73.ゴンは勉強をしてみたいそうです
「もしかして責任、感じちゃってるの、ウル?」
「…………(こくん)」
「いや、これはウルの責任じゃないよ。体調管理が出来なかった僕の責任だ。それにウルが僕に合成してもらっていた時間なんてそんな大した事ないよ。ラスとゴンとホクに一日中付き合わされた事だってあったんだから。それに比べれば、どうって事ないんだよ?」
「そ、そうなのか、ラス、ゴン?」
ウルがラスとゴンの方向を見ると、ラスとゴンは途端に目をそらす。
うん、とても心当たりありますって感じだよね。
「そういう事だよ、ウル。だからウルは責任を感じなくて良い。むしろウルの期待に応えられなくてごめんね」
「い、いや、アークが謝る事じゃない! オレの方こそ謝らせてくれ! オレ、アークに頼りっきりで、自分で強くなる努力、怠ってた。アークにばっかり負担かけてた……」
ウルのその言葉には、ラスとゴンにも心当たりがあるようで、僕の方から顔をそらしていた。
別にサボっていた訳ではないんだろうけどな。
むしろ強くなろうという意欲はみんな凄かったし。
ただ、確かに合成以外で強くなる努力はあまりしてなかったかもしれないね。
「確かにそうだね。別に限界はあるとはいえども、ウル達は合成をされなくても強くなる事が出来る。それは実際に自力で強くなった事のあるウルなら分かるよね?」
「……ああ。オレはアークに一度見放されて、強くなった。あの時は本当に必死だったけど、今考えれば、あの時の経験が今の動きに活きているのかもしれない!」
「うん、そういう事。出来ないならば、出来ないなりに頑張ればいい。別に急成長なんてしなくてもゆっくりと成長を続ければ良いのだから。強くなろうと焦って、その結果命を落とすなんて事になったら元も子もないよ?」
「……確かにそうだな。ありがとう、アーク。オレ、もっと自分で頑張ろうと思う!」
そう言ったウルは僕の部屋から出ようとした。
そんなウルを僕は一旦呼び止める事に。
「ウル、もしかして魔物と戦いに行くつもり?」
「ああ。アークにもう合成はお願いできないだろうから、オレはオレで強くなる努力をする!」
「いや、別にもう合成をしないなんて言ってないよ? ただ、ちょっとは休ませて欲しいけどさ」
「なら、その間もオレは強くなる! アークに合成してもらう回数を一回減らしても同じ位強くなれるように!」
「……ははは、頼もしいものだな、ウルは。だけど、ウル一人で町を出歩くと、町の人がパニックになる。外に出るなら、必ずテイニーかメルに付き添ってもらってね?」
「ああ、分かった! なら、テイニーの所に行ってくる! それじゃ、ゆっくり休めよ、アーク!」
そう言って部屋を出て行ったウル。
ウルの奴、迷わずにテイニーの所に行くって言っていたけど、やはりウルはメルの事を余程恐れているんだろうな……。
メルに怒られた時から、ウルはみんなの名前を間違いなく言えるようになってたしさ。
きっとやればできる子なんだな、ウルは。
うん、そういう事にしておこう。
「あ、アークさん、目が覚めたんですね!? 本当に良かったです……!」
「アークはん、急に倒れた時はどうしようと思って焦ったで!? 何はともあれ無事なようで何よりやな!」
ウルが出て行って間もなく、テイニーとメルが僕の部屋の中に入ってきた。
レクとリザ、ホクはその少し後に入ってきた。
そしてタイミングを逃したであろうウルはゆっくりと後から部屋の中に入ってくる。
「二人とも、心配かけてごめんね」
「いや、アークさんが謝る事じゃないです! こちらこそ、アークさんがここまで疲れているとは知らず……気づいてあげられなくて本当にごめんなさい!」
「ウチももうちょっと気を使うべきやったな。それにウルはんを怒る時に、ついアークはんに八つ当たりしてもうた。すまへんな、アークはん」
「いや、良いんだよ二人とも。僕は自分が思っていたよりも疲れていた。ただそれだけの事なんだから。これからはもうこうならないように、ほどほどに頑張る事にするよ」
「そうするのがええやろな。頑張る事は素晴らしいけど、それは健康あってのもんや。無理しない範囲で頑張るのが一番ええんやで!」
メルの言う通りだ。
頑張る事は良い事だけど、頑張りすぎて体調が優れなくなったら元も子もない。
自分の体調をしっかりと把握し、それを加味した上で、どれ位頑張るのかは決めるべきだろう。
それはいつも僕がテイニーを心配していた内容だったのに、まさか自分がそうなってしまうとはね。
僕もテイニーの事、あまり言えなくなったな……。
「メルの言う通りだ。とりあえず今は体調を直す事を優先するよ。今日一日はここでゆっくりしていく」
「ああ、そうするのがええやろ。ウチら、何だかんだで結構なペースで移動しておるからな。少しは休む必要があるとは思っとったんや。テイニーはんも、頑張るのはええけど、しっかりと休むんやで? テイニーはんもアークはん同様、頑張り過ぎる所があるからな」
「えっ、わ、わたしは大丈夫ですよ! まだまだ全然大丈夫――」
「テイニー。テイニーは最近寝てないニャ。ここは少しアークみたいに休むべきだニャ。旅はまだまだ続くし、それに備えて休むのがこの先の為だニャ」
レクがそう言ってテイニーの事を心配する。
テイニーはしばらく首をかしげて、うーんと悩んでいたが。
「分かりました。確かにわたしもちょっと無理している所がありましたよね。最近いつも眠かったのは事実ですし。せっかくなのでお言葉に甘えさせてもらう事にします」
「うん、そうすると良いニャ、テイニー」
テイニーもどうやら休む事に決めたようだ。
きっと僕が倒れたのを見て、休む必要性を感じたんだろう。
無理をし過ぎるのはよくない事に気付く事ができたという所か。
ちなみにメルに聞いたのだが、どうやら僕は倒れてから目覚めるまでに半日ちょっとほどかかったらしい。
つまり夕方に倒れて、今は朝っていう感じなのだとか。
これじゃ、ちょっと長く睡眠をとったのとあまり変わらないね。
まあ、疲れをとるという意味では良かったのかもしれないな。
それからしばらく話してから、みんなは僕の部屋を出て行った。
話した感じだと、テイニーは自分の部屋に戻ってゆっくり休み、メルはホクに付き添って、外に出る事にしたようだ。
そういえばウルもそんなメルとホクの後をこっそりついて行っていた。
……まあ、テイニーも休む事に決まってしまったから、外に出るならメルに頼むしかないもんなぁ。
頑張れ、ウル。
僕はテイニーと同様、今日一日は部屋でくつろいで休む事にした。
持ってきた本を片っ端から読んでいると、あっという間に時間は過ぎていく。
ちなみに僕の護衛がしたいということで、ラスとゴンは僕と一緒に部屋の中にいた。
そんな二人は僕が持っている本をいくつか読もうとしていたが、首をかしげていて、うーんとうなっていた。
まあ、そりゃあ専門用語がたくさん出てくるような内容の本だから、普通は読めないと思うんだけど。
「あーく、にくたいたいきゅうちってなにー?」
「それは合成をされる魔物があとどれ位合成に耐えられるかを数値化したものだよ。合成の町、パミランにはそれを測れる専用の道具があるらしいんだ」
「へーそうなんだー。あーく、ぼくのにくたいたいきゅうちって、どれくらいあるのー?」
「うーん、どうなんだろう? ヴァルド、今のラスってどれ位不安定になっているのか分かる?」
「……はぁ? アークが不安定にならないように合成してきているんだから、不安定になっている訳ねえだろ」
「それって、不安定な度合は0という認識で良いのかい?」
「そうだな。その認識で良いだろう。元々一回の合成でさほど不安定にはならねえし、そのわずかに不安定になった部分も少し経てば元通りになっている。だからアークの合成なら、回数に限りはねえよ」
うん、良かった。
その言葉が聞きたかったんだよね。
とにかく、しっかりと僕は持続可能な合成を出来ているみたいで、不安定な度合は0。
ならば一般的な合成で言えば――
「ラスに合成出来る回数は同種とならあと10回ほどかな」
「えーそれしかできないのー!?」
「いや、あくまで普通の人がラスに合成をした場合だよ。僕の陣を使えば、数え切れない回数合成をしても問題はないはずさ」
「な、なんだーおどかさないでよー」
ラスは僕の言葉を聞くと、ほっとしたような声を出した。
まあ、今まで当たり前のようにやってきた合成がいきなり出来なくなって、それ以上強くなれなくなるのは恐ろしいんだろうな、ラスにとっては。
「…………アーク、無理させない」
「ご、ごん、ぼくはあーくにむりさせてないよー? だってぼくはじんをさいりようしているんだよー? えこなんだよー?」
「…………おれ、無理させてる」
「いや、ゴン、そんなに気にしなくても良いんだよ? 別にゴン達が強くなっているのは僕も嬉しいからさ」
まあ、確かにラスの合成って、陣さえ用意しておけば勝手にやってくれるから、僕にかかる負担は相当少ないよね。
自力で合成が出来るのは、不思議な連帯感があり、かつ体が流動的なスライム同士だからこそ出来る事だろうし。
そんな事は当然他の種族、つまりゴンにはできる訳もない。
「…………おれ、アークを助けたい。…………アークの本、勉強する」
「ごんがべんきょうするのー? もしかしてまものがまものをつかっちゃったりするのー?」
「…………難しくて、分からない。…………アーク、教えて」
ゴ、ゴン、本気なのか?
ゴンは僕の目をじっと見て、返答を待っている。
どうやらその意思に揺らぎはないようだ。
「分かった。それなら教えるよ。僕の魔物使いとしてのイロハを。だけど、そういった本を理解する為の知識量は半端じゃないし、相当難しいだろうけど、それでも良いのかい?」
「…………覚悟してる、大丈夫」
「ごんががんばるなら、ぼくもがんばろーかなー?」
ゴンはまっすぐ僕の目を見て、そう答えた。
ゴンの奴、本気だな。
ゴンがどこまで学ぶ事が出来るのかは分からないけど、面白い。
教えてみようじゃないか。
それが上手くいけば、魔物が魔物使いになるという事も実現可能なのかもしれないね。
何ていったって、僕が学んできた事はどれも魔物使いになる為に必要な事ばかりなんだから。




