68.ラスの粘液には価値があるようです
ウルフの合成を決めた僕。
ただ、先程シェルザルと一緒に入った、港町ティズの北にある森に入るのは危険過ぎる。
Bランク魔物であるグリフォンやダイアウルフがうようよしているし、先程のように、何か魔物を倒したら、他の魔物が襲ってくる可能性もあるからだ。
それを考えると、その森で合成をするのは得策ではないだろう。
合成をするには時間がかかるし、集中力もいるから、命の危険があるような場所では上手くできないだろうからね。
ならばどうするか?
ウルフが生息するのはその森だけではない。
港町ティズから南に向かった所にある町、ベルサ。
そのベルサの西側の草原にもウルフはいるのだ。
そこにはBランク魔物であるダイアウルフは存在せず、一番強いのはCランク魔物であるグレートウルフ。
つまり、森よりも断然安全に合成をする事ができるという訳だ。
「明日、僕達はここから南の町ベルサに向かう。その町の西側の草原に行ってから、ウルフくんの合成はしようと思う。だから少しだけ待ってもらっていてもいい?」
……ガゥ!
今はまだ合成はできないが、その時に合成をしてもらえる。
そういう内容がどれ位伝わったか分からないが、何となく理解してもらえたようで、それからは特にウルフの方から僕に何か言いたそうな表情を浮かべる事はなかった。
まあ、合成を受けるゴン達を見ていて、とても羨ましそうにはしていたけど。
途中で昼食の休憩をとるために町に戻りつつも、結局日が暮れるまで合成は続いた。
そして宿屋に戻ると。
「あっ、アークさん、お帰りなさい。あれっ? その防具……どうしたんですか!?」
「そういえばテイニー達には言ってなかったね。テイニー達が頑張っている間、僕は防具の素材を集めて、防具屋に防具を依頼していたんだ。それを今装着しているという訳さ」
「なるほどなぁ。しかもその防具、だいぶ質が良さそうやな。パッと見ただけで分かるわ」
「そうなの、メル?」
「ウチは商売上、防具を扱う事も多々あるのや。せやけどここまで上質なモンはほとんど見た事はあらへん。どこで作ってもらったんか、その防具は?」
「ここの町の防具屋だけど……」
「そうか。なら、ちょっと案内してもらってもええか? 是非、商売のパートナーとして迎え入れたいと思うんや」
商売のパートナーか……。
でもシェルザルの言い方からすると、そういう事にあまり興味がなさそうな感じがするんだけどな、あの防具屋の主人は。
そもそも今の時間も店をやっているのかもよく分からないしさ。
「場所は案内できるけど、でも今もやってるかどうかは分からないよ。それでもいい?」
「十分や。場所さえ分かれば、後はこっちのもんやからな! テイニーはんはどうする?」
「わたしも行きたいです。できれば防具も見てみたいな、と。アークさんみたいに良さそうな防具、わたしも身に付けてみたいです」
そう言って僕の防具をじっと見てくるテイニー。
テイニーってそこの辺り無頓着だと思っていたんだけど、気にしていたんだなぁ。
ちょっと意外かも。
それから僕達は宿屋を出て、防具屋へと向かう事にした。
「みんな、着いたよ」
「えっ、ここが防具屋というのか、アークはん? その割には看板がないようやけど?」
「うん。僕も初めて来た時は戸惑ったよ。シェルザルにここの事を教えてもらったんだ」
「ほう、シェルザルはんにか。あの男、何だかんだで色んな事知ってそうやもんな。というかアークはんはシェルザルはんとまた会っていたんか」
「そうだね。依頼を手伝ってもらったり、手伝ったりしたよ。今は首都デコラーダに向かっていて、ここにはいないけど」
シェルザルは色んな所で依頼をこなしているというだけあって、きっと色んな町に精通しているんだろうな。
野生の魔物と仲良くなっていたりもするし、実に不思議な人だった。
悪い人ではないと思うんだけどね。
僕は一呼吸おいてから、防具屋の扉に手をかける。
果たして、開いているのだろうか?
恐る恐る扉を押してみると、あっさりと扉は開いた。
そして奥にいる防具屋の主人と目が合う。
「おお、お前は昼間に来た少年か。一体どうした?」
「あっ、えっと、この防具が素晴らしい物だから、是非それを作った人に会いたいって仲間が言うんで、つい……」
「なるほど。俺の腕が分かる奴を連れてきたというのか。どの仲間だ?」
そう言って防具屋の主人は僕達を観察する。
すると、メルが一歩前へと出た。
「ウチがその目利きのある人やで! ウチはメルというのや。よろしゅうな!」
「お前が俺の防具の良さに気付いた人か。思ったよりも若い姉ちゃんのようだが?」
「ウチを若い姉さんやと思って侮ってもらっちゃ困るで? ウチは天下一のアツメル総合店の経営者や! 商品の目利きにはそれなりの自信はあるんやで?」
メルはそう自信を持って言い切る。
流石はメル。
相手が巨大な男でも、一切物怖じしないのはさすがだな。
色んな人を相手に交渉する商人をやっているだけの事はある。
「アツメル総合店の経営者か。商売関係の話をしに来たんだろうが、俺はあいにくその類の話には興味はねえ。よそをあたってくれ」
「そうなんか? それだけの腕があれば、きっと物凄い売上を叩き出せるやろうに。もったいないなぁ」
「余計な心配はしなくていい。俺は俺のやりたいようにやる。そういう話を聞きに来たんなら、さっさと帰ってくれ」
防具屋の主人はそう言うと、さらに奥にある従業員スペース的な所に引っ込もうとするのだが。
「あっ、これ、かわいいです! それにこの肌触り、良くありませんか、レク!?」
「うんニャ。とても良いニャ! きっとこの防具、テイニーに似合うニャ」
とある女性用防具を見て、テイニーはレクと一緒に防具について語っている。
そんな二人に防具屋の主人の視線が移った。
「そこの嬢ちゃん、その防具が欲しいのか?」
「はっ……はいっ! で、でもわたし、そんなにお金持っていないんです……」
「なるほどな。確かにその防具一式ともなれば50000Fほどになるだろうから、気軽に買える代物ではないだろうな」
「ご、50000Fですか!?」
「す、すごい額だニャ!?」
50000Fか……確かに高いな。
ちなみに僕が作ってもらった防具の値段は5000Fだった。
恐らくその50000Fという価格には、素材を集める手間暇などを含んだ額なのだろう。
防具を作るのに必要な素材を集めるのは結構骨が折れるからね……。
とても買えない額だと知ったテイニーはしょんぼりとした表情を見せる。
だが、防具屋の主人は今度は僕の方を向いてきた。
「そこで相談なんだが、少年。先程のアクアスライムの粘液はどこで手に入れた?」
「えっ、どこって言われましても……」
「あの粘液ほど使いやすくて純度の高いものはねえ。もしもだが、その粘液をもう十個ほどくれるというのなら、その代わりにその防具一式をくれてやってもいい」
……えっ、そんなに粘液にそんな価値を見てくれているの、この主人は!?
でも実際、それだけの価値があるのかもしれない。
その粘液を作った防具は素晴らしいものだとメルが言っていたし、宿屋の主人はいつもよりも防具が作りやすかったとも言っていた。
この機会を利用しない手はないか。
「分かりました。まだ余っている分があるので、ちょっと取って来てもいいですか? そんなに時間はとらせないので」
「うむ。分かった。待っている事にしよう」
そう言うと僕は従魔達を連れて、一旦宿屋の自分の部屋まで戻るのだった。
「……あーく、またあくあすらいむのやつをつくればいいんだねー?」
「うん、話が早くて助かるよ。お願いしてもいいかな?」
「いいけど、そのかわり、すいーつをまたたべさせてねー?」
「ラス、本当にスイーツ好きなんだなあ。うん、分かった。約束するよ」
「やったー! それじゃいくよー」
ラスは前回と同様に、水色の分体を作り出していく。
それがあっという間に十個。
これで求められた物は用意できた。
……何かあまりに簡単にできるので、だましている感じがあるけど、でもそれだけの価値があるっていうのなら仕方ないよね。
僕はリュックにその粘液をつめて、防具屋に再び向かう事にした。




