61.交換条件をのむ事にしました
ギルドの建物の中に入っていった僕は依頼の紙が貼られた掲示板を見てみる。
そしてある魔物が対象になっている依頼を探してみた。
えっと……うん、あった。
僕はとある一枚の依頼の紙を引きちぎり、内容を確認した。
その内容は以下の通りだ。
マーメイドの鱗3枚の納品
難易度 E
報酬金 1000F
マーメイド。
Eランク魔物であり、戦闘力は大した事がない。
ただ、マーメイドは水中に生息しているので、マーメイドと遭遇する事が非常に難しいのだ。
故にそのマーメイドの素材を集める事も難しい。
僕がどうしてこの依頼に注目したかといえば、それはもちろんマーメイドを対象とした依頼だからである。
僕が欲しいのはマーメイドの槍。
以前、注目していた青一色の防具、アクアメイルズを作成する為に必要なものである。
マーメイドは槍を武器として所持しているだろうから、マーメイドの鱗を探していれば、自然と槍も手に入るだろうと考えたのだ。
さて、どうやってマーメイドに遭遇すればいい事やら。
「……おっ、アークじゃねえか! あれ、仲間は一緒じゃねえのか?」
声をかけてきたのはシェルザルだ。
シェルザルは依頼を受けるらしく、紙を一枚手に握っている。
「ちょっとやる事があるみたいでね。今日だけは僕だけで依頼をこなす事にしたんだ」
「ほう、どんな依頼なんだ、見せてみろ。……ふむふむ、アーク、なかなか骨が折れる依頼を受けたもんだな」
「うん。正直どうやったらマーメイドに会えるかまだ分かっていないんだ。今は考え中っていう所だね」
「なるほどな。だが、考えた所で何も解決しねえぞ? マーメイドの素材を手に入れる為には少なくとも水中で戦える魔物を従える必要がある。ただアークの場合、そんなカリスマ力に余力はないだろう。となれば、そういう事ができる人に協力してもらわないといけないんじゃないか?」
……確かにそうだ。
僕の従魔達だけでは、水中でまともに戦えそうな魔物はいない。
一般的には大量発生したあの陸に上がったサハギンを従えて、海での戦力にするんだろう。
でも僕にはサハギンを従えるだけのカリスマ力がない。
だから協力者は必要不可欠ともいえそうだ。
「確かにそうみたいだね」
「だろ? だけどなかなか海で戦える魔物を従えている奴なんてそうはいねえ。なかなか骨が折れるぞ?」
「だろうね。でもせっかく時間があるんだし、やってみたいと思うんだ。防具の素材も手に入れるチャンスだしさ」
「ほう、防具の素材か。……もしかしてアクアメイルズの事か? あれ、人気だもんな」
ふーん、人気なんだ、あの防具。
その割には結構本の結構後ろの方に載っていた気がするけど。
「人気なんだ? 知らなかったよ」
「デザインが良いしな。欲しがる奴は多いんだ。……ただ、その素材を集めるのが厄介でな。だから欲しがる奴が多くても、実際に身につけている奴は少ねえんだ」
なるほど。
確かに色んな装備をしている人はいたが、アクアメイルズを装備している人はほとんどいなかった。
今までで見かけたのは一人か二人位だろうか。
「で、そこでアークに提案があるんだけどよ、聞いていくか?」
「その流れからすると……シェルザルが手伝ってくれるっていう事?」
「いや、ただ手伝う事はしねえ。交換条件だ。俺がアークの依頼の手伝いをする代わりに、アークも俺の依頼を手伝う。それでどうだ?」
そう言ってシェルザルは手に持っている紙を僕に見せてきた。
するとそこに書いてあった内容は――
グリフォンの討伐
難易度 B
報酬金 10000F
グリフォンの討伐……。
というか、難易度Bの依頼を持っているという事は、シェルザルはBランク以上だっていう事なのか!?
「シェルザルって、今ランクは何なの?」
「えっ、俺か? 俺は今Bランクだ。まあ、大会でそこそこの成績を収めた事があるからな」
「なるほど……。それは分かったけど、でも何で僕がBランクの依頼を? Dランクの僕が受けちゃダメなやつでしょ?」
「そうは言っているが、アークは全然怖気づいている様子はねえじゃねえか。本音はどうなんだ、アーク?」
「……まあ、出来なくはないとは思う。ただやっぱり不安はあるかな。ラスとゴンは大丈夫だろうけど、ホクとウルフが不安だ」
僕がそう言って従魔達の方を見る。
するとホクが何か言おうとしていたのだが、ラスがホクの口を塞いだので、何を言っているのかよく分からなかった。
というか、こんな所で言葉を発したら、たちまち注目の的だよね。
ラス、ナイスだ!
「なら、その二体だけ連れて行けばいいんじゃねえか?」
「そうだね……。でもそうするのはホクとウルフが嫌がりそうだしな……」
だって僕がシェルザルと話している間もずっと、ホクとウルフは僕の方をじっと見つめて、置いて行かないでと目で訴えているんだもん。
この状態で置いて行こうとしても絶対付いて来ようとするだろうなぁ。
特にウルフは。
正直ホクはだいぶ合成をしているから、Bランク魔物に勝てはしないが、すぐに負ける事はないとは思う。
だけどウルフには一回も合成をしていないし、僕が連れている魔物の中では一番弱いだろうから、すごく不安なんだよね。
「でもその条件は飲むよ。シェルザルの依頼を僕は手伝う。あと、シェルザルは僕の心配はしなくてもいい。自分の身は自分で守るから」
「という事は、二体は置いていくのか?」
「いや、連れて行く。ラスとゴンにはただシェルザルの依頼をこなすだけじゃなく、ホクとウルフの護衛も任せる。きっとそれだけの実力は持っているだろうから」
そう言った僕はラスとゴンを見る。
すると二人は黙ってこくんとうなづくような仕草を見せた。
任せろとでも言わんばかりの自信たっぷりの反応だな。
「……まあ、あんなすごい奴見せてもらっちまったしな。その言葉はハッタリではなさそうだ。……なら、いいぜ。全員連れて行くがいい。いざとなったら俺も守ってやるからよ」
「心配かけてごめん、シェルザル。でも心配しなくて大丈夫。僕の従魔は意外と修羅場をくぐり抜けてきているから」
特にラスとゴンはね。
二人は魔の森でAランク魔物相手に攻撃を凌ぎきるという偉業をやって見せた。
しかも今よりも合成回数が少なく、弱い状態でだ。
その事実は二人に自信をもたらすだろうし、そしてより高みを目指すきっかけとなったであろう。
特に慢心することなく、強さを求めてきた二人ならば、ホクとウルフを守る位の事はやってのけるだろうな。
ただ一応念には念を入れて、ヴァルドにもサポートをお願いしておくか。
僕とシェルザルは受付で依頼の受注を行う。
そして町から出て、まずは南東方向にある海岸近くまでたどり着いた。
「あれっ、ここだとサハギンはいないんだね?」
「サハギンがいるのは北東部の海岸だけだ。だから少し位置をずらせば、サハギンと遭遇しなくても済むのさ。それじゃ、ちょっと待ってろよ、アーク」
シェルザルは一歩海岸の方へと近付く。
そして口笛を思いっきり吹いた。
それから待つ事、数分……。
「おっ、来た来た」
「来たって……えっ、あの魔物は……」
海の方からやってきた魔物。
その魔物は僕が探していた魔物、マーメイドだったのだ!




