75.ゴンは本気で戦いたかったようです
「分かりました。お願いしてもよろしいでしょうか? ゴンが戦いたくてうずうずしているようなので」
「了解だ。なら、少し広い場所に移動しようか。ここじゃ、戦うには狭すぎるからな」
ボルージはそれから道を引き返していって、門のある方向まで向かう。
僕達もそんなボルージに黙ってついていく事にした。
結局僕達はベルサの西門を出て、ベルサ西部の草原までやって来た。
外に出た事により、町の人々は周囲にいなくなり、未だに残っている観衆はわずかにいた魔物使いのみ。
これなら、そこまで騒ぎにならずに済むかな?
「さて、ここまでくれば思う存分戦えるだろう。オレはこのフェニックスのフェクでお相手しようと思うが、アークも決まっていそうだな」
「はい。僕はこのゴブリン、ゴンでいきます」
「やっぱりそうなるだろうな。そういえばそのゴブリン、体型的にはゴブリンだと思うのだが、顔はオーガに似ているみたいだ。勝手にゴブリンって言っちまっていたけど、ゴブリンで良かったのか?」
「あっ、はい。多分それで問題ないと思いますよ」
今のゴンは体型的には並のゴブリンとさほど変わらないが、顔にオーガの特徴が現れている感じだ。
ちなみに元々が小さすぎたので気付かれないのかもしれないが、ゴンは肉体的にもオーガの特徴が入っている。
具体的には、純粋なゴブリンの時に比べて筋肉量がだいぶ増えている。
それにより、瞬発力やパワーが以前とは比べ物にならない位強くなっている事だろう。
「さて、お話もこれ位にして、そろそろ始めようか。オレのフェニックスは回復力に優れているからな。アークから遠慮なく攻撃してきて構わんよ」
「はい、分かりました。……って、ゴンッ!?」
ボルージが戦っていいと言うと同時にゴンは動き出していた。
そして次の瞬間にはフェニックスの死角に入り込み、棍棒での叩きつけを一発ぶちかます。
するとフェニックスは強く地面に叩きつけられ、動けなくなっていた!?
「フェ……フェク!?」
あまりにいきなりの事で、さすがのボルージも困惑気味だ。
まさかこんな事になるとは想像していなかったのだろう。
何せ、相手は最弱の種族、Eランクのゴブリンなのだから。
「……なかなかやるな。いや、想像以上だ。まさか、こんなに深いダメージを負うフェクを見たのは随分と久しぶりだ。だが、フェクもただではやられはしないぞ……」
ボルージがそう言い切った辺りで、フェニックスは空を舞った。
先程負わせたはずの傷が全くない状態で。
「その実力なら、遠慮なくやれそうだな! フェク、炎輪飛翔撃!」
フェニックスは自身に何重にもわたる炎の輪をまとわせる。
そしてその状態から、ゴンに向かって一気に空から突撃してきた!
ゴンに向かって突撃し、そして衝突するフェニックス。
その場には砂ぼこりが舞い、辺りの視界が見えなくなる。
「……ゴン!?」
フェニックスの攻撃にゴンは当たったのか?
そしてゴンは無事なのか?
そんな不安を感じていた時。
「フェク!?」
ボルージの悲鳴。
それによって、僕は今何が起きているのかを理解する。
砂ぼこりからは空高く舞うフェニックスの姿が現れた。
いや、あれは舞っているというより吹き飛ばされている……?
それを証明するかのように、フェニックスの近くには高く跳び上がったゴンの姿が見られた。
そして、相当高い所まで来た所で、ゴンは棍棒を思いっきりフェニックスに叩きつける!
するとフェニックスは地面に思いっきり叩きつけられ、再び身動きが取れなくなる。
そしてゴンは地面に落下する力を利用して、さらにフェニックスに追撃食らわせようとするのだが――
「終わりだ! アークの勝ちでいい! だからもう攻撃をしないでくれっ!」
ボルージの敗北宣言により、ゴンは振り上げていた棍棒をフェニックスに当たらないように振り落とす。
その威力は凄まじいようで、地面にはその棍棒の攻撃によってぽっかりと穴が開いてしまった。
確かに、ボルージの判断は正しかったようだ。
あんな攻撃をまともに食らったら。さすがのフェニックスですら、無事では済まないという事か……。
それからフェニックスの元に駆け寄るボルージ。
フェニックスはしばらく倒れていたが、数分もすると、元の傷のない状態に戻っていた。
さすがの回復力と言うべきか。
「すまない、アーク。オレはお前さんを見誤っていたようだ。あのサイガルが期待をし、そして脅威すら感じる存在。そんな奴が弱いはずはないのにな」
そう言ってハハハと苦笑いを浮かべるボルージ。
フェニックスがAランク魔物たる所以は、その脅威的な回復力にあって、フェニックスの攻撃や防御自体は特別優れている訳ではない。
その攻撃や防御力はせいぜいBランク魔物程度のものだろう。
だが、相手は最弱の部類に入るゴブリン。
普通のゴブリン相手なら、Bランク魔物と同等の防御力があれば、全く寄せ付けないはずだった。
「す、すいません。何かとても失礼な事をしてしまったみたいで……」
「いや、良いんだ。むしろオレは自分の甘さを感じる事が出来た。このままじゃ、大会では全然勝てないだろうってさ」
「大会……。ボルージさんも出るんですね」
「ああ、そうさ。まあ前線を守りつつ、出場する事にはなるだろうから、結構なハードスケジュールになるけどな。でも、同じAランク魔物使いと本気で戦える場所はそこだけだ。だけど、そんな考えは甘い事は今思い知ったさ」
そう言ってボルージはゴンの方を見る。
ゴンはザマあみろとでも言うかのように、偉そうな態度をしていた。
普段は冷静なゴンがあんなに感情的になるなんて、なんだか新鮮だなぁ。
「今度の大会では、こうはいかない。アークにとって、サイガルさんとの戦いは挑戦だろうけど、オレにとってはアークに対しても挑戦になる。次は負けない。まだギルドに所属していないみたいだけど、必ずどこかに所属しろよ? まさか大会に出ない気じゃないだろうな?」
「……いや、大会に出るつもりですよ。父さんとも約束しましたし」
「そうか、なら安心だ。こうも打ちのめされて、再戦の機会がないなんて、こちらとしてはイヤになっちまうからな。この借りは必ず返す。お前さんも強くなるだろうが、オレもそれ以上に強くなって、必ずお前さんを超えてみせるからな!」
「えっ、いや、僕はそこまでは――」
「とにかく、必ず大会に出ろよ! オレは今から修行も兼ねて、前線に戻る事にするがな! ……フフ、強きゴブリン使い、か。どう攻略すべきか……」
ボルージはそうぶつぶつ言いながら、フェニックスに乗ってどこかへ行ってしまった。
なんかボルージに格上認定されたみたいなんだけど。
Aランク魔物使いだというのに、自分の実力を過大評価せず、成長するひたむきな姿勢。
あの魔物使いはさらに侮れない存在になっていくんだろうな……。
一部始終を見ていたであろう、周囲の数少ない魔物使いは去っていくボルージを見て、ハッとする。
そして一目散に町の方へと向かっていくのだった。
……こりゃ、町に戻ったら大変な事になりそうだね。
「…………アーク、勝った」
「全く、ゴン、本当に何て事をしてくれたんだ。まさかAランク魔物に勝っちゃうなんてさ」
「…………馬鹿にされた、許せない」
「それにしてもゴンがそんなに感情的になるなんて珍しいよね? 別に馬鹿にされたり、侮られたりするのはいつもの事だろうに?」
「…………強いヤツと戦いたい、それだけ」
ゴンは満足そうな笑みを浮かべていた。
きっと、格上の相手と戦って、楽しかったんだろう。
とても一方的な展開で、ゴンの方がかなり格上のようにも感じたけど……。




