85.においの元にたどり着くのは難しいようです
フィラミルに到着した僕達。
しばらくはフィラミルを活動拠点にする事になると思うので、とりあえず重たい荷物を置く為に自宅に行く事にした。
いきなり訪れる事にはなるけど、多分大丈夫だろう。
「アークさんの家ですか……どんな所なんですか?」
「別に普通の家だよ。ただ、父さんの稼ぎがあるから、今考えればちょっとだけ家は広いかな。少なくとも、荷物置き場に困る事はないよ」
「それなら安心やな。ちなみにウチら全員寝泊まりできる程、広いんか?」
「まあできなくはないかな。窮屈な思いをする事にはなるだろうけど」
「なるほどな。なら、万が一捜索が長引くようなら、アークはんの家で一泊するというのもアリっちゅー訳や」
「そうだね。まあ、そうならないで欲しいんだけど」
誰にも気付かれずに、人の従魔に合成を施すような輩だ。
恐らくそう簡単に見つける事はできないだろう。
合成をするには陣が必要だし、その儀式を終えるまでに数分はかかる。
そんな事をやれば、必然的に目立つだろうし、そんな事をこっそりやってしまえるなんて、よほど隠密の力に長けているに違いない。
決して油断はしない方が良いだろうな。
僕達はフィラミルの町を歩き、そして、自分の家の前に到着した。
鍵を開け、家の中へと入っていく。
「ただいまー」
「あらっ、アークじゃない!? おかえりなさい。どうやらお仲間さんができたようね」
「初めまして。わたしはテイニーと申します。アークさんと一緒に旅をさせてもらっています」
「ウチはメルというねん。よろしゅうお願いしますわ、アークはんのおふくろはん」
「あっしはレクと申しますニャ。以後、お見知りおきをニャ」
「あらあら、喋るケットシーさんまでいるなんて、随分と面白いパーティね」
フフと笑みをこぼす母さん。
とても喜んで出迎えてくれているようで何よりだ。
荷物を適当な場所に置いて、少しだけくつろいでいると、母さんから話しかけられる。
「そういえばアーク、色んな町で噂になっているわよ。ボルージさんをあっさりと打ち破ったゴブリン使いがいるって。それってアークの事でしょ?」
「あっ、この町までその噂は広がっていたんだ……」
「ふふっ、でも正直町の人達は信じていないみたいだけどね。それにしてもAランク魔物使いの人に勝っちゃうなんて、すごいわよね、アーク! このままいけば、父さんに勝っちゃうのも時間の問題かしら?」
「そうだね……。今度の大会では父さんと会う事になるし、もしかしたら大会で戦う事になるかもしれない。その時には良い勝負ができるように、頑張るつもりだよ」
「そうね。きっとアークならできるわよ。それに良い勝負をするじゃなくて、勝つ、じゃないの?」
「そんな簡単に勝てるとは思っていないよ。でも、そうできるように、頑張らなくちゃね」
「その意気よ。頑張ってね、アーク」
大会までにはまだ時間がある。
一通り町めぐりをしたら、首都デコラーダに戻って、所属するギルドを決めたり、特訓しないといけないだろうな。
まあ、その時になったら考えれば良いか。
「そういえばアーク、戻ってきてくれたのは嬉しいんだけど、何かここに用があって戻ってきたの?」
「うん、そうなんだ。実はね――」
僕は母親にゴーレム事件の事を話した。
すると母親は。
「なるほど。確かにそれは大変だったわよね……。でもそれをアークが何とかしちゃったなんて、さすがはアークよね」
「僕もうまくできる自信はなかったし、正直賭けだったんだけどね。でも成功して良かったよ。……そういえば、最近この町でおかしな事は起こっていない? 魔物が暴走するとかさ」
「そうね……。魔物が暴走するというのはグレートウルフの時以来ないんだけど、最近従魔が突然いなくなってしまう事があるみたいなの」
「従魔が突然いなくなってしまうだって? 詳しく話を聞いても良い?」
「ええ、いいわよ。とは言っても詳しくは知らないから、聞いた話によればね――」
それから母親から聞いた内容によれば、どうやら朝起きたら従魔がいなくなっていたという現象がよく発生していたらしい。
フィラミルにいる魔物使いはさほど多くないから、そんな数少ない魔物使いの情報は町中に噂になるのだ。
その現象も、そんな噂から伝わってきたようだね。
「だからアークも十分気を付けてね? 大事な従魔達がいなくなってしまうなんて、とても寂しいでしょうから」
「うん、分かってる。心配してくれてありがとう。でも、大丈夫だよ」
そういう被害を出さない為に、僕達はここに来たのだから。
だから必ず犯人は捕まえてみせる。
そう改めて誓う僕なのであった。
「あっ、そうそう。あまり関係ないかもしれないけど、あのグレートウルフ事件をきっかけに、この町では魔法使いを護衛に置く事が決まったの。今では数人の魔法使いがこの町を守っているのよ」
「魔法使いを護衛に?」
「ええ。きっと暴走する魔物をアークが魔法を使って倒したように見えたあの事件から、魔法使いへの注目が高まってね。それで魔法使いに町を守ってもらう事になったのよ」
魔法使いが町を守る、か。
別に町を守ってもらえる事は良いんだけど、何か嫌な予感がするな……。
とにかく、もう十分休息はとれただろう。
早速においをたどって犯人探しをする事にしようか。
それから家を出た僕達は、犯人探しを再開する。
するとメルが何か変な表情を浮かべた。
「どうしたの、メル? 何かあったの?」
「何か妙なんよ。もしかすると犯人はにおいを偽装しておるかもしれん」
「においを偽装? そんな事ができるの?」
「そういう魔法はあるんや。アラクネ由来の魔法、魅惑の偽香。とても難易度が高くて、使える者は限られておるはずやけど、このちょっとした違和感はもしかしてそれが原因なんではないかと思うてな」
そんな魔法があるのか。
となると、今僕達がおっているにおいも、もしかしたら偽装されたものかもしれないという事になるのだろう。
「そうだったらとても厄介だね……」
「せやな。でも、まだそうと決まった訳ではあらへん。とりあえずにおいを追ってみるべきやろう。手掛かりはそれしかないんやから」
「それもそうだね。とりあえず、引き続きにおいは追っていく事にしようか」
何かあったとしても、行動しなければ始まらない。
とりあえず行動をしよう。
ただ、その結果が必ずしも正しいとは限らないと注意しながらね。
僕達がしばらく歩いて行くと、とある建物の前へとたどり着いた。
そこでラスとウルが立ち止まる。
「この建物の中からにおいはするっていうのかい?」
僕がそう聞くと、ラスとウルはこくんとうなづいた。
僕達が立っているのは、フィラミルにある拘留所の前だ。
つまりは拘留所の中に、においの元となる人物がいるとみた方が良さそうである。
となれば、犯人は拘留所で働いている人なんだろうか?
拘留所の中にいたら、事件を起こせるはずもないし。
もし拘留所に囚われている人からにおいがするのであれば、においが偽装されている可能性が高い。
ただ、それを一体どうやって確かめよう?
建物の入口には見張りの人もいるし、厳重な警備がひかれているこの状況では下手な動きはできないだろう。
「一旦仕切り直した方が良さそうやな。少し移動するで、アークはん?」
「うん、そうした方が良さそうだね」
僕達は拘留所の前から立ち去り、人がほとんど通らない路地裏にやってきた。
そこで一旦息をつく。
果たして、これからどうすれば良いんだろうか。




