72.少し無理をし過ぎたようです
ウルへの初めての合成は成功した。
ヴァルドにいつも通り確認をしてもらったが、特に異常はないとの事だ。
うん、やっぱり合成って緊張するよな、こういう時って。
……ガゥ!
そんな僕の苦労の事は知らないであろうウルは、早く次の合成をして欲しいと僕にせがんでくる。
うん、分かったよ。
時間を空けずに合成するのはあまり気が進まないけど、ヴァルドの言い方からすると、まだ大丈夫だろうし、問題ないだろう。
という事で、僕は残りの二体のウルフもすぐに、ウルに合成する事にした。
……ガゥガゥ!
僕が三体の合成を終えた後、体の感触を確かめるように、ウルが草原を走り回った。
見た目にはほぼ大差はないが、以前よりもさらに身軽に素早く動けるようになったような気がする。
そんな動きが出来るようになって、ウルもご満悦のようだ。
そして一通り走り終わると、再び合成をして欲しいとでも言うかのような仕草をするウル。
全く、ウルって奴は……。
ウルがあまりにもやる気なので、僕もそんなウルに付き合う事にとことん付き合う事にした。
合成、合成に次ぐ合成。
それを繰り返す事、数時間。
さすがに合成の連続で疲れてきたので、小休止をとろうと僕がウルを呼び止めようとした時の事。
「ウル、申し訳ないけど、少し休憩しようか。ちょっと僕、疲れちゃったよ」
「オレはまだまだへっちゃらだけど、アークがそう言うならそうする!」
「うん、そうしてくれると助かる……って、ウル、いつの間に喋れるようになったんだ?」
「ああ、ちょっと前からな! 喋ったら合成の邪魔になると思って黙っていたんだ!」
そう元気よく話しかけてくるウル。
……す、すごく元気だな、ウル。
やたらと駆け回ったりしていたし、元気一杯なのは何となく分かっていたけどさ。
「ウルさん、わたしの事は分かります?」
「ああ、分かるぜ! メルだろ?」
「えっ……わたしはテイニーなんですけど……」
「ウルはん、ウチの事は分かるか?」
「ああ、分かるぜ! レクだろ?」
「……なあ、アークはん。ウルって、結構おバカな予感がするんやけど、気のせいやろうか?」
うっ……うん。
僕も何となくそんな気がしてきた。
元気一杯で記憶したりするのが苦手系な体力タイプというか。
まあ、今までにないタイプの仲間だから、ちょっと戸惑うけど、慣れれば大した事ない……のかな?
「なあなあ、アーク。ずっと気になってたんだが、レクってどうしてあんな地味な服を着てるんだ? あれじゃ元々地味な見た目が余計に地味な感じになっちまうだろ?」
……あっ。
何かウルの事をじっとにらむ怖い人が一人いるんですけど。
ウル、喋れるようになって早々何を言ってくれてるんだ……。
「ウルはん……ええ度胸してはるな? ウチに喧嘩売ったらどうなるのか、分かってはるのか? あぁ?」
「えっ、オレ、別に喧嘩を売ってなんて……」
「そうか。無自覚系なんか。なら、その無駄口を叩けなくする必要があるなぁ。アークはん、今からウルはんの合成を禁止させてな。でないと、アークはんにもウチ、どうするか分からへんで……?」
あっ、これはヤバい奴だ。
メル、完全に戦闘モードに入っちゃってるよ……。
「う、ウル、とりあえず謝るんだ! でないと、本当にずっと君を合成出来なくなるよ!?」
「えっ、そ、それはイヤだ! よ、よく分からねえけど、スンマセンした、レクさん!」
「ウチはメルや」
「す、スンマセンした、メルさん、いや、メル様!?」
ウルは必死になってメルに謝り倒した。
それをしばらく続けた事でようやくメルからのお許しが出る。
そんなタイミングで僕はウルに話しかける事にした。
「いいかい? よく分かってないみたいだから言うけど、僕以外の人には決して変な事は言わない事。疑問に思っても、必ずその人がいない所でこっそり僕にそれを言うだけにとどめるんだ。基本的に姿勢は低く。あと、人の名前は必ず間違えない事。分かったかい?」
「……と、とにかく気を付ける事にする。すまねえ、アーク」
しょぼんとするウル。
ウルには悪気がなさそうに変な事を言ってしまう癖がありそうだから、かなり厄介だよな。
一つ一つ教えていくのもいいが、そうなるとメルの怒りが爆発しそうなので、今回はそのような対応をしてもらう事にした。
基本僕以外の人には姿勢低く謙虚に接する。
メルに対しては特に。
それでもダメだったら……うん、どうしようかな?
今は考えつかないや。
それからもウルに合成を続けていると、その途中でグレートウルフを含む群れと遭遇した。
グレートウルフか……。
そういえば、暴走したグレートウルフを倒した事が、僕の魔物使いとしての全ての始まりだったな。
そのグレートウルフをヴァルドで倒さなければ、恐らくは僕はカリスマ力を手に入れられなかった。
そういう意味で思い入れのある魔物でもあるし、合成を失敗した魔物の成れの果てとも見てとれるので、あんな風には絶対させないという戒めの象徴にもなっている。
ウルも合成を続けていけば、いつかはあのようなグレートウルフに似た容姿になる事もあるんだろう。
そうなった時も、必ず僕はウルを暴走させたりはしない。
僕と仲良くなったウルがそんな残酷な結末を迎えるなんて、僕には耐えられないから。
「アーク、攻めてもいい?」
「ちょっと待って。レク、いつも通りお願い!」
「はいニャ!」
「よし、それじゃ行こうか、ウル!」
「よっしゃ! 望む所だぜ!」
元気良くグレートウルフを含んだ群れに立ち向かっていくウル。
そして数分後、ウルは一人でその群れを全員気絶させていた。
倒すだけでもすごいのだが、全ての相手を合成可能な状態まで弱らせておけるというのは、力にまだ余裕がある証だ。
ウル、本当に強くなったんだな……。
「アーク、合成をしてくれ!」
「うん、分かった。……不安はないかい、ウル?」
「もちろん! オレはアークを信じているからな!」
そう言ってまっすぐ僕の方を見つめてくるウル。
きっとその言葉には嘘偽りは全くないのだろう。
一途な信頼。
それはとても嬉しいものでもあるけれど、同時に裏切ってはいけないという重責にも繋がる。
でも、その信頼に応えなくては。
ウルがそれだけ僕を信頼してくれているのだから。
「それじゃウル、いくよ!」
「おう、お願いだ!」
僕はまずウルフからウルに合成していく。
そしてウルフの合成が終わった後、最後にグレートウルフの合成へと移ろうとした時ーー
「おい、アーク、大丈夫かよ?」
「ヴァルド、僕は大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」
「いや、少し休んだ方が良いって。アーク、ここ何時間も合成し続けているんだぞ? さすがに精神的に持たねえだろ?」
「大丈夫。さっきも休んだし、これが終わったらまた休むからさ」
僕はグレートウルフの方に近づく。
そしていつも通り、ウルに合成を始める。
絶対失敗してはならない、グレートウルフとの合成。
僕は、絶対に失敗させないんだ…!
そして緊張の数分を乗り切り、ついにグレートウルフをウルに合成する事に成功した。
「ヴァルド、ウルの様子は?」
「……ああ、問題ない。合成は成功だ、アーク!」
「そう。それは良かっ……た……」
その時点を境に僕の意識は飛んだ。
みんなの叫ぶ声が聞こえたような気がしたが、そんな声もいつの間にか聞こえなくなっていった。
しばらくして僕は目が覚める。
辺りを見渡すと、どうやら僕はベルサの宿屋にいるらしい事が分かった。
ベッドに寝かされていたので、きっと倒れた僕を仲間達が運んでくれたんだろうな……。
そしてそんな中で、近くで見守っていてくれたであろうゴンが僕の事に気付いたようだ。
「…………アーク、起きた」
「どうしたのーごんー? あっ、ほんとうだー! あーく、からだはもうだいじょうぶー?」
「あっ、うん。大丈夫だよ。心配をかけてゴメンね」
「アーク、みんな心配していたんだよ! アタイ、他のみんなにも知らせてくるね!」
ホクはそう言うと、慌てて部屋から出て行った。
恐らくテイニーやメルに僕の無事を知らせに行ったんだろう。
「……アーク」
「ん? どうしたの、ウル?」
ウルはとても辛そうな顔をしていて、僕の方を直視出来ないでいた。
もしかすると、ウルは責任を感じているのかもしれないな。
ウルが僕に無理を言って合成をさせたから、僕は倒れてしまったと。
別にウルが責任を感じる必要なんてないのにな。




