76.町は大騒ぎになっているようです
「アークさん! どうしてこんな所にいらっしゃるのですか?」
しばらくその場でゆっくりしていると、近くを通りかかったテイニーが話しかけてきた。
そういえばテイニーはホクとウルを連れて修行をしてくれていたんだったね。
となれば、事情も知らないだろう。
「あっ、うん。ちょっとゴンが張り切っちゃってね……。ゴンがボルージさんのフェニックスと戦って勝っちゃったんだ」
「……ええっ!? ボルージさんって、あのAランク魔物使いのボルージさんの事ですか!?」
「うん、そうなんだ。ゴンは自分を侮られた事にちょっとムキになっちゃってさ。加減もできず、フェニックスを圧倒したという感じなんだよ」
「そ、そうですか。確かにゴンさんならやりかねないですよね。ゴンさん、とても素早くて鋭い攻撃しますから。やっぱりそんな事が出来てしまうのですね……」
テイニーはそう言うとゴンをじっと見つめる。
するとゴンはそんなにジロジロ見ないで欲しいという感じになって、テイニーに背中を向けた。
ゴン、威張りたいのか威張りたくないのかハッキリすれば良いのに……。
「ゴン、凄いね! でもまあ、きっとアタイも同じ立場だったら、フェニックス如きには負けないだろうけど!」
「オレ、戦ってみたかった。勝てないだろうけど、でも挑戦してみたかった」
ゴンにそう言って、羨ましがる二人。
まあ、強くなる為に頑張っていた二人なのだから、そういう強さの象徴みたいな人と戦いたがるのも無理はないのかもしれないな。
「あ、アークはん、ここにおったんか!」
町の方からやってきたメルが僕達に駆け寄ってきた。
「メル、どうしたの?」
「アークはん、今では町中で噂になっとるで! ゴブリンがフェニックスに圧勝したってな! それってゴンはんのことやろ?」
……あっ。
やっぱり心配していた事が現実になったか。
そりゃ、あんな戦いが起こったら、噂にもなるよなぁ。
きっとフェニックスと互角に戦って善戦しただけでも噂になるだろうに、ましてや圧勝ときたら、騒ぎにならない訳がない。
「今では町中でアークはん達の事を探している連中でいっぱいや。きっと物凄い騒ぎになるで……」
「そ、そうだね。そうなると、僕が町に入るのは控えた方が良さそうかな……」
「せやな。そうなると、少々急やけど、もう出発した方がええやろな。次はどこへ行くんや?」
「そうだね……今の位置から考えて、このまま森の方を通るルートで行こうと思う」
「まあそうなるやろな。今更北の方向に向かう事も出来へんやろし。町は通れないものと考えた方が良さそうやからな」
現在僕達は西の草原にいる。
もし港町ティズに引き返す北の道に戻りたければ、一回ベルサの町に入り直す必要があるだろう。
きっとそうなると騒ぎに巻き込まれそうなので、あまりそういう事はしたくない。
「そんなら、ウチがみんなの分の荷物をとってくるわ。アークはん達はここで待ってくれや!」
「あっ、わたしも行きます!」
「女子にばかり任せていられないニャ。あっしも手伝うニャ!」
「俺、たくさん荷物持つ。任せろ」
どうやらテイニー達とメルが宿屋に置いてきた荷物を持ってきてくれるようだ。
本当に迷惑をかけて申し訳ないな……。
「ごめんね、二人とも。こんな事をさせてしまって」
「良いんですよ、アークさん。いずれはこうなる事は分かっていましたから! それよりもアークさん。ゆっくり休めました?」
「うん、おかげさまでね。もうバッチリだよ!」
僕の元気な様子を見て、安心したように微笑むテイニーやメル。
その様子を見ると、本当にみんなに心配かけていた事が感じられてくる。
でも、僕はもう大丈夫。
ただ、もうこんな事にならないように、無理し過ぎないようにしないとね。
「それは良かったです! それではメルさん、ちょっと一緒に頑張りましょうか?」
「せやな。テイニーはん、くれぐれもウチらがアークはんの取り巻きだと勘付かれてはならんで? でないと、ウチらが後をつけられて、アークはんに迷惑をかけてしまうからな!」
「そ、それは大変です! そうならない為にはどうしたら良いんでしょう?」
「ふっふっふっ、ウチに策があるんや。聞いてくか?」
「はい、お願いします!」
メルが何かを企んでいるようだ。
商人であるメルは色んな不思議な道具を持っているからなぁ。
それを使って、人をまくような作戦でも考えているんだろうな、きっと。
そして僕は従魔達と待つ事数十分。
適当に従魔達に合成をしてあげながら待っていると、テイニー達がようやくやってきた。
「これ、アークの分。とても重かった」
「ありがとうリザ。色々本入れちゃってるから重たいだろうね。ごめんよ」
リザから僕は荷物を受け取る。
テイニー達の様子を見る限り、どうやら特に何事もなさそうにここまでやって来れたようだ。
「まだ目撃した人達は情報を広めるのに夢中やろうけど、ここにまたそいつらが来るのも時間の問題やで。さっさと出発した方がええやろな」
「うん、分かった。それじゃ早速出発しようか」
僕達はこうして西へと向かい、草原を抜け、森の中へと入っていった。
この森はレクレスの近くにある森で、僕達は以前入った時と反対側から森に入った事になる。
「このまま進むとレクレスに到着するね」
「そ、そうなんですか? そういえばレクレスを出てからそんな長い日が経っていないはずですのに、レクレスの町って聞きますと、すごく懐かしい感じがします」
そう言って、微笑むテイニー。
テイニーは、レクレスを出てからだいぶ変わったもんね。
魔法も使えるようになったし、ほんの少しだけだけど、地図の勉強もしていたし。
「今のテイニーを見たら、ダメダメ魔物使いって言われなくなるかな?」
「いや、それはないやろ。長年染み付いたあだ名はなかなか変わるものやない。まあ、その汚名を晴らすような偉大な事を成し遂げれば別やけどな」
「偉大な事……。例えばアークさんみたいにボルージさんに勝つみたいな事でしょうか?」
「それを成し遂げれば、間違いなく評価は変わっていくやろな。まあ、さすがにそんな事は早々出来へんやろうから、とりあえずは地道にコツコツやっていく事やな。ひとまずは依頼をこなす事から始めるとええんやないか?」
「そうですね。つまり依頼をたくさんこなして、早くCランクを目指せば良いんですよね?」
「そやな。それが一番実現しやすくて手っ取り早いやろ。難しい依頼を達成している様子を見たら、きっと評価はだいぶ変わってくるで?」
そうだね。
たまたま難しい依頼を一回だけ達成したのならまだしも、何回、何十回も達成していたら、さすがにまぐれとは言えまい。
どうしてもその実力を認めざるを得なくなるだろう。
「そして、そんな頑張りたいテイニーはんにはそろそろ次のステップに移ってもらわんとな!」
「次のステップ、ですか?」
「そや。テイニーはん達はファイアの魔法を既に使いこなせるようになった。せやけど、ファイアだけじゃ、例えばこういう森にいる時は困るやろ?」
「そうですね。他の魔法も使えるようにならないとですね」
「そういう事やな。そして魔法使いとは、魔物の技を再現したものを使用する者。つまり、魔法使いの本領は、魔物の技を見て、それを自分のものにする事にあるんや」
「それはつまり、わたしも魔物の技を見て、その技を使えるようになるべきという事でしょうか?」
「飲み込みが早くて助かるわ。その通りや。ちょうどこの森にはいくつかの魔法の参考元になった魔物、エルフがおる。エルフを見て、テイニーはん達は、その見て技を覚える事をしてみるとええやろう」
なるほどね。
魔法使いは魔法を使える事自体に強みがあるのではなく、魔物から技を習得する事のできる、いわば技の豊富さにあるという事だろう。
いくつか技をメルから教えてもらえば、確かにテイニーはその技も覚える事が出来るだろうし、強くはなれるだろう。
だけど、それだけでは本来の魔法使いの良さを活かせていない。
その魔法使いとしての強みをより発揮できるよう、メルはテイニーに課題を課しているといった所かな。




