59.合成について考えてみました
「いやぁ、助かった。恩に着るぜ、アーク?」
「さすがにあそこまでじっと見られていたら気付くよ、シェルザル?」
「気付かれていたか。……すまないな。俺達、本当にポイントが足りなくてよ。少しでもポイントが欲しいもんでさ」
そう言うとニヤッと笑みを浮かべるシェルザル。
少しでもポイントが欲しいのなら、僕達に付き合っていないで一人でどんどん依頼をこなせばいいのにね。
まあ町案内をお願いしておいて、後回しにしている僕にも責任があるか。
なら、早く町案内をさせてあげた方が良さそうだ。
「えーっと、とりあえずこれで依頼は終わったし、町案内をお願いしてもいいかな、シェルザル?」
「おう、任せとけ! どこに行きたいんだ?」
「そうだなぁ……テイニーやメルは行きたい所、ある?」
「ウチはもうやるべき事はすませとるから、別にどこでもええで。テイニーはんに任せるわ」
「えっ、わ、わたしですか!? えーっと……それでは、とりあえず、どこかで休みたいです」
あー、うん、そうだね。
先程のサハギンの剥ぎ取りで僕達はだいぶ疲れ切っている。
休みたいと思うのも無理はないだろう。
「それなら、良い所知ってるぜ? ついでに時間も時間だし、昼飯とでもいこうじゃねえか」
「そうだね。そうした方が良さそうだ」
今の時間は14時。
昼食をまだとっていなかったから、休むついでに昼食をとるといいかもね。
僕達はこうしてシェルザルに昼食をとる店まで案内してもらう事にした。
シェルザルと一緒に歩く事、数分。
魚介系の店の中に入っていく僕達。
その店で席について注文し、料理が出揃って、ようやく食事にありつける事に。
そんな中でシェルザルが僕に話しかけてきた。
「さて、これで落ち着いたか。色々と聞きたい事があるんだが、聞いてもいいか、アーク?」
「えっと……それって公で話すとまずい内容だったりするかな?」
「そうだな……。メルの魔法で聞かれないする事は可能か?」
「もちろんやで! ウチに任しとき!」
メルはそれから魔法を使って、音を遮断する魔法を使用した。
さて、これで心置きなく話せそうだ。
「……で、何を聞きたいの、シェルザル?」
「まず率直に気になるのはだな、どうしてアークはメルと一緒に旅をしているんだ?」
「……ああ、どうして魔法使いと旅しているのかって事を聞きたいんだね。それは――」
「それはアークはんにウチが運命を感じたからや!」
「……め、メルッ!? な、何を言っているんだよっ!?」
「別に間違いではあらへんやろ? ウチは最初、アークはんとは商売敵として出会った。せやけど、アークはんの不思議な魅力にウチは魅了されたんや。アークはんのそういう魅力を見られるシチュエーションで出会うなんて、運命以外の何物でもないやろ!?」
「うーんまあ、確かにそう言えなくはないのかな? それもあるし、後はメルに色々助けてもらって、何となくずっと一緒にいる感じだね」
僕が普通に商人としてのメルと出会っただけだったら、メルと一緒に旅する事などなかっただろう。
メルが僕に目をつける事になったのは、あの戦いがきっかけなのだから。
「なるほど。その感じからすると、アークには魔法使いに対する忌避感はそれほどないようだな」
「そうだね。正直メル以外の魔法使いにはまだ一度も出会った事がないんだ。だからそんなに魔法使いに対する悪印象はなかったかな」
「そうか。確かにメルはだいぶ人が良さそうだしな。だけど普通魔法使いはそんな人が良くはない。少なくとも魔物を連れ歩いている人に対してはな」
そう言って、神妙な顔をするシェルザル。
……魔法使いって魔物使いと仲が悪いとは聞くけど、そういうものなんだろうか?
「そういうものなの、メル?」
「せやな。純粋な魔法使いは魔物使いを羨み、そして憎んでいるものや。魔法使いは数こそ少ないから出会う事はあまりないかもしれへんけど、会うと色々と厄介やで。気を付ける事や」
「……うん、魔法使いに極力接する事がないように気を付ける事にするよ」
魔法使いは先程の首都デコラーダの北西部の一部だったり、港町ティズの北にある町ドクトマリンが主な活動拠点とされているはず。
人数自体が少ないから、あまりその姿を見かける事はないだろうけど、そういう人を見かけたら、できるだけ関わり合いにならないように気を付けなくては。
「あともう一つ聞きたい事があるんだが、いいか?」
「僕に聞きたい事だよね、いいよ。どういう内容なの?」
「アークは合成を使ってスライムなどを強くしているとジェスから聞いた。そしてそれによって驚異的な強さを得ているとも」
「うん、そうだね。その認識で間違っていないと思うよ」
「だが、ここまで強いのは正直異常じゃないか? 合成をすれば確かに魔物の潜在能力は上がるし、通常の魔物よりも強くなる事は分かる。だが、合成を安定してできるのは通常三回までと聞いたことがある。だから、合成で強くなれるのには限度があるんじゃないか?」
なるほど。
どうやらシェルザルは合成における”三回の壁”の事について話しているようだ。
合成は同じ魔物にすればするほど、より体の不安定さが増し、それが限界量まで蓄積しやすいのが、三回という回数という訳だ。
だけどそれは全く異なる種族と合成した時の話であり、同種の合成に関する話ではない。
ただ、同種の合成であっても、十回ほどすると限度が来るとは言われているようだ。
それは”十回の壁”と言われている。
そもそも全く同種の合成は変化がほぼなく、研究対象にもなりにくいから、実験の回数もだいぶ少ないみたいなんだけどね。
「それは”三回の壁”の事だね。僕は全く異なる種族とは合成していないから、その問題はないよ」
「だが、同じ種族にしたって、合成回数に限度はあるだろう? 確か十回だったか……?」
「うん、一般的にはそう言われているね。だけど僕はそれを克服できるように陣を考えたんだ。合成をすると不安定になるけど、その不安定な度合を極力下げる陣を、ね」
合成をすれば体が不安定になる。
一般的な陣を使えば、確かに大体不安定さが同種であっても10%位は増えるだろうし、それ故、十回ほど合成をすれば、魔物は合成に耐えられなくなる。
だけど、僕は陣を工夫し続けて、その不安定な度合を小数点以下に抑えた。
兄と合成の実験をさせてもらっている時、魔物の安定度合を測る機械で測ってみた事があるが、確か一回合成をした時の不安定さは0.01%程度だったか。
でも魔物の体にはある程度の順応性もあるから、時間が経てば、そのわずかに不安定になった体も安定してくる。
だから僕の場合、順応性も合わせれば、合成回数の限界が理論上ない事になるのだ。
「理屈はよく分からねえが、その自信からすると、どうやら問題がないようだな。ちなみに何回位合成したんだ、あの従魔達には」
「うーん、数えた事がないからよく分からないけど……多分百回は軽く超えているんじゃないかな?」
「ひゃ、百回だと!? それでよく平気なもんだな、従魔達は!?」
「まあ百体以上の体を取り込んでいると考えれば、確かに信じられない事ではあるよね。でも体は安定しているはずだよ。それは毎回チェックしているから」
何回も成功はしているが、万が一の時の為に、いつも合成後はヴァルドに見てもらっている。
そしてヴァルドが言うには、むしろ一回の合成によって、より不安定になりにくくなっているとの事だ。
そんな現象が起きるなんて聞いた事がないけど、でも十回以上の合成、魔物が合成に順応できるほどの合成回数をした人がいなかったから、聞いた事がないのは当たり前か。
「そんな事ができるなんて知れたら、合成の見方ががらっと変わるんじゃねえか?」
「うん、そうかもね。だけど、この合成方法はとても難しいんだ。理論などをしっかりと理解していないと、うまく扱う事ができない。だからこの技術を公にするつもりはないよ」
今の形だけを例え誰かが真似て書いた所で、その真の意味を理解しなければ、その陣は本来の効力を発揮しないだろう。
そんな事をしても、陣として機能さえしないかもしれないし、下手したら一回の合成で魔物を暴走させてしまうかもしれない。
とにかく、危険極まりないのだ。
下手に合成によって魔物が物凄く強くなるという噂だけが独り歩きして、魔物達が合成によって無残な姿になる光景は見たくない。
合成は、しっかりと理解して行えば、この上ない力となってくれるが、その分、扱いも慎重に行うべきものなのだから。




