあ、魔物が悪い奴らだって町の連中に教えてやるためよ。大体、その凶暴さはこのスライムを見れば分かるだろ? 人を殺し得る残虐で危険な奴ら。そいつらが町に当たり前のように存在するなんておかしいだろぉ……って、ぐぁぁぁ!?」



 ラスに体をきつく圧迫されたのか、うめき声をあげる男。

 まあ、そんなに魔物の事を悪く言って、魔物であるラスの怒りを買わない訳がないよね。

 まさに自業自得って奴だ。



「だから今の状況を考えて下さいって。……それで、それがどうしたんです? 魔物を憎む気持ちは分かりましたけど、それと魔物を盗む理由と繋がらない気がしたんですけど?」

「ふん。何、単純な事だ。捕まえた魔物を徹底的に痛めつける。そうして人間への憎しみをためさせた状態で、町に放つつもりだ。そうすればどうなると思う?」

「もしかして……捕まえた魔物に町の人達を襲わせるつもりですか!?」

「そういう事だ。そうすれば呑気な町の奴らもさすがに魔物の恐ろしさが身に染みるだろうし、魔物を町に入れる事に反対する奴も増えるだろう。そうすれば魔物使いの奴らは町にいにくくなる。そして町を守るのはおれ達、魔法使いになるって訳さ」



 なるほど。

 この人は魔法使いだったのか。

 それにしても恐ろしい事を考えるものだ。


 確かに知性のない魔物に対して傷つけ、人間への恨みを植え付けておけば、その恨みを晴らさんとその魔物が見境なしに人間に襲い掛かる事は考え得る。

 事情を知らない町の人々は、いきなり暴走した魔物が現れたと錯覚し、魔物への不信感や恐怖を持つ事になる。

 それが積み重なれば、確かに町に魔物がいる事自体良く思わない人が増えるかもしれない……。

 魔物に忌避感を持つ人が増えれば、魔物使いはその町にいにくくなる。

 そして魔物使いがその町から出て行っても、町を守る人の存在は必要だから、その抜けた魔物使いの受け皿として魔法使いが選ばれる。

 フィラミルはもしかするとその魔法使いの計画の始まりなのかもしれないな。


 魔法使いは魔物使いを良く思っていないとは聞いてはいたが、まさかこれほどとは……。



「それは魔法使いの総意なんですか?」

「そうだ。まあこの計画を実行している奴は少数精鋭だけどな。少なくとも、魔法使いの奴にこの計画に反対する奴なんざいねえだろうよ」



 まあ、それはそうだろう。

 魔法使い側からすれば、その作戦が成功すれば、自分達の仕事が増えるし、魔物使いの居場所が少なくなる。

 魔物使いになりたがる人が減り、魔法使いになりたがる人が増えれば、将来は魔法使いの時代が来るかもしれない。

 それを考えれば、魔法使いにとっては一見良い事尽くめのように聞こえるだろうからね。



「それは違うで、あんさん。何故なら、ここに例外がおるからや。ウチは正真正銘の魔法使い。せやけどウチはその計画は決して容認できへん」

「お、お前が魔法使いだと!? それなら何故ローブを着ていない!?」

「あのなぁ。今は寝巻になっておるのが常識やないか? 今さっきまで寝ておった所なんやから。……まあ、ええわ。それならこれで分かるやろ? 周囲を照らせ、テーラ・サンダー!」



 メルはそう言うと、周囲にいくつかの黄色い光の塊を出現させ、この部屋全体が昼間のように明るくなった。

 メル、そういう技も使えたのか……。



「中級魔法のテーラ・サンダーか。しかも技の質も高い。確かにお前は魔法使いで間違いないようだな」

「そういう事や。ウチは魔物使いと仲良くやっとるギルド未所属の魔法使いというのもあるんやけど、そもそもその計画が実現したら、人類の未来はないで?」

「……どういう事だ?」

「考えてもみい。ウチらがこうして平和に暮らす事ができているのは魔物使いのおかげや。もっと詳しく言えば、魔物使いの優秀な人達が魔人族と戦って、この人間の領域を守ってくれているからこそ、ウチらはこうして平和に暮らせとる。それやのに、あんたらが魔物使いの居場所を奪ったらどないする? その人らがもしその仕事を放棄した場合、あんたらが前線を守るんか? 無理やろ? だったら多少居心地が悪くても、魔物使いの事は尊重するのが筋ってもんや。そんな先行きも見えないようじゃ、あんたの長の底が知れるっちゅーもんやな」

「た、確かに言われてみれば……」



 メルの力説に、思わずうなだれる男。

 どうやら、もし魔物使いがいなくなったら、これから先、自分達がどうなってしまうのか想像ができていなかったみたいだ。



「だが、おれにはどうする事もできねえ。おれはおれの仕事を遂行するまで! そんな先の事なんて知るか!」

「こいつ、開き直りやがったで。……全く、本当に救いようのないアホやな」



 はあ……とため息をつくメル。

 これだけ言ってもなお、計画に加担しようとするこの男に内心呆れ果てているのだろう。

 僕だってそういう気持ちなんだから。

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