55.ウルフは従魔達の中に溶け込んだようです
確かに魔物を従えている者本人でなければ、本当の意味でその魔物が従魔かそうでないかは分からない。
だからシェルザルのケンタウロスも、シェルザルの指示に従って町に溶け込んでいるからこそ、町の中にいても全く問題にならないのだろう。
その理屈でいえば、ウルフだって町でおとなしくできれば連れ込んでもいい事にはなる。
ただ、そんな前例があったとは初めて聞いたんだけど……。
「元々人類に友好的な種族以外で、野生の魔物を連れ込んでいるなんて話、聞いた事がありませんよ!?」
「ハッハッハッ! そりゃそうだろうな! そもそも野生の魔物と仲良くなる奴自体が非常に珍しいんだ。普通は人に対して敵対する事が多いからな、魔物って奴は!」
「そうですよね? でもシェルザルさんは、そういう事を当たり前のようにやっている。昔からそういう事をしていらっしゃったんですか?」
「おう、そうだな。俺、魔物の事が大好きでさ。どこかに行っては、何かしらの魔物と仲良くなって帰ってくる事が多かったな。本当は全員を従魔にできればいいんだが、俺にそこまでのカリスマ力はなかったもんでな」
カリスマ力が足りない……。
ギルドのエースをやっているシェルザルでもそうなのか。
いや、全国各地を回って、それらの魔物をみんな従わせようとしたら、そりゃカリスマ力はいくらあっても足りないか。
才能のある人であっても、カリスマ力は有限な訳だしさ。
「アークもだいぶカリスマ力に苦労しているみたいだな。とんでもなく強いとはいえ、従えているのはスライムにホークとEランク魔物ばかりだしさ」
「そうですね。これでも結構ギリギリだったりします」
「分かるぜ、その気持ち。俺も結構苦労してきた方だからさ。勘違いだったらすまないんだが、もしかしてアークの家系って、最初の魔物使いフィアスの血縁にあたるんじゃないか?」
「えっ? どうしてそれを……?」
「やっぱりな。実は俺もフィアスの血縁にあたるんだ。フィアスの血縁者はカリスマ力に恵まれない事が多い。俺もその内の一人でな。俺は15歳時点ではカリスマ力は3しかなかった。今はもう少しあるだろうが。まあ、魔物と仲良くなれれば問題ないと思って、俺は気にしていなかったけどな」
そう言ってハハハと笑うシェルザル。
……まさかシェルザルがフィアスの血縁だとは。
という事は、僕にとって、シェルザルは遠い親戚にあたるという事じゃないか!
実は僕の母親がフィアスの血縁である。
そしてフィアスの血縁にある者はカリスマ力に恵まれない事が多く、稀にカリスマ力が全くない者も現れるとか。
僕も恐らくその影響を受けてカリスマ力が全くなかったのだろう。
僕にカリスマ力がないと分かった時、母親はひどく自分を責めていた。
自分の血縁のせいで、アークに酷い事をしてしまったと。
でもそんな母親を父親は責めなかったし、父親は僕を責める事もなかった。
フィアスの血縁者がカリスマ力に恵まれていないのは、フィアスが他の人類に力を分け与えた為と言われている。
フィアスは元々最初の魔物使いであり、唯一の魔物使いであった。
フィアスは才能に恵まれ、数々の魔物と心を通わせたのだという。
だが、一人でできる事には限界がある。
そこで彼女は人類全体に自分の力を分け与える事にした。
とある儀式をする事で、それを実現し、その後、魔物を従える事ができる者が大量に現れたのだとか。
その反動で、フィアス本人は力を全て失ってしまったので、その子孫はカリスマ力に乏しい傾向があるそうだ。
フィアスのその事に関する記述は、先程の遺跡でも見られたので、恐らく間違いない事なんだろう。
「立ち話をするのもなんだ。早く町の中に入らないか? 良かったら町もついでに案内してやるからさ」
「い、いいんですか? あっ、でもこのまま入るのはまずいですよね。ウルフを連れて行くにしても、この姿じゃ……」
僕はウルフの様子を見る。
ウルフは現在、体全体が血で赤く染まっている状態だ。
そんな状態で町の中に入れば、いくらおとなしくしていても町の人から怖がられるに違いない。
「そうだな。なら、まずは近くの海で血を洗い流すべきだろう。俺もそこまで付き合ってやるからさ」
「そ、そうですか……。すいません、そこまで付き合わせてしまって」
「いいって事よ。これも何かの縁だしな。それにもしかしたら俺のかわいい後輩になるかもしれないような奴に、これ位するのは当然だろうさ」
そう言って微笑むシェルザル。
やっぱりシェルザルも僕がジェネラル・レノスに入る事を期待しているんだろうな。
シェルザルも人が良さそうだし、後はギルドが栄えてさえいればいいんだけどな……本当に。
僕達は海の近くまでいって、ウルフを海の浅い部分まで連れて行き、体を洗い流させた。
そして元の灰色の毛並みに戻った所で、ウルフが陸に上がり、体をブルブルと震わせて水気を落とす。
……ガゥゥ!
「うん、ウルフも元気一杯で何よりだな。さて、そろそろ行くとするか、アーク?」
「はい、そうですね。そうしましょう」
僕はこうしてシェルザルと一緒に町の方へと向かった。
もちろんウルフもラス達と一緒に連れた状態で。
ウルフは自分も連れて行ってもらえるという事を察したのか、とても嬉しそうな表情をしている。
問題がないのなら、僕としてもできればウルフを一緒に連れて行きたいのだが、やっぱり不安は残るよな……。
歩いている途中で、僕はシェルザルにもう一度問いかけてみた。
「……でも、本当に大丈夫でしょうか? 僕、従魔じゃない魔物を町に連れ込んだ事なんて今までなかったですし」
「大丈夫さ。見ろ、ウルフはもうお前の従魔達と馴染んでいるみたいじゃねえか。あの様子を見て、ウルフだけが従魔じゃないとは誰も思うまいさ」
僕は従魔達の方に振り返る。
すると、そこにはウルフの頭の上に乗るラス、背中の上にまたがるゴン。
そしてゴンの頭に乗るホクの姿があった。
ラスはウルフの頭の上でぴょんぴょんとはねていて楽しそうだし、ゴンはウルフに乗れて満更でもなさそうな表情をしている。
ホクはゴンの頭の上に乗って勝ち誇ったような表情を浮かべているようだ。
みんなそれぞれ、ウルフを受け入れているような感じがしてくるな。
「……確かにそうですね。まさかあんなに馴染むとは思わなかったです」
「そういう事だ。だから何の心配もいらねぇ。アークはアークで堂々としていればいいって事さ」
そう言うとシェルザルはケンタウロスを連れて、港町ティズの門の方へと先に歩いていく。
僕もその後をついて行く事にした。




