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64.みんなに甘い物を振る舞ってみました

 僕が宿屋の一階へと移動すると、そこには本とにらめっこをするテイニー達の姿があった。

 どうやら勉強を必死で頑張っているようだね。



「おっ、アークはん。何か忘れ物でもしたんかいな?」

「いや、ちょっとレクに用があってね」

「んニャ? あっしに用とは何かニャ、アーク?」

「テイニー、ちょっとレクを借りてもいいかな?」

「あっ、はい。大丈夫ですよ」



 テイニーの許可が下りた所で、僕はレクを自分の部屋まで連れてきた。

 そして適当な所に腰かけてもらってから話を進めようとするのだが。



「んニャー……魔法って難しいものだニャ……」

「やっぱり難しいんだ。でもあの分厚い本を読み切ったんじゃなかったっけ?」

「確かに目は通したニャ。だけど読み込みが足りなかったみたいで、結局また同じ所を何度も読む事になっているニャ。とても骨が折れるんだニャ」



 ハハハ……。

 やっぱり魔法を使えるようになるまでには相当な苦労が必要みたいだ。

 まあ、魔物使いの従魔の儀式をする時とかも最初の頃は覚えるのに苦戦してたっけ。

 魔物使いになる事を夢見ていた僕は、その難しさも全然苦にならなかったけど。

 多分魔法使いになる為の勉強だったら挫折していただろうなぁ。



「そういえば用とは何だったかニャ、アーク?」

「あっ、うん。実はね、僕は今、防具を作ろうとしているんだけど、その素材にケットシーのラッパが必要なんだ」

「……なるほどニャ。つまりあっしからケットシーのラッパをもらおうとしているのかニャ、アークは?」

「うん。この周辺に野生のケットシーはいなさそうだし、レクに頼むしかないかと思って」

「あっしの価値に気付くとは、なかなかお目が高いニャ。もちろんその分の対価はきっちりともらうけど、構わないニャ?」



 なるほど、対価か……。

 やはりただとはいかないみたいだけど、レクは果たして何を要求してくるんだろうか?



「何が欲しいんだい、レクは?」

「あっしは甘い物が食べたいんだニャ。勉強のし過ぎで正直頭がクラクラしてきたんだニャ。栄養補給は大事なんだニャ」



 なるほどね。

 確かに糖分摂取は大事だ。

 今日一日ずっと頑張っているレクが甘い物を欲するのも分かる。



「うん、分かった。それじゃ今すぐ買ってくるよ」

「んニャ。あっしに満足する物を食べさせてくれたら、ラッパを作り出す事を約束するニャ」

「了解だよ。その時はよろしく頼むね、レク」



 こうして僕はレクと約束を交わした。

 それから宿屋を出て、ちょっと行列ができているスイーツの店に並んで、美味しそうなデザートをいくつか買っておく。

 そして再び宿屋に戻る事にした。



「みんな、勉強お疲れ様。甘くて美味しそうなものを買ってきたから、みんなで食べてね」

「えっ、いいんですか、アークさん!?」

「おお、気が利くんやな、アークはん! ちょうどウチ、甘い物食べたい所やったんや!」

「お礼ならレクに言ってよ。僕はレクに頼まれて買ってきただけなんだから」

「そ、そうなのですか? レク?」



 テイニーにじっと見られるレク。

 レクは少し困惑した様子だったのだが。



「……も、もちろん、当然の事だニャ! あっしはみんなの事も気遣える紳士的なネコなのニャ!」

「れ、レク……本当にありがとうございます!」

「レクはん、おおきにな!」



 レクはそう言いながらも冷や汗を流しているようだ。

 ……まあ、レクは自分の分しか僕に要求してなかったのだから、無理もないか。



 デザートを食べる為、一旦待合スペースからそれぞれの部屋に戻る僕達。

 デザートをみんなに配り終わって、僕も自分自身の部屋に戻り、スイーツを堪能していると、ドアをノックする音が聞こえた。

 その後、入ってきたのは縮こまった様子のレクだった。



「……あ、アークはあっしの想像以上の事をしてくれたニャ」

「うん、ごめん。余計なお世話だったかな? みんな疲れていそうだったから、みんな分あった方が良いと思って買ってきちゃったけど」

「いや、助かったニャ。おかげでみんなの中であっしの株は急上昇間違いなしだニャ」

「それは良かった。で、約束の方はどうなんだい、レク?」

「もちろん問題ないニャ。ちょっとそこで待っていると良いニャ」



 レクはそう言うと、目を閉じて精神を集中させる。

 そして次の瞬間。



「……治癒強化の笛だニャ!」



 そうレクが言うと、レクの手元にはラッパが急に現れ、そのラッパをレクが吹き、辺りには癒しの音が響き渡る。

 レクはラッパを吹き終わった所で、そのラッパを僕に差し出してきた。



「アーク、これが約束の物だニャ」

「ありがとう、レク。でもわざわざ吹く必要はあったの?」

「このラッパは技の一環で出現するものニャ。つまり技の発動をやめてしまうと、ラッパも消えてしまうのニャ」

「ふーん、なるほどね。でも技を発動する度にラッパが出現して消えないんだったら、その辺ラッパだらけにならないかな?」

「そこは心配ないニャ。ラッパは術者、つまりあっしの意思で消す事も可能なのニャ。普段はそれで消しているけど、今回は消さないでおくから安心すると良いニャ」



 ふーん、そういうものなのか。

 じゃないとケットシーが住む所には大量のラッパの残骸が残っていて大変な事になるよね。

 どうしてそうなっていないのか納得したよ。


 それから少し雑談をしてから、レクをテイニーの元へと送り届け、僕は自分の部屋へと戻った。

 さて、これでケットシーのラッパは手に入り、残るはアクアスライムの粘液なのだが。



「ラス、アクアスライムの粘液って出せる?」

「だせるよーでもおなかすいちゃってちからがでないなー」



 そう言ってラスは僕の食べかけのスイーツをじっと見ている。

 ……うん、やっぱりそう言うと思ったよ。



「分かった。実はみんなの分の物も買ってきておいたんだ。みんなで食べて」

「わーやったー! ありがとーあーく!」

「…………感謝する」

「アーク、ありがとう! アタイ、一度食べてみたかったんだ!」

 ガゥゥ!



 僕がラス達にそれぞれスイーツを配ると、みんなとても嬉しそうな表情でスイーツを堪能していた。

 どうやらスイーツの味は人間だけでなく、魔物にも好まれる味のようだね。


 みんなが美味しそうにスイーツを頬張っている中、じっとこちらを見てくる目があったので、そちらの方に僕が移動していく。

 窓を開け、その者に声をかけた。



「もちろんヴァルドの分もあるよ。でもこの大きさじゃ、小さすぎて味わえないよね?」

「……なら、小さくなる薬をくれ。それなら問題ないだろう?」

「それはそうだね。そうしようか」



 ヴァルドは小さくなる薬を使ってから、僕の部屋へと入り込む。

 そして僕から受け取ったスイーツを一口。



「味はどう、ヴァルド?」

「……うむ。初めて食べた味だが、こういうのも悪くないな」

「でしょ? 疲れた時に食べると、より一層美味しく感じるんだよね、こういうのってさ」



 何はともあれ、ヴァルドも満足してくれたようで何よりだ。

 ヴァルドにはいつも助けられてばっかりだからね。

 少しでもお礼ができればとは思っていたんだ。

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