83.未知の合成に挑戦してみました
「すいません。あなたに話があるのですが、良いでしょうか?」
「…………は、はい?」
僕はみんなが待つ所まで戻り、男に話しかける。
いきなり僕に話しかけられた男はきょとんとした様子だ。
どうやらゴーレムがラスに拘束されてからしばらく時間が経ったからか、男もだいぶ落ち着きを取り戻しているようだ。
これなら話し合いが出来そうだね。
僕はそれから男に話をした。
ゴーレムは何者かによってワイバーンと合成されてしまったであろう現状。
そしてそれによってゴーレムの体が非常に不安定になって自我を保てなくなっている事。
このままではゴーレムを倒さないといけなくなるだろうという事。
「そ、そんな事って!? ……わ、分かってはいるさ。ゴーレは暴走ってやつになっているんだろ? そして暴走になった魔物は始末するしかない……」
「はい、そういう事になります。残念ですが……」
「な、何か方法はないのか!? ゴーレを助ける方法は!? おれ、あいつに何度も命を救ってもらったんだよ! こんな形で別れる事になるなんてあんまりだ……!?」
そう言ってうつむく男。
確かに、合成をした事もなく、普通にゴーレムと暮らしていたのに、ある日突然、合成でゴーレムがダメになってしまったなんて理不尽極まりないよね。
僕もそんな事があってはいけないと思っている。
「僕に一つ考えがあります」
「……な、何か方法があるのか!?」
「はい。ですが、それによって救える可能性はほぼゼロにほぼ等しいと思います。そしてそれに失敗したら、今度こそ完全にゴーレムを倒さなければいけなくなるでしょう」
そう、ゼロに等しい。
ゴンが言った提案には色々と未知な部分が多すぎる。
確かに僕は合成自体を安定して行う自信はある。
だけどスライムが擬態したものを合成した事なんてないし、そもそも体が限界を迎えている魔物に合成をした事すらない。
とても上手くできる保証なんてできる事ではないのだ。
「でも、完全なゼロではないっていう事だろ!? それならそれでもいい! やってみてくれっ!」
「分かりました。それなら僕も全力であなたのゴーレムを救えるように努めます。何しろ前例のない事ですから、そう上手くいくとは思っていません。でも、抗ってみせます! いくよ、ラス!」
ゴーレムの主は意思を示した。
可能性が少しでもあるなら、それに賭けると。
ならば、僕はその思いに応えるべく、全力を尽くすのみ。
僕はラスにさらなる分体を作るように指示をした。
そして、その分体をゴーレムに擬態するように指示をする。
「す、すげえ。ゴーレにそっくりだ……」
男からは思わずそう言葉が漏れる。
それはそうだろう。
何しろ、ラスが知っているゴーレムは、このゴーレムのみ。
故にゴーレムを再現する時は、このゴーレムを再現する他ないのだ。
ただ、黒い部分はゴーレムのものでないと分かっているのか、そこの部分だけはないみたいだが。
分体でゴーレムを拘束して感触やら見た目やらを把握できているからか、見た目の完成度は相当高い。
思わずゴーレムの使い手の男すら驚くほどだ。
……さて、それじゃ合成に移るとしますかね。
僕は拘束されたゴーレムの近くに陣を描く。
そして描き終わった後、ゴンやホク、ウルにも協力してもらって、拘束されたゴーレムを陣の中央まで移動させる。
さて、これで準備は大丈夫だろう。
「ではこれから、このゴーレムとラスの擬似ゴーレムを合成します」
「……えっ!? 合成って、まさかゴーレをおかしくしたやつの事じゃないか!?」
「はい、その合成です。合成によって魔物をおかしくする事もあれば、その逆もあって然るべきだと思うんです。合成自体が悪い訳ではない。使い手が良ければ、合成という技術は魔物達を救い得る。僕はそう信じているんです!」
僕がそう必死で訴える。
すると男はしばらくその場で悩んだ後、僕の目をまっすぐ見て言った。
「分かった。おれはお前の合成を信じるよ」
「……ありがとうございます。それじゃラス、一旦ゴーレムから離れて! みんな、拘束技をお願い!」
ゴーレムを拘束するラスの分体は離れ、一時的に拘束から解放されるゴーレム。
しかし、その直後にみんなが手足を攻撃したり、リザの麻痺の粉などで安易な行動を許さない。
仕上げに、ラスの擬態ゴーレムがゴーレムを抑えつけた!
「よし、これならいける! それじゃ、始めるよ!」
僕はゴーレムに対し、合成の儀式を行った。
そして数分経ち、ラスの擬態ゴーレムはゴーレムと一体となる。
「ヴァルド、状態は!?」
「あまり変化はなさそうだ。いや、少しだけマシになったような気もするな?」
「なら、もっと回数が必要みたいだね。ラス、もう一体擬態をお願い!」
僕はそれから何度にも渡って、ゴーレムに擬態ゴーレムを合成する事を繰り返した。
それから一時間近くは経っただろうか。
そんな時、ヴァルドが僕にある事を告げる。
「よく頑張ったな、アーク。たった今、ゴーレムの体は一定の安定度を取り戻した。もう大丈夫だろう」
もう大丈夫。
その言葉を聞いた僕は緊張から解き放たれるようにして、その場に座り込む。
僕がヴァルドの言葉を伝えると、みんな驚き、そしてゴーレムの使い手はゴーレムの方に駆け寄っていた。
ゴーレムは身動きがとれない状態にはなっていたが、それでも駆け寄ってきた使い手の男の方を向いているようだ。
「ゴーレ、本当にお前、助かったのか!?」
そうゴーレムに話しかける男。
ゴーレムは相変わらず身動きがとれないでいるが、何となく、落ち着いたような雰囲気になっていた。
それから少し経つと、ゴーレムの体が回復し、立ち上がれるようになった。
立ち上がったゴーレムは、先程までの様子とはうって変わって穏やかな様子であり、そっと自分の肩に使い手を乗せていた。
「ゴーレ、本当にお前、助かったんだな! えっと、合成の使い手さん、本当に助かったよ! おれ、もうダメかと思っていた!」
「僕もまさか上手くいくとは思っていなかったですよ。大切な従魔が助かって良かったですね」
「ああ、本当に良かった……! すまないが、お前の名前を聞いてもいいか?」
「僕の名前ですか? 僕の名前はアークといいます。見ての通り、魔物使いをやってますよ」
「おれの名前はゼルというんだ。アーク、本当にありがとう! 何かお礼をしたい所なんだが……」
そう言ったものの、何かある訳でもないというような感じで、困った表情を浮かべるゼル。
まあ、いきなりお礼をしようと思ってもなかなか出来ないよね。
「お礼はいらないですよ、ゼルさん」
「えっ、でもそれじゃおれの気が……」
「もしお礼がどうしてもしたいというのなら、どうか合成を嫌いにならないで下さい。合成は使い手によって、悪い事にも良い事にも使えるものです。確かに重大な結果をもたらしはしますが、だからといって、それが悪いものだと思わないで欲しいんです」
ゴーレムをめちゃめちゃにされたゼルにとって、きっと合成は憎くて仕方ない事だろう。
でも、それで合成自体が悪いという事にされて、そういう認識が人々に蔓延してしまったら、合成自体が出来なくなってしまう。
合成はこんな未知の可能性を秘めているというのに。
「……そうだな。今は正直合成っていうものへの恨みは残ってる。だけどゴーレを救ってくれたのも同じ合成だ。だから約束は出来ないが、時間が経てば、きっと合成を忌み嫌うような事にはならないと思う」
「……ありがとうございます。頭ごなしに否定せず、考えてくれるだけでも、僕は嬉しいですから」
僕達はそれからゼルと別れた。
ちなみに僕がしばらく合成をしている間、メルが頑張って思考誘導の魔法をかけてくれていたようで、その様子を見ていた人はいなかったようだ。
こんな妙な様子を見られたら、また変な噂が流れちゃうもんな……。
メルの機転に助けられた格好だね。




