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63.シェルザルは僕に無茶をさせていたようです

「…………来る」



 ゴンはそうつぶやくと、目にもとまらない速さで僕の前へと飛び出してきて、棍棒を一振り。

 すると棍棒の一撃を受けたであろうグリフォンが吹っ飛ばされ、木に叩き付けられた。


 あ、危なかった……。

 ゴンが攻撃してくれなかったら、きっと僕の命はなかっただろうな。



「ありがとう、ゴン。助かったよ」

「…………まだ終わってない」

「そうだね。それならアタイがとどめを刺すよ!」



 木に激突したグリフォンではあったが、まだ起き上がろうという動きを見せていた。

 そこをホクがとどめを刺し、グリフォンは倒れる。

 だが、そんなホクを狙う者が。



「させないよー」



 ホクに向かって襲い掛かる何か。

 それがホクの体にまさに触れようとする寸前、ラスの分体がホクとその何かの間に立ちはだかる。


 ひるんだそれは、一旦ホクから距離をとった。



「ダイアウルフか……厄介な奴に目をつけられたものだな、アーク」



 ダイアウルフ。

 グリフォンと同じくBランクの魔物であり、ウルフの上位種族でもある。

 グレートウルフよりもさらに上位に当たる、その種族の俊敏性は凄まじい。

 実際、ホクへと近付く様子は目で追うだけでもやっとだった。



「ラス、ありがとう」

「まだおわってないよーあーく。これからがんばらないとだよー」



 うん、ラスの言う通りだ。

 ダイアウルフは未だにホクを狙い続けており、ホクの身が危ない状況だ。

 強い魔物がダイアウルフだけならば空に飛んで逃げれば良いのだろうが、ここにはグリフォンもいる。

 迂闊に空を飛んで逃げるという訳にもいかないだろう。



「シェルザル、ダイアウルフは僕達が抑える。その間にグリフォンの剥ぎ取りをして!」

「ああ、分かった。無理だけはするなよ?」



 そう言って、シェルザルは倒れたグリフォンの元へと近付き、剥ぎ取りを開始する。

 僕達はそんなシェルザルとホクを背にして、ダイアウルフの前に立ちはだかった。



「ウルフくんも下がってて。君が敵う相手じゃない」

 ガゥゥ…… 



 ダイアウルフ相手に闘志をむき出しにしていたウルフだったのだが、相手はウルフが敵う相手ではない。

 ここは戦わずにおとなしくしてもらうべきだろう。


 というか、ウルフの奴、自分と同族のダイアウルフに対して、そんな敵意を見せて大丈夫なものなんだろうか?

 しかもかなりの格上だろうに。

 まあ本人がそれで構わないのなら、口を出すつもりはないけど。





 僕はラスとゴンを従えて、ダイアウルフと対峙する。

 さて、どう攻めるべきか。



「ふん、甘いな」



 そう言うヴァルドの声が聞こえると同時に、僕の近くにグリフォンの死骸が落ちてきた。

 どうやらヴァルドがグリフォンを倒してくれたらしい。

 というか、いつの間にグリフォンが襲ってきていたんだよ?

 本当この森、恐ろし過ぎるだろ……。



「アーク、早めに片をつけないと厄介な事になりそうだぞ。既に血の匂いを感知して、ウルフ共が遠くから近付いてきている気配がする」

「……うん、分かった。それじゃ、一気に行くとしようか。ラス、分体を飛ばしてダイアウルフの体を拘束!」

「うん、わかったよー」



 ラスはそう言うと同時に素早く分体をダイアウルフに飛ばす。

 だが、ダイアウルフはその動きを見切り、僕達の方へと一気に近寄ってきた!



「させないよー」

「…………守りは任せた」



 僕に向かって攻めようとしてきたダイアウルフだったが、ラスが分体の壁を作って、ダイアウルフの動きを牽制。

 そして一瞬ダイアウルフがひるんだ隙を見計らって、いつの間にかダイアウルフの背後に回り込んでいたゴンがダイアウルフを棍棒で叩き飛ばした!

 その勢いのまま木に激突してもがくダイアウルフ。

 そこにラスが複数の分体をまとわりつかせて、勝敗は決した。



「……おお、二人ともすげえな。グリフォンに続いてダイアウルフも倒しちまうとは」

「シェルザル、剥ぎ取りは終わったの?」

「ああ、バッチリだ。苦労かけて悪かったな」

「なら、早くこの場を離れよう。もたもたしているとさらなる魔物に襲われかねないから」

「そうだな。その方が賢明だろう」



 僕達はそれから急いでその場を離れた。

 すると残されたグリフォンやダイアウルフの死骸には周囲から集まってきた魔物達が群がり、その魔物同士での争いが始まっていた。

 ……もしあの中に僕達がいたらと思うとぞっとするな。

 もしそうなると、下手したらヴァルドに力を存分に振るってもらう事は避けられなかっただろう。

 それでも、僕達の防御が間に合うかどうか自信は正直ない。


 ラスとゴンは確かにBランク魔物を圧倒するほどの力はつけている。

 だけどやはり相手も相手だ。

 今までの魔物とは実力が違う。

 油断していたらこちらがすぐにやられかねないような気がする。


 これはもっと頑張る必要がありそうだ。

 正直ちょっと慢心していたかもしれないな。




 森から抜け出し、僕達はギルドの中まで到着する。

 シェルザルの依頼達成報告を見届けると、その後シェルザルが近くでくつろいでいた僕に話しかけてきた。



「依頼ご苦労さん。本当助かったわ」

「いや、こちらこそ貴重な体験をさせてもらってありがとう。おかげでまだまだ精進が足りない事を痛感したよ」

「十分戦えていたのに、それでもまだまだ、か。実にストイックな事だ。実はもう俺よりも強いだろ、アーク?」

「それはどうか分からないけど、でもこのままじゃいけないと思ってる。ゴンに助けてもらわなかったら僕は死んでいただろうし、ラスに助けてもらわなかったらホクの命もなかった」



 最初のグリフォンの一撃。

 それは余りに早く、僕はその動きを把握できなかった。

 そしてホクはグリフォンへの攻撃に夢中で、周囲への警戒がおろそかになっていた。

 いや、あの速さで襲いかけられていたら、気を付けていても反応すらできなかったであろう。

 とにかく、課題はまだまだ山盛りだ。



「そういえば、アークの作りたかったアクアメイルズは作れそうなのか? 己の磨くのも大事だが、そういった装備を身につけるのも大事だぞ? どうしても努力じゃ対応できない部分もあるからな」

「……うん。後はアクアスライムの粘液とケットシーのラッパが必要なだけだし、多分何とかなると思ってる」

「ふーん、なるほどな。それなら素材を揃えたら俺の所に来いよ? 俺、この町の良い防具屋を知ってるんだ。良かったら紹介してやるぜ?」

「えっ、良いの、そこまでしてもらって!? あっ、まさかまた交換条件とか言うんじゃ……」

「言わねーよ。さすがにBランクの依頼の手伝いという重責を負わせておいて、さらに何か求める事なんてしねえって。だって本来この依頼を受ける為に、同行者を三人集めようかと思っていた所なんだぞ? その三人分をアークは一人でこなした訳だ。少しは自信を持てって」



 ……へっ?

 Bランク魔物の討伐って四人でやるものなの?

 正直そういうランクの依頼は全くやった事がなかったから知らなかったよ。


 Bランクの魔物使いは数が少ないから、もしかしたらCランク魔物使いを三人集めるとかそういう意味なのかもしれない。

 人数合わせに格下のランクの人を連れて行くというケースはよくあるらしいからね。

 でもそれにしても三人分だとは、恐れ入ったな……。



「……えっ、そうだったの? というか、よくそんな無茶を僕にさせようとしたね、シェルザル?」

「おいおい、そんなに怒らないでくれよ? 実際、俺の読みは正しかった訳だしさ。まあ、無茶させた事は謝る。本当にすまなかった。昨日の案内分を含めて何とか許してくれよ、な?」



 そう言って苦笑いをするシェルザル。

 まあ、無茶をさせようとしたシェルザルもシェルザルだけど、それを受けると決めてしまった僕も僕だからね。

 シェルザルだけを責める訳にはいかないか。



「なら、良い防具屋を紹介してくれたら許してあげるよ。それで変な所だったりしたら許さないからね?」

「おう、任せとけって! とっておきの防具屋を紹介するからよ!」



 シェルザルが自信を持ってそう言っている限り、きっと余程良い防具屋なんだろう。

 これは期待して良さそうだ。

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