69.メルと防具屋の主人の相性は最悪のようです
「おう、戻ってきたか。早かったな。それで、アクアスライムの粘液は用意できたのか?」
防具屋に戻ってくると、主人が早速僕に話しかけてきた。
もちろん、用意は万全である。
「はい。これで良いですか?」
「……うむ。確かにこれだ。これが1,2……うむ、10個あるな。確かに確認した」
そう言うと、主人は粘液をしまってから、今度はテイニーのそばに展示されている防具を外した。
そしてその防具をテイニーに手渡す。
「今からこれは嬢ちゃんのものだ。少年に感謝しておくんだな。あっちに着替える所があるから、好きに使ってくれ」
「あ……ありがとうございます! わ、わたし、早速防具を身につけてきますね!」
テイニーは若干緊張しつつも、無事に防具を受け取り、そのまま着替えるスペースまで向かった。
そしてテイニーの着替えを待つ間。
「テイニーはん、良いなぁ。ウチもこの防具が欲しいなぁ」
メルが見ているのは、展示されている服だ。
見た感じは普通の服なのだが、きっとメルが欲しいという位なのだから、良い物に違いないんだろう。
「20000Fだ」
「えっと、それはスライムの粘液でいうと何個分なんや?」
「20000Fだ」
「えっ、せやから粘液でいうと……」
「20000Fだ。商人ならそれ位持っているだろう? でなければその服をお前に譲るつもりはない!」
そう言ってむすっとした顔をする主人。
メル、だいぶ主人に嫌われたな……。
「チッ、しゃあないな。ほれ、20000Fや。これで持って行ってもええよなぁ?」
「……フン、好きにしろ」
メルも主人に負けず劣らず不機嫌な表情を浮かべ、服を展示から外していく。
そしてテイニーの隣にあるスペースを使って着替えを始めた。
こうして待つ事、数分。
「……お、お待たせしました! に、似合うでしょうか……?」
「うん、なかなか悪くない着心地やな。本当、作った人の愛想さえ良ければ完璧やのにな」
着替えの終わったテイニーとメルが出てきたようだ。
テイニーは白を基調とした、黄色の装飾品がアクセントになっている、全体的にフワフワとした防具を身につけている。
一方のメルは……うん、普通の服だからあまり変わり映えがしない。
「うん、二人とも似合っているよ」
「そうですか……。ありがとうございます、アークさん!」
「フフ、まあウチほどの美人ともなれば、どんな服も似合って当然なんやけどな」
メルのその言葉を聞いて、にらむ主人。
……ご主人さん、その顔怖いって。
メルがこれ以上刺激する前に、早い所退散した方が良さそうだ。
「それでは僕達はこれで失礼します。色々とお騒がせしてすいませんでした」
「おう、また何かあったら来てくれよ! できれば純粋に防具の事だけを話し合える奴だけでな!」
こうして僕達はそそくさと防具屋から出て行った。
そしてそのまま宿屋の待合スペースまで到着すると――
「あー、気に入らんわ! あの防具屋の大男! 全く、何様のつもりなんねん!? ウチは天下のアツメル総合店の経営者のメルやっつってんのに、あの態度は何や!?」
「まあまあ……一応服を売ってはくれたんだから良いじゃないか」
「……フン、まあそれだけは唯一の収穫やな。これですぐにぶっ壊れたら返金してもらわんと気がすまへんけどな!」
そう言うメルではあったが、服自体の感触を確かめていて、その服に対する不満は特になさそうだ。
まあ、そうでなければ、大金をはたいて、嫌いな人からわざわざ服を買ったりしないだろう。
「メルがあそこまで不機嫌になるなんて珍しい所が見れたよ」
「ウチもここまで話が通じない相手というのは久しぶりに会ったわ。職人ってのは、なかなか気難しい人が多いとは分かっていたけどな。正直あのタイプはウチには合わんかったわ」
ふうとため息をつくメル。
恐らく単純にメルとの相性が悪かっただけなんだろうな、防具屋の主人とは。
別に人が悪い感じではなかったしさ。
というより、思った以上に商人に対する忌避感がすごかったというか。
きっと何か商人関連で嫌な思いをした事があるんだろう。
そんな気が何となくする。
とにかく一騒動あったものの、何とか無事にみんな防具を買う事ができた。
自分の部屋に戻った僕は、一晩しっかりと眠って、そして翌朝を迎える。
大きなリュックを背負って、一階の待合スペースへと向かうと。
「あっ、おはようございます、アークさん!」
「テイニー、おはよう。ちゃんと起きれたんだ?」
「すごく眠かったですけどね。でも何とか起きる事ができました!」
テイニーは確かにどこか眠そうにはしているが、昨日よりも顔に疲れは見られないので、よく眠れたという事だろう。
これから旅に出るという所なので、体調が万全になっているようで良かった。
ちょっと遅れてきたメルが一階に来るのを待ってから、僕達は出発する事にした。
町から出て、南へと歩いている途中のこと。
「すまへんな、ちょっと遅れてしもて」
「いや、昨日は色々大変だったからね。無理もないよ」
「それより、次はどこに向かうつもりなんや、アークはんは?」
「次はこのまま南に進んで、機械仕掛けの町ベルサに向かうつもりだよ」
「ほう、機械仕掛けの町か。そりゃ面白い所に行くんやな」
機械仕掛けの町、ベルサ。
その町では色んな機械が開発されていて、発光石の代わりの灯りがあったり、通信石の代わりになる機械があるそうだ。
そういう物があるとは聞いているけど、実物がどんなものなのかはちょっと気になるよなぁ。
「後はその西にある草原も目的だったりするね」
「確かそこの草原にはウルフがいるんですよね。……もしかして、それって!?」
「うん、そうだね。そこでウルフくんにウルフを合成するつもりだ」
ウルフにウルフを合成する。
そうウルフと約束しちゃったからね。
みんなには言っていなかったけど。
「それにしても、アークはんはウルフはんに名前はつけへんのか? つけへんと、ウルフはんと野生のウルフの呼び分けに苦労するんやないか?」
「それもそうだね……。それなら、これからウルフくんの名前は”ウル”でどうかな?」
……ガゥ!
「ふふっ、どうやらウルフくんはその名前を気に入ったようですね」
「それは良かった。それじゃ、ウル、これから改めてよろしく!」
ウルは名前をつけてもらって嬉しいのか、ちょっと前の方へと走っていってしまう。
いや、嬉しいのは分かったけど、そこまで反応しなくたっていいのになぁ。
まあ、そう気持ちを表現してくれて悪い気はしない。
ウルはそれからも早く先に進みたいようで、僕達の前を行くように進んでいく。
きっと早く強くなりたいんだろうな、とその様子を見ていると思うのだが。
「ここの道路も魔物は出るから、あまり前に行き過ぎないでよ、ウル?」
ガゥ!
返事はするのだが、やはり前の方を歩くウル。
全く……分かっているんだか、いないんだか。
まあ、でもきっとウルの事は心配はいらないか。
ウルの背中にはゴンが乗っているし、頭の上にはラス、ゴンの頭の上にはホクがいる。
こんなにもウルを守る従魔達がいれば、この辺りの魔物なら全く問題にならないだろう。
今通っている所に生息している魔物は一番強くてDランク魔物のスレイプニルだ。
もしかするとウルでも倒せるかもしれない相手なのだから。




