58.ラスの実力は僕の予想を超えていたようです
「うわぁ……これはすごいな……」
港町ティズから出て、北の道を少し歩くと、そこら中に地面をはいまわる大量のサハギンの姿が見えた。
これは一体何体のサハギンがいるんだろう?
百……いや千体は軽くいるのではないだろうか。
この様子だと、確かに百体討伐の依頼が出されてもおかしくはないよなぁ……。
「おお、相変わらずすげぇな、ここのサハギンは。俺が前に討伐した時よりも数が増えてねえか?」
「そ、そうなんだ?」
「ああ。確か一昨日だったかな。俺一人で二百体ほど倒してだいぶ数は減らしたはずなんだ。だけどその時にいたサハギンはこの半分位だったぞ?」
ふーん、そうなのか。
まあ、とにかくこれだけサハギンがいるのであれば、討伐するには困らないだろう。
早速討伐を始めるとしますか。
ひとまず、こっそりとラスと作戦会議をする事に。
「ラスって、分体を何体まで出せる?」
「うーん、どのていどのぶんたいにするかにもよるかなー?」
「サハギンを溶かして倒せる程度だったらどう?」
「そうだねー。それくらいでいいなら、にひゃくたいくらいならいけるよー」
……えっ?
に、二百体もいけちゃうの?
どうやら僕はラスの実力を見誤っていたようだ。
せいぜい五十体程処理してくれると嬉しいとは思っていたんだけど、まさか二百体もいけるとは。
まさかのラス一人で昇格試験四人分のサハギンを処理できるとは思いもしなかった。
「それじゃ、お願いしてもいい? 百体分でいいからさ」
「うんまかせてーさくっとたおしちゃうよー?」
ラスはそう言うと、体をもぞもぞさせて、そして体を分裂させた。
一体から二体に。
二体から四体に。
八体、十六体、三十二体……って感じで倍々に増えていく。
そしてわずか十秒ちょっとの間に百体ものラスの分体が出来上がった!
「お、おおぅ、す、すごい数のスライムだな、アーク!?」
「僕もこんな事をしたのは初めてだけど、すごい数だよね……。とにかくラス、そのままやっちゃって!」
「「「「「うんまかせてー」」」」」
「えっ、スライムが……しゃべっただと!?」
あっ……。
というか、分体のスライムまで全員返事する事はないだろう……。
一体一体の分体に喋る程の知能があると考えると、恐ろしいよね、これって……。
僕の指示を受け、ラスは分体とともにサハギンの方に襲い掛かった。
まあ、もはやどれが分体なのか本体なのか区別がつかないんだけど。
ラスのうちの一体がサハギンの体にとりつく。
そしてそのまま体の一部を数秒のうちに溶かし、サハギンの体は動かなくなった。
そんな光景が百カ所ほど。
時間にして一分もしないうちに、百体のサハギンがその場で動かなくなったようだ。
ラスは分体を回収し、元の一体にまとまったタイミングで僕の所に戻ってきた。
「おわったよーほかのさはぎんはいいのー?」
「あっ……うん、ひとまずは大丈夫。ありがとう、ラス」
僕も含めて、ラスの圧倒的な制圧力にぽかーんとしているようだ。
何か現実味がないというか、何というか。
ラスの事をあまり知らないであろうシェルザルはもちろん、テイニー、メル、レクなども例外なく呆然とした表情をしていた。
そんな僕達をよそに、ラスは呑気にウルフの頭の上に乗っかって、ぴょんぴょんその場でとびはねていた。
「と、とにかく、討伐は終わったようだから、剥ぎ取りをしよう。みんなも協力してくれると助かるよ」
「……あっ、はい! 任せて下さい!」
「倒すよりも素材を回収する方が何十倍も手間がかかりそうやな……。何か不思議な感じや」
こうして僕達はサハギンの剥ぎ取りを開始した。
サハギンの討伐証明になるサハギンの首と、あとは鱗もついでに回収しておいた。
ちなみに回収している時にも他の生きているサハギンが襲ってくるので、そこはゴンやホク、ウルフ、リザ、ケンタウロスに頑張って倒してもらっていた。
ゴン達も先程のラスの行動に触発されたのか、すごい勢いでサハギンを倒していくので、サハギンの屍がものすごい数に膨れ上がっていくのだが……。
ラスはそんな頑張るみんなを見て、嬉しそうにぴょんぴょんただ跳びはねていた。
さて、剥ぎ取りを開始してから一時間程。
結構必要な数も集まった事だし、そろそろ良いだろう。
「もうそろそろ十分じゃないかな。みんな、お疲れ様。ギルドに戻ろう」
「は、はい! だいぶ疲れましたね……」
「せやな。さすがにここまでの数を剥ぎ取るのは正直しんどいわ。でも十分な数は集まったやろ?」
「そうだね。もう途中から数を数えるのもやめたけど、きっとすごい数にはなっているはずだよ。百はとうに超えているんじゃないかな?」
「そうだろうな。……全く、これじゃ俺、手伝う意味なかったじゃねえか。というか、どいつもこいつも強すぎだろ、アークの魔物は。分かってはいたけど、やっぱりちょっと信じられねえぞ」
シェルザルはそう言うと僕の従魔をじっと見る。
ラス達はまたウルフに乗ったりして、随分と楽しそうな感じで一緒についてきている。
疲れ果てている人間の僕達とは対照的に、とても元気そうだな、みんなは。
その元気を少し分けてほしいものだ。
それから僕達はギルドへと向かった。
そして受付にて、サハギンの討伐を証明するものを提出する。
僕、テイニー、レク、メル、シェルザルがそれぞれバッグに目一杯サハギンの素材を入れていたので、提出する光景はとても異様なものだった。
だけど、そんな様子を見ても周りの人達は至極冷静だ。
もしかするとサハギンの大量発生が頻繁に起こるこの町では、こういう光景を見るのはおかしくないのかもしれないね。
「……はい、確かに確認しました。これにて、アークさん、テイニーさんをDランク昇格と致します!」
「よ、良かったですね、アークさん! これでわたし達、Dランクになれたんですよ!」
「うん、そうだね。この調子でもうちょっと頑張っていこう」
依頼をこなす事で上げられるランク上限はCランク。
つまりはもう一ランク上げられるという事だ。
なら、まだまだ依頼は頑張ってこなす必要があるだろうね。
僕がランクアップの余韻に浸っていると、僕をじっと見てくる人が。
シェルザルだ。
どうしてそんなにじっと見てくるんだ?
別にランクアップ位喜んだっていいだろうに。
…………あっ、もしかして!
「あっ、すいません。ジェネラル・レノスを応援しているので、ポイントを入れてあげて下さい」
「ジェネラル・レノスにですか? あっ、はい、かしこまりました。そこを応援しているなんて珍しいですね?」
「まあ、色々と事情がありまして……ハハハ」
僕がそう言って、ちらっとシェルザルの方を見る。
するとシェルザルは満面の笑みを浮かべていた。
やっぱりシェルザル、これが狙いだったのか……。




