54.ウルフはゴンにリベンジをしに来たようです
グルゥ……
僕の姿を捉えたウルフは、僕の事をじっと見てくる。
……うーん、確かにウルフはヴァルドの言う通り、一生懸命頑張ってきましたって感じなんだよね。
急に野生の血が騒いで、他の魔物をひたすら倒し続けたという訳ではなさそうだ。
僕を見てもいきなり襲い掛かろうとしない所もそれを裏付けている。
しばらく距離をおいてウルフと対峙する僕。
……仕方ない。
さすがにここまで頑張ってくれたのに、その思いを踏みにじる訳にはいかないか。
だからといって、ウルフを町の中に入れていい事にはならないんだけど。
ここは一思いに戦って、諦めてもらうしかないだろう。
「ウルフくん、ここまで来たという事は、もう一度ゴンと戦いに来たって事だね?」
僕がそうたずねると、ウルフはこくんとうなづいた。
どうやら、覚悟は決まっているようだ。
「分かった。条件は前と同じ。ゴンに勝てない限り、僕は君を連れて行く訳にはいかない。それでいいね?」
……ガゥ!
「よし、それじゃ、ゴン、よろしく頼む。前と同じようにしてほしい」
ゴンは僕の方をちらりと見て、こくんとうなづいた。
……さて、ウルフはどれ位強くなったんだろうか。
ゴンは前と同様に、ウルフの背後をとろうとする。
だがウルフはそれに反応し、ゴンの攻撃をサッと避けた。
ウルフ、ゴンの速度に反応しているな。
明らかに前と動きが違うようだ。
ゴンの攻撃を避けたウルフはそのままゴンに噛みつき攻撃をしようとする。
だがゴンはその攻撃を見切り、ギリギリで避け、ウルフに棍棒による攻撃を食らわす!
ゴンの攻撃によって体が吹き飛ばされるウルフ。
しかし、すぐに立ち上がり、またゴンに立ち向かっていく!
だがそこは流石のゴン、その動きを予想していたのか、またも最低限の動きで攻撃をかわし、返しに一撃を与える。
攻撃を食らって倒れるウルフだが、ウルフは諦めたくないのか、何度もすぐに立ち上がり、ゴンに立ち向かっていく!
ウルフ、強くなったな。
その証拠に、ゴンがウルフの対応に苦慮しているように見える。
きっとゴンは以前と同じようにウルフを気絶させる威力の攻撃を放っているはずだ。
だが、その攻撃を何度もしても、ウルフは何度も立ち向かってくる。
この短時間でウルフの肉体が劇的に成長する訳もないし、きっと気力だけで立ち上がっているのだろう。
ウルフは本当に頑張ってる。
だけど、いつまでもこうしている訳にはいかない。
正直な気持ちを言えば、僕はウルフと一緒に旅をしていきたい。
でも、どんなに僕がそう思った所で、ウルフを町まで連れて行けない事には変わりないのだ。
一応、他人が従魔かそうでないか判別する事は困難だし、おとなしくしてくれれば町の中に連れ込めない事もないとは思うが。
でもそんな事例は聞いた事がないし……。
「……ゴン、そろそろ決めて」
ゴンは僕のつぶやきに反応し、ウルフに対して殺気を放つ。
ゴンの雰囲気の変化に一瞬ひるむウルフだが、しかしウルフは決してゴンから目を離さない。
その足はブルブル震えているけど、戦う意思は決して失ってはいないという事か。
そしてゴンがウルフの方に駆けていこうとした、その時!
「ブレイクアロー!」
突然遠くから飛んできた矢は、ウルフの方めがけて飛んで行く!
その矢の動きは素早く、今にもウルフの体を射貫かんとしていた!
だが、そうはならなかった。
「…………させない」
ゴンはギアをさらに上げ、超スピードでウルフのそばまで駆け寄り、ウルフに矢が到達する前に矢を棍棒で叩き落した!
突然の事に驚くウルフ。
どうやら矢が来ていた事に全く気付いていなかったようだった。
「あ、あれー? もしかして余計な事しちまっていたかな、俺? てっきり襲われているもんだと思っていたんだけどさ?」
そう言って僕の方に近寄ってきたのは短い金髪の男だった。
Bランク魔物のケンタウロスに乗って、こちらへ向かってきている。
「あっ、もしかして助けてくれようとしていました?」
「そのつもりなんだけどな……。凶暴なウルフに従魔のゴブリンが襲われていて、まさにピンチって場面だと思ったんだけど、どうやら違ったようだ」
「そ、そうですね……誤解させてしまってすいません……」
「気にしなくていいんだ。俺、結構早とちりしちまう方だからさ! ハハハ!」
金髪の男はそう言って笑う。
早とちりで、全く自分と関係のない人を助けようとするなんて、きっとこの人、お人好しなんだろうな。
「で、実際の所はどうなんだ?」
「そうですね……。あのウルフが僕に付いて来たいみたいなんですが、僕にはウルフを従えるだけのカリスマ力がないんです。ですから力の差を見せて付いて来るのを諦めさせようとしていた所なんです」
「ウルフ相手に力の差を見せる、か。ふむ……確かに俺のケンタウロスの矢を簡単にへし折る事といい、このゴブリン、只者ではないな。まるでジェスから聞いていた凄腕ゴブリンの特徴にそっくりだ」
そう言ってゴンの事をじっと見る男。
……えっ?
今、ジェスって言わなかったか、この人?
ジェスってジェネラル・レノスのリーダーで、その人から話を聞いていたって事は――
「ジェスさんから聞いていたって、どういう事ですか?」
「……ああ、何でもねえよ。俺の知り合いの情報屋の名前さ。俺、あちこちに依頼を受けに行っているんだが、良い知らせがどこにあるか教えてもらう為に、連絡石を使ってそいつとよく連絡をとるのさ」
そう言って男は紫色の石を取り出した。
確かにそれは連絡石で、それを使ってジェスと連絡をとっている人物。
それはやはり。
「もしかしてあなたって、シェルザルさんではありませんか?」
「おおっ、よく俺の名前を知ってるな、少年! もしかして、お前がアークという魔物使いなのか?」
「はい、そうです。ギルドを見て回る時にジェスさんと会ったのですが、その時に少しあなたに関する話を聞きました」
「やっぱりな……。ジェスがあそこまで褒める魔物使いはなかなかいないからな。只者ではないとは思っていたが、まさかここまでとは」
そう言って興味津々な様子で僕の従魔達をじっと見るシェルザル。
やっぱり僕の予想通り、この人はジェネラル・レノスのエース、シェルザルだったようだ。
まさか、こんな所で出会うとはね……。
「おっと、話がそれてしまったな。それでアークはどうしたいんだ? ウルフに随分と気に入られているという話だったが?」
「そうですね……。ウルフが付いて来るのを諦めさせたいと思っています。町までウルフを連れて行く事はできないですから……」
「なんでそうなるんだ? 別にウルフを中に入れる事はできるだろ?」
「……へっ? でもこのウルフ、従魔じゃないんですよ? 野生の魔物なんですよ? 野生のウルフを町中に連れ込む事ができる訳ないじゃないですか?」
「それなら従魔であるフリをしてもらえばいいんだ。だってこのケンタウロスだって俺の従魔じゃないんだぜ? 野生の魔物なんだ。でも、町中で普通に連れ歩けている。だからそのウルフも問題ないだろ」
……えっ!?
このケンタウロスって野生の魔物だったの!?
てっきりシェルザルの従魔だと思っていたんだけど……。




