89.ラスは何か危険な事をしたようです
さて、この男の処遇はどうしたものか?
開き直ってからというもの、男はそれ以上何も話さなくなっていた。
どんなに痛めつけられたり、苦しい思いをさせられても全く情報を吐き出す事はなかった。
意地になっているんだろうか?
それに痛めつけられている時の男の反応もだんだん鈍くなってきている。
前はうめき声とかをあげていたのに、今はそういう反応も特にせず、平然としている。
もしかすると、そういう痛みに対して慣れてしまったのかもしれないな、この男は。
そうなると、このままじゃラチが明かないし、ただの時間の無駄だな……。
「この男、どうしようか? 逃がしたら、また襲ってくるだろうし、僕達の身が危ない」
「そやな。せやけど、殺すというのもできない以上、困ったものや。正直外であれば、適当に魔物に襲われて死んだ扱いにできるけど、ここは町の中やしな……」
ここは自分の家の中だし、もちろん町中である。
そんな所で人を殺せば、間違いなく跡がつくだろう。
でもだからといって、ただ逃がしただけでは良くない事は分かり切っている。
せめて、今後僕達を襲わないようにしてくれればいいんだけど……。
「あーく、みのきけんがあるから、このひとはきけんなんだよねー?」
「うん、そうなんだ。この様子じゃ、脅しても意味がないだろうし、困っているんだよね。殺す事はできない。でも脅して、今後僕達に敵対させない事もできない。一体どうしたらいいのか……」
「そういうことならぼくにまかせてよーあーく」
「……えっ? 何か良い方法があるの?」
「とりあえずあーくたちにてきたいしなければいいんだよねーならなんとかなるとおもうよー」
僕達に敵対できなくする事が可能……?
ラスはどうやってそんな事を実現するつもりなんだろうか?
「ラス、君の考えを聞いてもいい?」
「うーん、しょうじきないようはいえないかなー。ぼくをしんじてとしかいえないんだー」
「何か言えないような内容をするっていう事?」
「うん、そういうことー。だからそのあいだ、このへやからいったんでてほしいんだー」
言えないような事をするって、何をするつもりなんだ、ラスは……。
でも、良い考えが浮かばない以上、ここはラスを信じてみよう。
ダメだったらその時、考えればいいか。
「うん、分かった。僕はラスを信じる。みんなもそれでいいかな?」
僕の言葉にこくんとうなづくみんな。
どうやらみんなの意見が一致したらしい。
「それじゃ、ラス、とりあえず僕達は一旦部屋の外に出るよ。どれ位待っていればいい?」
「そうだねーたぶんごふんくらいかなー。おわったらよぶからちょっとまっててー」
「うん、了解だよ。それじゃ、よく分からないけど頑張ってね」
「うん、まかされたよー」
僕達はこうして部屋から出た。
そして部屋の扉を閉じて、数分。
「おわったよーみんなー」
ラスが呼ぶ声がしたので、僕達は再び部屋の中へと入っていく。
すると部屋の中にはラスの拘束から解放された黒づくめの男がいた。
そして僕達を一目見るなり、ひざまずいてこう言った。
「我が主様、先程は大変なご無礼を働いてしまい、誠に申し訳ありませんでした!」
……へっ?
だ、我が主様って……一体どうしたの、この男は!?
ラス、一体何をしたんだ!?
「ラス、君は一体何をしたんだ……」
「うん、だからひみつだよー。でもこれでもうあんしん。もうぼくたちにさからうことはないよー」
「はい、ラス様の仰る通りでございます。拙者は今までとんでもなく愚かで、そして無礼を働いて参りました。故に拙者は我が主様に命を差し出す事はあれど、無礼を働く事は一切ありませぬ! もし無礼を働くような事があれば、むしろその場で命を差し出す所存!」
な、なんだこの気迫は。
と、とにかく、この様子なら僕達に敵対する事はなさそうだ。
というか、むしろ何か尊敬の眼差しで見てくるのは気のせいだろうか?
ラスはこの男に一体何をしでかしたんだ、本当に……。
「と、とにかく落ち着きなはれや。あんさん。何があったのかは知らんけど、アークはんも戸惑っておるで?」
「と、戸惑わせてしまいましたか!? こ、これはとんでもない罪でございますね!? 主様、どうか拙者を今すぐ裁いて頂けないでしょうか!?」
「い、いや、そんな裁くとかいいですから! それより、先程教えてくれなかった情報を教えてくれたりするんでしょうか? 例えばあなた達の本部の場所とか」
「はっ! もちろんでございます! むしろ先程、拙者が主様に秘密を隠そうなど、無礼極まりない事をして申し訳ありませんでした! いっそのこと、どうか拙者を――」
「だからそのくだりはいいですから! 情報を教えて下さい!」
自分の非を認めるのはいいんだけど、ここまでされるのはちょっと面倒だな……。
とにかく、内容を話してくれるようなので、僕達は男の話を聞くことに。
どうやら男達はこの町の守衛本部にいるそうだ。
かつてはそこは数人の魔物使いで形成されていたが、グレートウルフ事件をきっかけに、今は数人の魔物使いに加えて数人の魔法使いがそこを取り仕切っている。
そしてレクレスでのゴーレム事件もあって、魔物使いの肩身はますます狭くなり、今後は魔法使いだけで守衛本部が形成される可能性もあるとか。
「本当に酷い話でございます! そんな計画に加担しようとした拙者も同罪! どうか主様、こんな罪深き拙者に裁きを――」
「そういえば魔物をさらっている話があるって聞きましたけど、その魔物はどこに隠されているのでしょう?」
「守衛本部の地下牢でございます! ……そういえば主様、拙者めが発言するのは誠に無礼極まりないのかもしれないのですが、一つお願いをさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「えっと、何ですか?」
「どうか拙者などに敬語を使わないで頂けないでしょうか? 拙者めには罵声を浴びせる位で十分なのです! 罪深き拙者にはそれ位でちょうど良いのですから!」
「罵声……いや、それは僕も心が痛むから嫌ですよ。うーんと、でもこんな感じで気軽に話しても大丈夫なのかな?」
「ああっ!? 何とも主様と距離が縮まった感覚!? 拙者、こんな至上の喜びを与えられ、今すぐに命を落としても悔いはありませぬ!」
いや、だから何でいつもそういう発想になるんだろう。
……何かもう慣れてきたけどさ、このくだりには。
でもとにかく喜んでもらえたようで良かった。
そういえば、聞いていない事があったな。
「そういえば、君の名前を聞いていなかったね。何と呼べば良いんだろう?」
「拙者はジョーダーと申します。ジョーとでも呼んで頂けたら、至高の極みでございます!」
「うん、それならジョーと呼ぶ事にするよ」
「ありがたき幸せ! 拙者、こんな至上の喜びを与えられ、今すぐに命を――」
「ああ、うん、気持ちは分かったから。もういいって」
またいつものくだりに入る所でキャンセル。
もう早くもジョーの扱いには慣れてきたかもしれないな。




