46.テイニーは力が欲しいようです
朝が来て、僕は目覚める。
そしてテントから出ると――
「おはよーあーく。よくねむれたー?」
「…………おはよう、アーク」
「アーク、おはよう! 外は異常ないから安心して!」
ラス達、僕の眷属達が出迎えてくれた。
というか、みんなだいぶ早起きだな。
さすがにみんな徹夜って事はないだろうし。
「おはよう、みんな。みんなはちゃんと寝たの?」
「…………少し寝た」
「アタイも寝たよ。でもゴンよりは少し長く起きて頑張ったから、アタイ!」
「はりあうねーふたりともー。うん、たしかにふたりともねてたよーあんしんして、あーく」
うん、良かった。
夜通し起きていたであろうラスがそう言っているのであれば、他の二人はしっかりと睡眠をとっていた事に間違いなさそうで何よりだ。
というか、ラスはどんだけ頑張るんだろう……。
今見ても、僕が描いた陣の上でスライムとスライムが一緒になる現象が起きているし……。
「ラス、今僕と話しているのって、君の本体?」
「いや、ぶんたいだよー。ほんたいはみんなといっしょになっているところだからー」
「なるほどね。分体でも話せるなんて知らなかったよ。あっ、でもよくよく考えれば、アルラウネ戦の時も分体が話していたのか」
「そうだよーべんりでしょー? まさにひとりふたやくってかんじだよねー」
そうのんきに言うラス。
……いや、ラスの場合、一人二役どころか、一人何十役をやっているような気がするんだけど。
だって考え付くだけでも敵が来ないか見張る役、スライムを遠くから集めてくる役、僕と話す役があるし、少なくとも三役以上はある。
それに行列に並ぶスライムの多さを考えると、きっとスライムを集めてくる役のラスが複数いるに違いない。
目には見えにくいが、見える範囲で見ただけでも軽く数十のスライムが並んでいるように見えたからね。
「合成を頑張るのは良いけど、もう少ししたら出発する事になる。そうしたらこの場で合成できなくなるから気を付けてね?」
「うん、わかったー。きをつけるー」
ラスは時間ギリギリになるまで合成する気満々のようだ。
果たしてこの一晩でラスはどれだけ強くなったんだろうか?
一体一体がとても弱くても、塵も積もれば山となる。
今のラスの強さがちょっと想像出来ないな……。
「…………アーク、合成」
「えっ、ゴンも合成してほしいって言うの?」
僕がそう聞くと、こくんとうなづくゴン。
どうやらラスに負けていられないと思っているらしい。
ゴンも十分強いと思うんだけどな。
昨日の合成で、もうCランク魔物位なら単独で倒せる強さが手に入っていると思うし。
「アーク、アタイもお願い。アタイも負けていられないから!」
「……分かった。でもみんなの出発準備が整うまでだからね? 時間が来たら、先に進む事を優先するからさ」
こくんとうなづく二人。
本当、僕の従魔達はどれだけ強くなりたいんだろう。
やる気がある事は結構なんだけども。
この様子じゃ、合成にリスクがある事は理解していないように見えるよなぁ……。
まあ、万が一の時を起こさないように、僕が気を引き締めて頑張らないといけないんだけど。
僕はそれから数時間、ゴンとホクの強化に時間を費やした。
その間の護衛は全てラスに任せる事に。
そしてしばらくすると――
「あーく、みんなじゅんびできたってー」
「うん、分かったよ、ラス。それじゃ一旦テントまで戻ろうか」
テントまで戻った僕達。
すると朝食を用意しているテイニーとレクの姿が目に入った。
「あっ、アークさん、お疲れ様です!」
「テイニー、ご飯用意してくれたんだ。ありがとう」
「あっ、いえ、街で買った物を並べているだけですから、お気になさらず!」
「アーク、あっしも頑張って運んだんだニャ!」
「そっか。レクもありがとね」
「か、感謝なんてしなくてもいいんだニャ! 当然の事をしたまでだニャ!」
レク、ほめて欲しいのか欲しくないのかどっちなんだ……。
そういえばレクは僕に合成して欲しいと言ってきた事はないが、最近僕の従魔の事をじっと見ている事が多い気がする。
レクも強くなりたいんだろうか?
あんな事があった後だから、そう思ってもおかしくはないのだけれど。
ただ合成にはリスクがある。
万が一の事を考えると、テイニーを心配させない為にもレクは合成という選択を安易に選べないだろうな……。
ちなみにリザも同様、僕の従魔を見ている事が多い。
特にゴンを見ている事が多いようだ。
きっとグランドリザード戦で力の差を感じた事もあるのかもしれないし、ゴンは同じ近距離戦士タイプだから、参考になる所もあるのかもしれないな。
ただ結局この辺りにはリザと似た系統の魔物が生息していないので、合成をしたくてもできない状態だ。
その事を理解しているからか、リザも特に何も言ってきていない。
朝食をみんなでとり終えた後、テントの片付けなどをして、僕達は再び東へと向かった。
道中にはオーガやホークなどがいるので、もちろんゴンやホクの強化も忘れない。
ラスは相変わらず、僕がゴンやホクの合成で使った陣を再利用して、近くのスライムと合成しているようだ。
ちなみにラスが使い終わった陣に関しては、ラスに陣の跡を消してもらうようにしている。
僕が描いている陣は特殊なものだし、あんまり跡を残したくないからね。
ところで、ホクの成長スピードにはめざましいものがある。
使役する前のホクはオーガに敵わない状態だったにも関わらず、今では単独でオーガを加減して気絶させられる実力を持つ。
合成できる状態まで持っていってくれるので、とても助かるのだ。
「アーク、向こうのオーガを一体倒しておいたよ」
「ありがとう、とても助かるよ。このオーガの合成が終わったらすぐにそっちに行くよ」
「それが終わったら、今度はアタイの番でもいいよね?」
「あっ、うん……近くにホークがいたらね」
「分かったよ! それならウチが連れてくるから、その時はよろしく!」
そう言ってどこかへ飛んで行くホク。
どうやら合成に使うホークを探しに行ったらしい。
遭遇する範囲内で合成が出来れば良いと思ったんだけど、ホクはそれでは物足りないようだ。
まあ野生の魔物は相当数生息しているし、多少、数を減らしても問題ないとは思うんだけど。
「ホクはん、頑張りよるなぁ」
「そうだね。むしろ頑張り過ぎな気がするんだけど。もっと休めばいいのにな……」
「アークさんこそ、大丈夫ですか? ずっと合成し続けていらっしゃいますけど……」
「テイニーはんの言う通りや。合成って失敗できないものやのに、それを連続でやっておってよく平気やな? 疲れたならアークはんから休むとホクはん達に言った方がええんちゃうか?」
「いや、僕は大丈夫だよ。もう合成にも慣れてきたし。何より強くなりたいとゴン達が望んでいるのに、それに応えてあげられない程、もどかしい事はないからね」
合成は低カリスマの僕が強い従魔を使役する為の唯一の手段だ。
だから僕は従魔達の意思とは関係なく、その為に合成をし続けてきた。
でも今は違う。
いや、正確に言えば、今はその事は理由の一部でしかない。
同じ魔物が努力で強くなるのには限度がある。
スライムならスライムとしての種族としての限界が。
ゴブリンならゴブリンとしての種族としての限界があるのだ。
それはどんなに努力をしようと変わらない。
ただ合成にはその限界を超える可能性を与えてくれる。
その事が分かっているラス達は、より強くなる為、僕に自ら合成をして欲しいと頼んできているのだろう。
それを断るという事は、ラス達の強くなる可能性を否定する事にもなるし、僕にできる限りの事はしてあげたいと思うのだ。
「わたしも……もっと頑張らないと」
「テイニー、どうしたんだニャ?」
「アークさん、わたし、もっとアークさんみたいに頑張りたいです! 何をすればいいでしょうか!?」
「えっ!? いきなりそんな事を言われても……」
「わたし、正直今のままではただの足手まといなんです。それは分かっているんですけど、どうする事もできなくて……」
テイニーはそう言ってうなだれる。
僕としてはテイニーは十分頑張ってくれていると思うんだけどな。
食料を中心に大事なものをたくさん運んでくれているし。
僕の事を心配したりして色々気遣ってくれているしさ。
テイニーにとって、それでは力になっているとは言えないんだろう。
直接戦力になっているとは言えないから。
でもだからといってリザを合成してあげて強くする事もできないし、一体どう答えてあげればいいのか……。




