86.倒したグレートウルフの主と会う事にしました
「うーん、どうしたら良いんでしょう? 何か良い方法はないんでしょうか?」
「拘留所の中に入る事はできるかもしれないけど、でも用がないのに入ったら怪しまれるんだよね……」
別に拘留所に入る事自体はできる。
ただ、中ももちろん厳重に警備されているだろうし、あまり建物の奥に入る事はできないだろう。
もし奥まで入れるとすれば、それは囚人に面会に来たような人だけだ。
「確かにそうやな。何かもっともらしい理由をつけて、内部に侵入する事はできないやろか?」
「……そうだね。一応考えがない訳ではないよ。うまくいく保証はないけど」
「ほう。それはどういう考えなんや、アークはん?」
「僕はかつてこの町で起きたグレートウルフ事件を解決した事がある。そしてそのグレートウルフを従えていた魔物使いはここに拘留されている。つまり、その人の話を聞きに来たといえば、もしかしたら中に入れるかもしれない」
僕が倒したグレートウルフの主。
その人との面会目的で会いに来たのであれば、面会してもおかしくないような理由に一応なる。
何かしらの目的で、そういう面会をする人は意外といるようだし。
相手から断られるという可能性もあるので、必ずしも面会が成立する訳ではない為、一種の賭けにはなるのだが。
「なるほどなぁ。でもええのか? もしそうなれば、アークはんは恨み事を言われるかもしれへんで? もしかしたら前のゴーレム事件のあんちゃんみたいに純粋な被害者の可能性もあるんやから」
「そうだね。もしその人がそういう立場だったら、グレートウルフを倒した僕は恨まれてもおかしくないかもしれない。ただ、どちらにしろ、その人とは話してみたかったんだ。もしゴーレム事件のような立場の人だったら、どのようにしてああなってしまったのか聞くこともできるだろうし」
「……つまり、覚悟の上という事なんやな?」
メルの言葉に僕はうなづく。
そしてその様子を見たメルは。
「分かった。なら、一緒に行こか。アークはんだけにそういう辛い目にあわせる訳にもいかへんからな。何か悪口を言われたら、ウチが二倍三倍にして相手に言い返したるわ!」
「わたしも一緒に行きますよ、アークさん! アークさんは悪くないっていうこと、わたし、精一杯伝えますから!」
「二人とも……別にまだ僕が恨み事を言われる訳じゃないんだけどね。でもありがとう。頼りにしているよ」
僕がそう言うと二人とも微笑んだ。
二人とも本当に一緒にいると安心するな。
一人じゃないっていうのは本当に心強い。
……まあ、できればメルにはちょっと発言は控えてほしいんだけど。
前の防具屋の主人みたいに険悪なムードになっちゃうかもしれないし。
そういう訳で、僕達はその人に面会する作戦でいくことにした。
面会するとなれば、きっと拘留所の奥の方まで入る事になる。
そんな時に小さなラスの分体を分離させ、こっそり中を調べてもらう。
そうすれば、においの元を特定するという算段だ。
まあ上手くいかなかったら、また別の方法を考えればいいだろう。
とりあえず早速行動を開始するとしますか。
僕達は拘留所の建物の中に入っていく。
そしてその受付にて、僕はグレートウルフ事件を解決した者であり、その事件の原因となった魔物使いと面会したい旨を伝えた。
その返事を待つ為、近くの席で待つ事、数分……。
「お待たせ致しました、アーク様。無事、面会の許可が出ましたので、こちらの階段から地下へと向かって下さい」
「はい、分かりました。ありがとうございます」
どうやら許可が下りたようだ。
という事は、あちらとしても僕に何か話をしたい事だろう。
一体何を聞かれるんだろうか。
ちょっと気になるな……。
僕達は地下へと下りていく。
一階下りたら案内役の人が待っていたので、以後はしばらくその人に付いて行く事に。
「それではこちらの中に入ってお待ち下さい」
一室へと通される僕達は、言われた通り、その中に入っていく。
部屋の中は何もなく、ただ部屋の中央には透明の壁みたいなものがあった。
きっと、ここが面会室なんだろう。
透明の壁は恐らく透鉱石というものでできており、とても頑丈な性質を持っている。
だからこそ、囚人が何か暴れた所で、壁が破壊されないようになっているんだろうな、きっと。
僕達はしばらくそこで待つ事になった。
その間、ラスにこっそりにおいの元の探索状況はどうかと聞いたが、進捗はよくないらしい。
分体は目に見えにくい色に擬態して、壁などに張り付きながら移動しているので、特に見つかってはいないのだとか。
扉などが阻んでいて、思うように先に進めないそうだ。
まあ、やっぱりそうなるか……。
誰かが扉を開けた瞬間を見計らって移動するしかないから、きっと時間がかかるだろうな。
でも、中に入れただけ良かった。
後はラスの報告を待てば良いだろう。
「ただきになるのは、そのにおいのもとがだんだんちかづいてきていることなんだよねー」
「においの元が近付いてきているだって? それってもしかして……」
そんな事をラスと話していると、この部屋の壁の向こう側にある扉が開く。
そして現れたのは、長くてくるくるとした金髪をした女性だった。
派手なルックスをしているが、くすんだ灰色をした囚人服を着ているので、そのミスマッチ感がすごかったりする。
その女性を見た途端、ラスは僕の足元でぴょんぴょんと跳ねる。
……なるほど、やっぱりにおいは偽装されていたか。
僕はラスと事前ににおいの元の人物が近くにいたら足下でぴょんぴょん跳ねるように言っておいたのだ。
そして今ラスはその動作をしている。
つまりは、この金髪の女性、暴走したグレートウルフの主がにおい元という事で間違いないだろう。
そうなると、このにおいは偽装されたものである事はほぼ確定したも同然になる。
あの日以来、ずっと拘留所の中にいたであろうこの女性が、つい先ほどのゴーレム事件に関与できる訳がないからね。
何者かがどのようにどうしてこの女性ににおい付けをしたかは知らないけど、厄介な事になりそうだな……。
部屋の中には面会する人間の数だけ椅子が置いてあり、相手の女性は席についた。
それを見た僕達もその向かい側の席につく。
しばし流れる沈黙。
それから口火を切ったのは相手の女性だった。
「そこのゴブリン……合成してますわね?」
……えっ?
この女性、いきなり合成の事について見破ってきただって!?
確かにゴンはゴブリンのサイズでありながら、顔など体にはオーガの特徴が入っているから、ちょっと変わったゴブリンには見えるかもしれないけど。
でも一目見ただけで合成していると見破るなんて。
「……はい、そうです。どうしてその事を?」
「お分かりでしょう? 暴走事件が起こるという事は、合成が行われていたという事。わたくしは愛する魔物達を強くする為、合成に励んでおりますの。ですからそれ位の事は当然存じておりますわ」
……なるほど。
どうやらこの女性は合成の経験がだいぶ豊富らしい。
そしてこの感じからすると、きっとグレートウルフの事件はこの女性自身の合成の失敗で引き起こされたと見てよさそうだ。
つまりはゴーレム事件のような被害者ではないという事。
ちょっと肩の荷が下りたような気がするな……。




