81.メルは対策グッズを用意していたようです
テイニーが無事にCランクに昇格し、僕達は一旦宿屋へと戻る。
そして宿屋の待合スペースで腰を落ち着かせると。
「メル、さっきの道具はもしかして……」
「そうや。ウチらが作ったものやで。その名も”絆スカーフ”っちゅーものや! 魔物と従魔の関係が結べていれば、白いそれは青く染まるんや。どや? すごいやろ?」
「いや、確かにすごいけど。でもそんなに気軽に調べられるようになっちゃったら……」
僕はそう言ってから、ウルの方を向く。
するとウルはきょとんとしたような顔をして首をかしげる。
どうやらウルにはまだピンときていないらしい。
「アークはん、その対策もしっかりしてあるから問題ないで」
「えっ? それはどういう?」
「ちょっとその前に魔法をかけよか」
メルは魔法を使い、周囲の人に内容を聞かれないようにする。
周りには宿屋の人しか見当たらないけど、念には念をってやつだね。
「さて、これで大丈夫やろ。それじゃアークはん、ウルはんにこれをつけてみてくれや」
「これは……緑色のリング?」
「そや。絆スカーフが出回ったら、ウルはんが困る事になるというのはもちろん予想がつく。そこでウルはん用に、その絆スカーフの判定を誤魔化せる対策グッズを用意しておいたんや。しかもこのリング、柔軟性があるから、多少の体の変化にも耐えうるものなんやで!」
「な、なるほどね。とりあえずつけてもらう事にするよ。ウル、ちょっと脚を出して」
ウルは黙って前脚を僕の前に出してきたので、僕はそこにメルからもらったリングをはめてみる。
さて、これだけで本当に誤魔化せるものなんだろうか?
「これでオッケーや。この状態でアークはんとウルはんで絆スカーフを使ってみよか?」
「うん、分かった」
僕は先程のテイニーとリザがしたように、ウルの脚と僕の腕をスカーフで結んでみる。
するとその白いスカーフが少しずつ青く染まった。
「ほら、これで問題ないやろ?」
「うん、確かに問題ないみたいだ。でも、こんな道具があったら、絆スカーフの意味がないんじゃ?」
「ふふ、その道具はウルはん用に作ったものやし、今はアークはん以外の誰も持っていない状態や。せやからウチやそのわずかな関係者しかこのリングの存在は知らん。でないと、絆スカーフの価値がなくなってしまうからな」
「まあ、そうなるよね。とにかく、市場に出回らないものだから、あまり気にしなくていいって事か」
絆を測るものを作ったメルが、その測定を妨害するものも作るっていうのはどうなんだろうか。
……まあ、絆を測る仕組みを知っているからこそ、それを妨害するものを作るのも容易いという事なんだろうけどさ。
とにかく、メルの商売に関する心配はしなくて良さそうだし、ここはメルの気遣いにただ感謝をしておこう。
「ありがとう、メル。助かるよ」
「気にせんでええって。ウチ、言ったやろ? アークはんに迷惑はかけへんって。でもやはりウチは商人やから、売上は欲しい。その両立を図ったのがこの形式という事やな」
ふふんと得意気な表情を浮かべるメル。
まあ、自分で迷惑をかけないと言っておきながら、何の対策もなくそういうものを作ったら、思いっきり嘘つきになるもんね。
「そういえば話は変わるけど、テイニー、Cランク昇格おめでとう!」
「あ、ありがとうございます……で、でも、何だか素直に喜べないです。リザがグランドリザードの見た目になったのもアークさんの合成のおかげですし……」
「まあ、それはそうだけど。でもそれを考えれば、僕も例えばホクにガルーダをたくさん合成して、ガルーダに近い見た目になれば、ガルーダを使役しているという扱いになるかもしれないよね」
「それはそうやろな。絆の判定はしっかりとするようやけど、Cランク魔物に該当するかどうかは目視確認やったし」
「なら、僕にもチャンスは十分あるよね。早速、ホクに合成をしてこようかな」
見た目がCランク魔物になれば良いのであれば、Cランク魔物を合成しまくればいい。
リザにグランドリザードを一体合成しただけで、ほぼグランドリザードの見た目になった。
一方でホクにガルーダを一体合成しただけでは、そこまでガルーダの見た目には似なかったし、ウルも同様に一体合成してもグレートウルフには似なかった。
その事から考えると、見た目の変化には個体差があるようだ。
まあ、そのおかげでウルに調査が入らなくて助かったけど。
もしウルがグレートウルフに似ていたら、リザみたいにいきなりチェックされていたかもしれないからね。
一回あたりの変化が少なくても、回数を増やせば、よりその種族の姿に近付く事ができる。
ゴンがその最たる例だろう。
なら、いつかはホクもガルーダの姿に近付く事も可能なはずだ。
そしてもしそうなったら、ガルーダの体の大きさからして、きっとホクは僕一人位ならば乗せて空を飛ぶ事ができるようになる。
そうすれば、ようやく念願の空の旅を実現する事ができるのだ!
ホクに合成をしにいく事に決めた僕は荒野を目指し、再び外に出る。
ちなみに他のみんなも付き合ってくれるという事で、結局全員荒野に向かう事に。
しかし、その途中、町で騒ぎが発生したようで。
「キャー!? ま、魔物が暴れているわ!?」
「に、逃げろー!?」
「ま、魔物使いさま、た、助けてくれー!?」
魔物が暴れている……?
これはあの時と同じだ。
フィラミルでの魔物暴走事件。
その時は暴走したグレートウルフが町の人に攻撃しようとしていたんだっけ。
ヴァルドのおかげでグレートウルフを倒す事ができ、騒ぎはおさまったんだけど。
「もしかしたら魔物が暴走しているのかもしれない。止めないと!」
「は、はいっ! わたしも行きます!」
「ウチも行くで! 急ごか、アークはん、テイニーはん!」
僕達は悲鳴が聞こえた方向へと走っていく。
必死に走っていく町の人々の間をかいくぐっていくと、暴走するゴーレムの姿が見えた。
「あれが暴走しているゴーレムか。なら、早めにおとなしくさせないと……」
「あっ、アークさん、見て下さい! あそこに人が!」
テイニーが指差す方向を見ると、腰を抜かして座り込んでおり、顔を涙などでぐしょぐしょにしている男がいた。
なんであんな所に人が……!?
そしてゴーレムはその人の事に気付いたようで、その人の方へと向かっていき、今にも攻撃せんと拳を振り上げている!
このままではその人が危ない!
「ラス!」
僕の呼びかけに応えるように、ラスは素早く分体をその人の方に飛ばす。
そしてゴーレムの拳をラスの防壁が阻み、その座り込んでいる人は事なきを得た。
「大丈夫ですか、あなた!?」
「ご、ゴーレが……どうして……」
その人は上の空で、全く僕の言葉が聞こえていないようだった。
だけど、このままここに放置していては、またゴーレムが攻撃してきてしまうだろう。
とりあえずどこか安全な場所に避難させなくては。
僕はその人を担ぎ、そしてゴンにゴーレムを倒しておくように指示を出す。
しかし、その瞬間、僕が担いでいる男が暴れ出した。
「ご、ゴーレを倒さないでくれっ!? お、お願いだ、頼むから! おれのゴーレを倒さないでくれぇ!?」
……えっ!?
おれのゴーレという事は、この人のゴーレムだっていうのか、このゴーレムは!?




