62.シェルザルには魔物の友達が複数いるようです
「えっとアークが探しているのは、マーメイドの何だったか?」
「僕が探しているのはマーメイドの槍1つと、マーメイドの鱗3枚だよ」
「なるほどな。ならマーメイド、ちょっくら槍一つと鱗3枚頼むわ。槍は余っているやつ、鱗は剥がれたやつでいいから」
マーメイドはシェルザルの言葉を聞くと、こくんとうなづいて、再び海に潜っていった。
なるほど、シェルザルはマーメイドを従魔にしていたのか。
それなら確かに海の中の魔物と戦う事ができそうだ。
でも、あのマーメイド一体だけで大丈夫なんだろうか?
「シェルザル、あのマーメイド一体だけで大丈夫なの?」
「ん? どうしてだ?」
「だってほら、マーメイドは集団で生活する魔物なんだよね? なら、一体のマーメイドを向かわせても、複数体のマーメイドを相手にする事になるんじゃ……」
「ああ、その事か。そういう事は心配しなくてもいいぞ。何せ、あのマーメイドに戦わせるつもりはないからな」
マーメイドに戦わせるつもりはないだって?
……あっ、もしかしてシェルザルが呼んださっきのマーメイドって!?
「もしかしてシェルザルはマーメイドの群れの中の一体を呼び寄せたって事!?」
「おっ、さすがはアーク。勘が良いな。その通りだ。まあ正確にいえば、俺は群れの中のマーメイドのうちの一体と仲良くなっていてな。そのマーメイドにお願いをしたって事だ」
なるほどね。
だからさっきのような奇妙な頼み方をしていたのか。
槍は余っているやつ、鱗は剥がれたやつという言い方。
それはマーメイドが不要なものを持ってきてほしいという事だったんだ。
確かにそれならマーメイドと戦わずに素材を手に入れる事ができる!
それから数十分ほどのんびりと待っていると、マーメイドが再び顔を出した。
そしてシェルザルに指定されたものを渡す。
「おう、ご苦労さん。これ、良かったら群れのみんなと食ってくれ。うまいぞー」
マーメイドはシェルザルから何かを渡されると、にっこりとしたような表情を浮かべ、海の中に潜っていった。
「シェルザル、従魔に群れの中で生活させているなんてすごいね。……まさか、あのマーメイドも従魔じゃないとか言わないよね?」
「いや、そのまさかだ。さっきのマーメイドは俺の従魔じゃねえ。言ったろ? 仲良くなったマーメイドだって。それよりほら、アークの欲しかったもの、これだろ?」
シェルザルはそう言うと、僕にマーメイドの槍と鱗を渡してきた。
まさか、こんなにあっさりと手に入るとは。
それにシェルザルに仲良くなったマーメイドがいるとは思わなかった。
ケンタウロスだけじゃなかったのか、そういう関係にある魔物っていうのは。
「そんなに仲良くなれるなら、魔物と戦う必要がなさそうだね、シェルザルは」
「そんな事はねえよ。俺だって、仲良くなれる魔物なんて指で数える程しかいねえ。基本的にはアーク達と同じく、戦う必要がある方が多いさ。まあこういう関係にある魔物が人より多いから、ちょっぴり戦いにくかったりはするがな」
確かにシェルザルの立場ならそうだろうな。
マーメイドと仲良くしているシェルザルだったら、他のマーメイドと戦う事は避けたいだろうし、それは他の種族でも同じ。
でも仲良くなれるのは特定の個体だけだから、戦わざるを得ない時だってあるんだろう。
相当やり辛いだろうな、シェルザルは。
「大変なんだね、シェルザルは。それじゃいつも討伐系の依頼とか無理してやってる感じなんだ?」
「いや、もう慣れた。そういうものだと割り切って考えるしかないと思ってな。どのみち戦わないと、こちらがやられちまうしな」
うん、シェルザルの言う事も分かる気がする。
僕達人間は、魔物に力を借りて初めてこの世界の生物に対抗できる程の力を得た。
ただその力も振るわなければ、あっという間にやられてしまうし、生き残る為には力を振るうしかないという事だろう。
「変な話をしてしまってすまなかったな。で、どうだ? 欲しい物はそれで合っていたのか、アーク?」
「うん、ばっちりだよ。ありがとう、シェルザル」
「良いって事よ。その分、この後、きっちり働いてもらうからな」
「うん、任せておいて。しっかりと依頼をこなしてみせるから」
僕達がこれからしないといけないのはグリフォンの討伐だ。
ちなみにグリフォンは港町ティズの北にある森の中に生息している。
そこの森に生息する魔物はBランク魔物のグリフォンとダイアウルフだ。
Aランク魔物が生息していないだけ、魔の森よりはだいぶマシだが、相当危険な森ではある。
気を引き締めていかなくては。
依頼をこなした僕は一度町のギルドまで戻り、依頼の達成報告を行う。
そしてそれから港町ティズの北側の門で待つシェルザルと合流する。
「準備はできたのか、アーク?」
「うん、大丈夫。待たせてしまってごめん、シェルザル」
「そうか。なら、いい。出発するぞ」
僕達はこうして町から出て、北に進み、森の中へと入っていった。
森の中は静かだった。
木々の間から吹きすさぶ爽やかな風が心地よい。
近くに見える魔物といえば、ホーク、ウルフ、トレントといった所か。
まだグリフォンやダイアウルフの姿は見ていない。
ちなみにヴァルドにはいつも通り、体を小さくする薬を使ってもらっていて、僕達に付いて来てもらっている状態だ。
「なかなかいないね、グリフォン」
「グリフォンは地上からは見えにくい高所を好むからな……見ろ、あそこにいるぞ」
シェルザルが指差した方向を見ると、確かに木のかなり上の方に身を潜めているグリフォンの姿を捉える事ができた。
高所にいる上、あまり目立たない色をしているせいか、その姿を把握するのにだいぶ苦労する。
というか、よくシェルザルはあそこにグリフォンがいるなんて分かったなぁ。
「よく見つけられたね、シェルザル?」
「ああ、まあ長年の勘って奴だ。こう見えても俺、結構旅してきたからな。……さて、戦いの準備はいいか、アーク?」
「うん、いつでもいいよ」
「了解だ。それじゃ、ちょっとこちらから仕掛けさせてもらうとしますかね。ケンタウロス、ブレイクアローだ」
ケンタウロスは自らが使用する弓矢を突如出現させ、そしてグリフォンに狙いを定め、矢を放った。
その矢は一直線にグリフォンに飛んで行き、当たるかと思った次の瞬間!
「……チッ、やっぱり避けられたか。アーク、来るぞっ!」
矢が当たるか当たらないかというタイミングでグリフォンの姿がそこから忽然と消えた。
どうやら矢を避けた上で、僕達の方へと向かってきているらしい。
しかし、どこから攻めてきているのだろうか……?




