67.みんなはもっと強くなりたいようです
ホクが向いている方向に向かうと、港町ティズの西門へとたどり着いた。
これは外に出たいって事かな?
僕は西門を出て、外に出る。
そして周囲に人がいなくなった頃になると。
「……アーク、もう話してもいいよね?」
「うん、構わないよ」
「ぷふぁ、本当、言いたい事があっても言えないって辛いよ! とても窮屈だしさ!」
ホクはそう言ってぐったりとした様子を見せる。
ちなみに今のホクはゴンの頭の上に乗っている状態だ。
もう、そこがホクの定位置になりつつあるね。
乗られているゴンは全然気にしていないようだし。
ホクの掴む力が強いから、少し痛くなるはずなんだけどなぁ。
ゴンの頭は痛くならないほど頑丈なんだろうか?
かなり体全体が頑丈そうだもんね。
「それで、ホクはここに来たいって事で良かったの?」
「うん、合ってるよ。あと、アークにお願いがあるんだ」
「僕にお願いだって?」
「そうさ。アタイ、あのダイアウルフの接近に気付けなかった。まだまだ弱くて、みんなの足を引っ張っちゃってる。だからアーク、アタイを強くして! もっと頑張ってみんなの役に立ちたいんだ!」
なるほど、そういう事か。
確かにシェルザルと一緒に入った森で、ホクは危うくダイアウルフにやられる所だった。
ラスが機転を利かせてくれたおかげで難を逃れたけど。
その事をホクはだいぶ気にしていたんだな。
僕と同じように。
ならば――
「分かった。もちろん協力するよ。でも、強くなりたいのは僕も同じだ。ラスとゴン、僕に周囲を把握するコツみたいなものを教えてくれないかな? このままでは、僕はみんなの足手まといになってしまうから」
「えー? あーくはぼくたちがまもるからそのままでだいじょうぶだよー?」
「ごめん。みんなの力を信じていない訳ではないんだ。でも、やっぱりこのまま自分だけが無力だっているのは自分でも嫌なんだ。力はなくても、力がないなりには頑張りたいし、みんなの役に立ちたい。少しでも強くなれるのなら、僕は何だってしたいんだ。だからお願い!」
僕の必死の言葉に、困惑しているような様子のラスとゴン。
だけど、そんな僕をゴンはじっと見つめてきて――
「…………分かった、教える」
「ほ、本当、ゴン!?」
「…………喋るの苦手。…………ラス、通訳」
「うんまかせておいてー! あーく、よかったねー」
どうやらゴンがコツのようなものを教えてくれるようだ。
僕の身体能力じゃゴンには決してなれないけど、でもそれを学んで、自分の糧にする事はできるだろう。
ゴンはそのチャンスをくれた。
なら、そのチャンスは活かすしかない!
「…………おれも強くなる。…………忘れない」
「あっ、うん。もちろんゴンにも合成はちゃんとするから、心配しないで?」
「あーく、ぼくのこともわすれないでよー」
「大丈夫だって。ホクやゴンに使った合成の陣を使ってもいいから、ラスは!」
「やったー! ありがとう、あーく!」
既に強いラスやゴンもさらに強くなりたいという意思を持っている。
これじゃ二人に追いつきたいホクは相当苦労するだろうな。
ホクが強くなると同時に、ラスやゴンも強くなる。
もしかするとその差は縮まらないかもしれないのだから。
そんな様子を首をかしげて見つめるのはウルフだ。
何を話しているのかさっぱり分からないという所だろう。
まあ、無理もないか。
ウルフはラス達の合成の瞬間をまだ見た事がない。
だから何をするつもりなのかも分からないんだろうな、きっと。
それから僕達は港町ティズの周辺を歩き、出会うホークやオーガは合成し、周りに魔物がいない時は僕がゴンから指南を受ける。
ラスは相変わらず大量のスライムをかき集めて一緒になっている様子で、いつも通りの光景がそこにはあった。
そしてそんな中で――
……ガゥゥ!
「どうしたの、ウルフくん? もしかして君も合成をして欲しいっていうのかい?」
ウルフはこくんとうなづく。
この状況を見れば、確かに自分だけが仲間外れにされている感じも否めないし、そう思ってしまうのも無理はないだろうな……。
だけどウルフは人から合成をされない為に救い出した魔物。
その魔物を結局合成するのはいかがなものかと思うんだよね……。
「ごめん、ウルフくん。君を合成する事はできないんだ」
僕がそう言うと、ウルフはとても悲しそうな表情をした。
その表情を見て、僕もだいぶ胸が痛くなる。
……別に合成できなくはないし、合成をしてあげたら、ウルフは喜ぶだろう。
僕が合成をすれば、ウルフは恐らく変な姿になる事なく、純粋に強くなる事ができる。
だけど、それで良いのか?
合成をする事で、ウルフがウルフでなくなってしまったら、ウルフを不幸にしてしまうのではないか?
そんな葛藤が僕を包み込む。
「あーく、ごうせいしてあげたらー?」
「えっ、でも……」
「あーくはうるふくんのことがしんぱいなんだよねー? でもぼくたちのことをしんぱいしていないわけじゃないでしょー?」
「う、うん。それはもちろんだよ。僕にとってラスもゴンもホクも、みんな大事だし、かけがえのない存在だと思っている」
「なら、うるふくんはどうなのー? うるふくんはあーくにとって、どういうそんざいなのー?」
どういう存在、か。
あまり考えた事がなかったな。
僕と従魔の契約を結んだ訳ではなく、従魔同然に付いて来てくれている魔物。
ラス達の中に溶け込んでいるし、もはや実質、僕の従魔といっても差し支えないだろう。
ウルフはダイアウルフと対峙した時も、平伏するどころかむしろ敵対心を持っていた。
同族に対する思いよりも、僕達を傷つけようとする事を許さない気持ちの方が勝っている、そんな思いを持つ存在。
もはや、群れに戻そうとしても、群れに溶け込ます事は困難だろう。
「…………アーク、大丈夫。…………合成、怖くない」
「他の人の合成は分からないけど、少なくともアークの合成は問題ないよ。アタイ、アークの合成を受けて、ますます調子が良くなっているからさ!」
「……みんな」
みんなはそう言ってこくんとうなづく。
ウルフも僕の方をじっとみつめている。
許可が下りるのをずっと待っているみたいに。
「……分かった。それならみんなの言う事を、自分を信じるよ。僕はウルフくんを合成する。きっとそれがウルフくんにとっての幸せだと思うから」
……ガゥゥ!
そう吠えると同時に、ウルフは僕の体をよじ登って、顔をペロペロしてくる。
だからくすぐったいって。
どんだけなめるのが好きなんだよ、このウルフは。
全く……こんなに喜んでもらえるなら、迷う必要なんてなかったじゃないか。
この選択は決して良いものになるとは限らない。
だけど、良いものになるように僕は全力を尽くすし、悪いものには絶対にさせない。
その事を心の中で誓う僕なのであった。




