87.女性は同種の合成に長けているようです
「なるほど。つまりはグレートウルフの暴走もあなた自身の合成の失敗が原因という事で間違いないですか?」
「そうね。少々無茶をし過ぎたみたいだったわ。あの子への合成は今まで十六回成功していたんだけど、さすがに限界だったみたい。危ない前兆みたいなものもなかったから、まだいけると思ったんだけど……とにかく、あなたに迷惑をかけたわね。あの子の暴走を食い止めてくれてありがとう」
そう言ってペコリと頭を下げる女性。
……十六回合成を成功させていたとは、この女性、なかなかやるな。
同種族の合成でさえ、十回の合成が限度と言われているというのに。
「いえ、もう終わった事ですからいいんです。それより”十回の壁”を超えるなんてすごいですね。どうやって”十回の壁”を超えたんですか?」
「同種族と合成するのは前提条件ね。後は時間をおいて合成する事。一日は空けた方が良いかしら。そうするようになってから、十回以上の合成をしても大丈夫な事が増えたわ」
「なるほどですね。ですけど、同種族と合成してもあまり変化はないんじゃないでしょうか?」
「あなた、感じなかったの? 同種族と合成した場合、見た目はほぼ変わらないけれど、能力はしっかりと上昇するのよ? 戦ったあなたなら、わたくしのグレートウルフの強さは分かってくれると思ったのですけれど……」
「……そ、そうでしたね! す、すいません、失礼な事を言ってしまって!? ハハハ……」
そう言って苦笑いをする僕。
正直、グレートウルフが強かったかどうかは知る由もない。
だって、ヴァルドがそのグレートウルフを一瞬にして倒してしまったのだから……。
いくらそのグレートウルフが強かったとしても、アラクネとかAランク魔物を軽々倒してしまうヴァルドの力には敵わないだろうから、違いを感じる事はできなかったんだよね。
「そういえば、あなた。まるでグレートウルフの暴走がわたくしの合成じゃない所に原因があるかのように聞いてきたわね。一体どういう原因だと思っていたのかしら?」
「あっ、はい。実は最近レクレスの町で、ゴーレムの暴走事件があったんです。ですが、そのゴーレムを従えていた人は合成を一切しない人だったので……」
「つまりは見ず知らずの人に勝手に合成をされ、魔物が暴走したと?」
「そういう事です。ですからあなたもそのような被害者なのではないかと思いまして……」
「……ふふ、心配してくれていたのね、あなた。だけど心配はいらないわ。グレートウルフの暴走は間違いなくわたくし自身が引き起こしたもの。そんなよく分からない人は関係ないですわ」
うん、だろうね。
ちなみにそれからしばらくその女性はその人の魔物を勝手に合成する輩について、ひたすら酷評していた。
異種と合成するなんて合成の使い方がなっていないだとか。
他人の魔物を使おうとするなんて身勝手にもほどがあるだとか。
どうやら、この人なりに合成の美学があるようだ。
そしてやはりこの人にとっても、その犯人の事はだいぶ許せない存在のようだね。
「わたくし、ここから出たら、犯人探しのお手伝いを致しますわ。恐らくあと三日ほどで出られるはずですから」
「あれ? 意外と短いのですね?」
「それもあなたのおかげよ。グレートウルフが人に危害を加えていたら、きっともうしばらくは出られなかったでしょうから。……今度からはもっと魔物を逃がさない為にセキュリティをしっかりして合成をしないといけないわね」
そう言って笑みを浮かべる女性。
ちなみにグレートウルフを合成している時もある程度の安全を確保するような工夫はしていたようだが、グレートウルフの力があまりにも強く、その包囲網を突破されてしまったのだとか。
外で合成すれば良いのではないかとも思ったが、それだと危なくて合成に集中できないし、町で合成を行いたいとの事。
今まで僕は当たり前のように外で合成をしてきたけど、それって結構異質な事だったんだな……。
ヴァルドが守ってくれるという前提があったからこそ、僕は外でも合成に集中できたけど、普通はそうはならないんだろうね。
「そういえばあなたの名前を教えてもらっても良いかしら? わたくしはメリナと申しますわ」
「僕はアークと申します」
「なるほど、アークね。アーク、今度機会があったら、あなたが合成する所を見せて下さらない? そのゴブリンの様子からすれば、きっと結構な回数、オーガと合成していそうですから」
「そうですね。機会があったら良いですよ。その時は是非、メリナさんの合成も見てみたいです」
「もちろん望む所よ。ふふ、ここから出た後の事が一層楽しみになってきたわね……」
そう言って微笑むメリナ。
合成に長けた者同士、話し合いたい事がきっとあるんだろう。
僕も色々と聞いてみたい事もあるし。
面会の時間制限があるので、このような切り上げ方をしているんだろうけど。
それから間もなく、警備の人から部屋からの退出を促され、僕達は面会を終える事になった。
面会を終えた僕達は一旦自宅へと戻り、落ち着いて話す事に。
「……アークさん以外にも、合成に長けた人はいらっしゃるのですね」
「僕も初めて知ったよ。でも結構珍しいんじゃないかな? 合成は多くの魔物使いにとってはあまり良く思われないものだから。合成について詳しく知ろうともしない人が大半だからこそ、見た目が少し変わっているゴンやホクを見られても何も言われないし」
「確かにそうですね。ゴンさんにはオーガの、ホクさんにはガルーダの特徴がありますから、普通のゴブリンやホークと見た目が違いますのに、気にされないですよね」
何か他の種族と特徴が混ざる事は合成に長けた人にとっては常識だ。
ただ、合成に長けた人の中でも、異種との合成にしか興味のない人も多いと言われていて、その人であれば、ゴブリンにオーガの特徴が混ざる事に関して気付かないかもしれない。
先程のメリナはゴンを一目見ただけで、ゴンに合成をしているという事を見破ってきた。
それはメリナが同種、もしくはその種族に近い魔物との合成に長けた人だったからなのだろう。
そういった同種の合成に長けた人というのはなかなか珍しいと思うのだ。
「それにしても、あの様子じゃ、メリナはんが犯人とは考えにくいやろな。合成に対してかなりのこだわりがあるようやし、それ故、そんなこだわりに反するような行為をするとは思えへん」
「そうだね。僕もあの人は犯人じゃないと思ってる。きっとにおいは何らかの方法で偽装されたものなんだろう」
「でもそうなると厄介やな。ウチらはこれで犯人の手掛かりを失った事になる。これからどうすればええんやろな?」
「うーん、そうだね……」
僕達は犯人のにおいを頼りにここまで来た。
だけどそのにおいは偽装されたもので、追う手掛かりには使えないと判明した。
となれば、僕達は犯人を追う手掛かりを失った事になる。
うーん、確かにこれは困ったな。
「とりあえず、今日はこのまま休んだ方がええかもな。もうだいぶ日が暮れてきた事やし」
「そうだね。それに色々あって疲れちゃったし、ゆっくり休んでから考える事にしようかな」
今日はゴンがボルージのフェニックスに勝っちゃうとか、ゴーレムの暴走を止めるとかイベントが盛りだくさん過ぎて、さすがに疲れちゃった。
また倒れる訳にもいかないし、早めに休んでおくべきだろう。
僕達はこうして夕食などとったり、雑談をしつつ、家で寝る事にした。




