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79.テイニーは精神的にも成長したようです

 僕はレクレスのとある店へと向かう。

 そしてとある物を手に取る。



「すいません。これをください」

「いらっしゃいませ。この黒狼の仮面は3000Fになりますがよろしいですか」

「はい、これでお願いします」



 僕は代金を支払い、黒狼の仮面を購入した。

 僕が仮面を買ったのは、大会で実績を出しつつも、日常生活で支障をきたさない為である。

 大会に出場する時は仮面を被って素顔を隠す。

 そして日常生活では仮面を被らず、普通に過ごす。

 そうすれば大会に出場している僕と普段の僕が同一人物だと大半の人には気付かれないと思うんだ。


 同じ防具を身につけていると、同一人物じゃないかと勘繰る人もいるだろうから、念の為に大会の時に着る用の防具も購入しようとする。

 しかし相当高額だったので、購入する事は出来なかった。

 ただ諦める訳にはいかない。

 という事で僕は一工夫してみる事にした。


 防具屋に立ち寄り、目的の防具が展示されている所まで近付く。

 そしてラスにその防具に触れてもらい、感覚や形状を覚えてもらう。

 それから一旦宿屋に戻り、ラスにその防具への擬態をお願いしてみる事にした。


 すると、何という事だろうか。

 僕の手元には先程見た防具とそっくりな物があるではないか!


 という事で、僕はちょっとずるい方法で高価な防具のレプリカを手に入れる事が出来た。

 本物と性能は違うかもしれないけど、見た目や着心地が似ていればそれで十分だからね。

 しかもこのラスの擬態、ラスが意識を切り離す事によって、もうその形状は固定化されるのだとか。

 そうなれば完全に一つの立派な防具とも言えるような気もする。

 本当にラスって何でもアリだよなぁ、うん。


 ちなみに僕が手に入れた防具はウルフ系統の防具で、それを身につければ、顔も含めてウルフっぽい容姿になったりする。

 色も若干黒く着色されているみたいだから、黒い仮面との見た目の相性も良いね。



 目的の物を手に入れた後、僕はレクレスの本屋に立ち寄り、ノームに関する資料がないかを探してみた。

 だけどやっぱり新しく収穫になるような本はなかった。

 なかなかうまくいかないものだな……。



 本屋から出た僕は宿屋に戻って一泊し、翌朝を迎える。

 そして朝食などを済ませてから、僕はテイニーを迎えに行く。

 するとテイニーの家の前には既にメルの姿があった。



「おっ、アークはん、おはようさん!」

「あっ、メル、おはよう。そういえばレクレスにはメルの店はなくなったんだっけ?」

「そやな。今は港町ペロネーにおるはずや。売れ行きはぼちぼちらしいで」

「うん、それは良かった。でもそうなると、この町でやる事はあまりなかったりするのかな?」

「そんな事はないで! 未来の取引相手を探したり、腕利きの魔物使いとコネを作っておくなど、出来る事はたくさんあるからな!」

「も、もしかしてメルって、僕達と一緒にいない時はそういう事をしていたの?」

「そやで。ちなみについでに情報収集も行っとるよ。ちょっと町を離れているうちに色々町の状況は変わっていたりするからな」



 ふーん、なるほどね。

 今の町がどういう状況かによって、店の売れ行きも変わってくるんだろうな、きっと。

 虫が多くなってきたなら虫除けの道具が売れるし、暑くなってきたなら体を冷やす道具が売れるみたいにさ。



「……あっ、みなさんおはようございます! す、すいません、すぐに出かける準備をして来ますので!?」



 僕達が待っている事に気付いたテイニーは、そう言って慌てて家の中に戻っていった。

 別に僕達が早く来ちゃっているだけだから、そんなに急ぐ必要はないんだけどね。



「そういえば早速情報収集をしてきたんやけどな。どうやらこの町にもアークはんの噂は広がっているみたいやで。あまり信じられてはおらんみたいやけどな」

「まあ、そうだろうね。無名の魔物使いがAランク魔物使いに勝つ事ですら珍しいのに、しかもゴブリンで圧勝したなんて、信じられる人の方が少ないだろうよ」

「そうやろな。だからこそ、あまり騒ぎにならずに過ごせるんやから、ウチらとしては助かるんやけど」



 うん、そうだね。

 先程から通りがかる人がチラチラとこちらを見てくるようだけど、別に話しかけてきたりはしないし、僕達が過ごす上では支障がない。

 でも、いつまでもこうなっていてはいけないんだけど。


 一ヶ月後の大会では、それなりの成績を残さなければ、上のランクには上がれない。

 かなりの成績をとれば、必然的に目立つ事になるし、それなりの知名度を得る事になるだろう。


 まあ、そうなっても大丈夫なように仮面と防具を手に入れておいたんだけどね。



「す、すいません、お待たせしました!」



 テイニーが慌てた様子で家の中から出てきた。

 半ば呆れた様子のレク、心配そうな表情を浮かべるリザも後から一緒に出てくる。



「みんな揃ったね。それじゃ、早速ギルドに行くとしようか」



 僕達はこうしてギルドに向かう事にした。

 そして、依頼掲示板の前で、依頼を探していると。



「……おい、ダメダメ魔物使いが来ているようだぞ」

「随分と久しぶりに見たな、おい。それに何か連れている魔物がだいぶ増えてねえか?」

「確かにな。もしかしていない間に一回り成長しましたってやつか?」

「いや、アイツに限ってそれはねえだろ。きっと連れの奴の魔物が一緒にいるだけだ」



 テイニーを見て、噂をするギルドの魔物使い達。

 やはりテイニーの事を侮っているような雰囲気だな。

 もうテイニーはそこら辺の魔物使いよりも全然強いだろうに。



「テイニー、大丈夫?」

「えっ? はい、大丈夫ですよ。いつもの事なんで。むしろこんなに歓迎してくれるなんて、レクレスに帰ってきたんだなあとしみじみと思います」

「あっしもそうだニャ。しみじみとするんだニャ」



 そう言って、引き続き依頼を探しているテイニーとレク。

 ……うん、慣れっていうのは恐ろしいものだな。



 良さそうな依頼をいくつか選び、僕達は依頼を受ける事にした。

 今回受ける依頼は、ガルーダの羽の採取、ミノタウロスの角の納品、レッドウルフの討伐だ。

 Cランク魔物であるガルーダ、ミノタウロス、Dランク魔物であるレッドウルフは全てレクレス西部の荒野地帯に生息する魔物である。

 つまり、荒野に行って、複数の依頼をまとめてこなしてしまおうという作戦だ。



「それにしてもわたし達、Dランク魔物使いなのに、どうしてCランク魔物に関する依頼を受けられるんでしょう?」

「うーん、どうなんだろう。きっとCランクが実質依頼によって上がれる最大ランクっていうのと、魔物使いのランクが元々魔物の最低ランクより一個下のFランクから始まるからズレが起きるのかもしれないね」

「そういうものなんですか。まあ、でも望む所ですけど。わたし達が頑張った事を活かす良い機会ですから! ねっ、レク?」

「うんニャ。一緒に頑張るのニャ、テイニー!」



 テイニーとレクは依頼をこなす事に対し、とてもワクワクしているようだ。

 魔物の討伐などに関してとても怖がっていた以前のテイニーの姿はそこにはない。

 自分自身が魔法を使って役立てるようになった事で、テイニーには大きな自信がついたんだろうな。

 実際、テイニー達だけでもCランク魔物を何とかしてしまう程の勢いをテイニー達からは感じるしさ。



 僕達がそれから依頼を受注し、ギルドを後にしようとした時、例の嫌な奴と遭遇する事となる。



「おっ、ダメダメ魔物使いじゃねえか! しばらく見ねえと思っていたが、おねんねでもしてたか? ん?」



 そう言って挑発してきたのは、オークを使役している新人魔物使いだ。

 つまり、僕がオークと呼んでいる奴の事である。


 そんなオークに対して、以前は理由もなく謝り倒すテイニーだったが、この日は違った。

 オークと面と向かって、しっかりと受け答えをする。



「はい、先程までゆっくりと眠らせていただきました」

「ハハ! 面白い返しをするもんだな、お前! そんで、今のお前のランクは何なんだよ? ちなみにオレはEランクだ。すげえだろ!? コボルドの討伐試験、本当にきつかったぜ!」



 そう言ってガハハと笑うオーク。

 どうやらこのオークはあの時から1ランク上がったようだ。

 順調なようで何より。



「それはすごいですね。わたしはまだDランクなので、まだまだ頑張らないといけないんですけど……」

「ハハ、やっぱりまだDランクか……ってええっ!? でぃ、でぃーらんくって何だよ!? じょ、冗談言ってるんじゃねえぞ、お前!?」

「わたし、まだまだ頑張らないといけないので、これで失礼しますね。アークさん、メルさん、行きましょう!」



 そう言ってテイニーはギルドを後にした。

 呆然とするオークをその場に残して。



「成長したね、テイニー。まさかあんな感じで受け答えするなんて。僕もだいぶスカッとしたよ」

「いえ、とんでもないです。正直、わたしもあの方にはストレスを感じていましたので」



 そう言って微笑むテイニー。

 随分とマイペースなテイニーでもストレスは感じるものなんだなぁ。

 まあ人間なんだし、そりゃ誰でも感じるか。



「それはそうとテイニーはん。こっち、荒野の方向やないで?」

「……あっ、す、すいません!? わ、分かっていましたよ、もちろん。はいっ!」



 そう言って慌てふためくテイニー。

 やっぱりテイニーの方向オンチさはいつまでも直らないなぁ。

 まあいつもの事だし、もう慣れたんだけどさ。

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