84.テイニーも犯人の事を許せないようです
「ありがとう、メル。助かったよ」
「いやいや気にせんでええって。アークはんって何かをやろうとしたら、それに一直線やもんな。まあそこがええんやけど。ウチはそのサポートをちょこっとしただけや」
「気遣ってくれてありがとう。でも、出来る限りメルに迷惑をかけないように頑張るよ」
僕達はレクレスの町を歩いている。
先程の騒ぎも落ち着いたようで、町の人達はいつもの様子で過ごしている。
ちなみにゴーレム使いのゼルは、レクレスの町から出る事にしたようだ。
まあ、騒ぎを起こしてしまった後だし、その方が賢明だろうね。
いくらおとなしくなったといっても、事情を知らない町の人達にはゴーレムがまた暴れ出すと思われるだろうしさ。
「そういえばメルは思考誘導の技を使っていたらしいけど、その技も何かの魔物の技を元にしているんだよね?」
「そやで。その技は確かノーム由来の技やったかな。さすがにノームを直接見て、技を覚える訳にはいかんから、本を読んで覚えたんやけどな。その本、かなり高価やったでー?」
ノームか。
ノームはAランク魔物で、知性の高い小人のような魔物だと聞いた事がある。
地中を住処としているらしいが、その生息地は明確には分かっていないのだとか。
「そのメルの技ってさ。なんかヴァルドの呪いと似ているような気がしないかな? 存在を認識させないとか、そういう所がさ」
「言われてみれば確かにそうやな。となれば、ヴァルドはんの呪いを解くカギはノームにあるという事やろか?」
「そうとは言い切れないよ。でも、有力な手がかりである事は確かだと思う。今後は、単純に呪いについて調べるのではなくて、ノームについても調べた方が良さそうかもね」
まさか、メルからヴァルドの呪いのヒントが出るとはね。
実に予想外だったよ。
でもこれでようやく呪いについて一歩前進する事が出来た気がする。
まあその一歩は限りなく小さいものなんだろうけど。
だってノームがどこに生息しているのかすら分からないのだから。
早速僕はレクレスの町にある本屋に行き、ノームに関する本がないか調べてみた。
しかし、名前が書いてある本はあれども、その生態に関して載っている本は全くなかった。
まあ、そんな早々収穫がある訳ではない、か。
「収穫はなかったようやな」
「そうだね。まあ、あまり期待せずに探す事にするよ。ヴァルドもそんなに焦っているような様子をしていないしさ」
「それならええんやけどな。……で、これからどうするん、アークはんは?」
「うーんと、そうだなぁ……」
Cランクに昇格する為にはホクにガルーダを合成をたくさんする必要があるだろう。
そしてそれは僕がホクに乗って空を飛ぶ為の第一歩でもある。
だからそのホクの合成が直近にやるべき事の一つ。
だからそれをやろうとしていたんだけど、そこであの事件だ。
ゴーレム事件。
合成を全くしたことのない男の従魔がいつの間にか合成されて、その従魔が暴走をするという、信じがたい事が起こった。
魔物の暴走は合成の失敗によって起こるものであり、そういう魔物はその魔物の主が合成に失敗して暴走する、つまり自業自得なものだと思っていた。
だけど、ゴーレム事件はその僕が思っていた内容とは事情が異なる。
つまり、合成をしたことのない人の従魔が勝手に合成をされ、そして暴走して人と共に過ごせなくなる事が起きているのだ。
そんな合成の悪用をする人なんて許せない。
その事が今さっき起きたという事は、恐らく近くにそういう悪質な事をしている奴がいるんだろう。
そいつを探して懲らしめるべきだと僕は思っている。
人々が安心して従魔と一緒に暮らせるように。
そして合成という技術が悪者になってしまわないように。
「僕は人の従魔に勝手に合成をした奴を許せない。そいつを見つけて懲らしめてやりたいと思っているんだ」
「なるほどな。確かにそうしないと、また同じような事が繰り返される可能性は高いもんやろうし、その方がええやろう。ただ、どうやって探すんや? 手掛かりは特になかったやろ?」
「……手掛かりならあるんじゃないかな? ラス、さっきのゴーレムから何か異質なにおいを感じなかった?」
僕がそう聞くと、こくんとうなづく。
やはり、ラスはゴーレムに触れたその犯人のにおいをかぎとれたようだ。
ならば、そのにおいを頼りに追っていけば良いだけ。
僕はラスにお願いをして、その異質なにおいの元をたどってみる事にした。
においは遠くからするという事なので、宿屋から大きな荷物を持って来て町から出る準備を終えた上で、においをたどる事に。
そしてにおいをたどる事、数分。
「ラス、本当にこっちからにおいはしているの?」
「うん、そうだよーまちがいないとおもうよー」
「アーク、オレもそう思う。オレの嗅覚でもこっちの方からそいつのにおいは感じる」
「そっか、ウルも嗅覚には優れているんだね。二人が言うのなら間違いないんだろうけど……」
においをたどっている僕達はレクレスの南側から出て、そのまま南方向へと進んでいく。
そのまま進めば、恐らくたどり着くのは僕の故郷フィラミルである。
まさか、犯人はフィラミルにいるというのだろうか……!?
「アークさん、これって……」
「うん。恐らく犯人はフィラミルにいる。少なくとも、現状フィラミルに潜伏していると考えた方が良さそうだ。町の人達が心配だな……」
フィラミルでは以前にグレートウルフの暴走事件があった。
だからこそ町の人達は、魔物の暴走に敏感になっているだろうし、再びそんな事が起きたら、きっと良くない影響があるに違いない。
合成を嫌うだけならまだしも、魔物自体、町に入れたくないと思う人が出てきてもおかしくないだろう。
そしてその声が大きくなってきて、万が一魔物の連れ込みが完全に禁止されれば、色々と不自由になってしまうし、そんな事は避けたい。
「フィラミルってアークさんの故郷ですよね? 確か以前にグレートウルフの暴走があったっていう」
「そうだね。それのおかげで僕はカリスマ力が手に入ったし、僕が魔物使いになるきっかけになった出来事ではあったし、被害もほとんどなくおさめる事はできた。でも、もしかするとその事件もさっきのゴーレム事件のようなものだったのかもしれないと思うと、何だか複雑だな……」
「そうやろな。でも、その当時のアークはんにはラスも他の従魔もおらんかった訳やし、どちらにせよ、倒す以外の選択肢はなかったやろ。せやから、あまり自分を責める事はないで」
「うん、分かってる。分かっているんだけど……」
一緒に暮らしていた自分の従魔がある時にいきなり暴走して、倒さなければいけなくなった。
そんな事が自分の身に降りかかったら、どんな気持ちになるだろう?
正直、想像もしたくない。
もしグレートウルフの使い手がそういう立場にあったんなら、きっと大きな悲しみを背負っているんだろう。
そして合成の事を恨むだろう。
自分の手から従魔を奪った原因となったその技術を。
合成さえなければ、そんな事にはならなかっただろうから。
「とりあえず、早く犯人を捕まえよう。そして償わせるんだ。僕達魔物使いが魔物と一緒に暮らす平穏な日々を奪おうとする、そんな極悪人にね」
「そうですね。わたしも許せません! だって、もしレクやリザがいきなりそうなってしまったら、わたし、どうしたらいいか……」
「テイニー、その心配はない。俺、気合でそんな合成にも耐えてみせる」
「あっしもその意気だニャ。それにあっし達には正しき合成の使い手、アークがいるニャ。万が一そうなっても、アークなら治してくれる。だから心配する事ないんだニャ」
「……そうですよね。でも、やっぱりそんな恐怖に怯える生活はしたくないです。アークさん、何としてでも犯人を捕まえて懲らしめてやりましょう!」
「うん、そうだね。一緒に頑張ろう、テイニー!」
テイニーも同じ魔物使いとして、その犯人に思う所はあるようだ。
きっとこの話を知ったら、テイニーだけでなく、魔物使いならみんな、その犯人を許さないだろう。
それだけの事をそいつは犯したのだ。
ただですませて良いものじゃない。
僕達は犯人を懲らしめるべきだという思いを一層強めながら、ラスとウルの後をついていく。
そして、僕達はついにフィラミルにたどり着くのだった。




