45.ラスはずっと合成をしていたようです
それからもホクやゴンを強化しつつ東に移動していると、日が暮れ始めた。
そろそろ野宿の準備をした方が良いだろうな。
「日が暮れ始めたようやな。あの辺にちょうど良さそうな所があるし、あそこでテント張って休もか?」
「うん、そうしよう」
僕達はメルが言った場所まで移動する。
そしてそこに到着してから、メルはバッグから折りたたみ式テントを三つ取り出した。
道具に関してはウチに任せてくれとメルが言っていたから、僕はテントを持ってきていなかったけど、まさか一人分ずつ用意しているとは。
道理でメルの大きなリュックがパンパンになっている訳だ。
辺りが暗くなってきた所で、メルはとある道具を取り出す。
見た感じ、何の変哲もない小型の赤い机のようだ。
メルはその机を地面に置いた後、その机に炎魔法を当て始める!?
「め、メル、何をやってるの!?」
「アークはん、心配ないで。この机は魔道具。魔力を吸収して、その魔力を明かりに変換できる便利道具や。これさえあれば、野宿する時には困らんで!」
へえ、そんな物があるんだ。
確かに魔道具という物があると聞いた事はあったが、まさかこんなに見た目的には普通の物と変わりないものだとは……。
それからもメルはしばらく炎魔法を机に向かってかけていたのだが、ある時、魔法の発動を止める。
「もうそろそろええやろ。アークはん、テイニーはん、よく見とき?」
メルがそう言った後、スイッチみたいなものを押したのか、カチッと音がする。
すると途端にその机が赤くほんのりと光を発し始めた!
「おお、本当に光った!?」
「す、スゴいです……!」
「ビックリするやろ? まあこの道具は魔法が使えないと意味ないし、とても高価なモノやから見る機会はほとんどないやろな。せやけど、ウチは天下のアツメル総合店の店主。そんなウチがついている限り、これ位の事は朝飯前っちゅーこっちゃな!」
なるほど。
確かにこれは相当便利な道具みたいだ。
携帯発光石の場合、一定時間経つと発光が終わってしまうし、また光らせようとする為には石をある程度削る必要がある。
つまりは消耗品なのだ。
でもこの道具は違う。
動力が魔法使いの魔力であって、この道具には魔力を明かりに変換する装置位しかなさそうだし、そうなれば携帯発光石よりは断然長持ちするだろう。
僕達はこの光る机のおかげで、暗闇に包まれる夜に明かりを得て、くつろぐ事が出来た。
ちなみにメルが虫除けの魔法をかけてくれているし、周囲の魔物に対してもラス達が警戒してくれているから問題ない。
まあ警戒というか、ちょくちょく倒してきちゃうんだけどね。
こんな感じで。
「…………食っていい?」
「あっ、ゴン。また狩ってきたのか。うん、好きにすると良いよ」
ゴンはどうやら野生のオークを倒してきたようだ。
僕の許可が下りるとゴンはこくんとうなづいてからその場を離れる。
「アーク、アタイもオーク狩ってきたよ!」
「あっ、そうなんだ。頑張ったね」
そう言ってえっへんとした態度をとるホク。
もしかして先程ゴンがオークを倒した事に張り合っているんだろうか?
ゴンはホクの事をまるで気にしていないようだけど。
「えっと……アタイ、もう食べられないんだけど、食べる?」
「そうなの? ホクはそんなにたくさん何かを食べていた印象がなかったんだけど? 昼に食べたオーガも一部しか食べなかったしさ」
「アタイ、こう見えても少食なんだ。食べ過ぎると動きにくくなるからね」
なるほどね。
確かに食べ過ぎて飛べなくなるのは鳥にとって死活問題だろう。
前にヴァルドが食べ過ぎて飛べなくなった時を思えばその事は容易に想像がつく。
ホクはその辺りの管理をしっかりと行っているようだ。
「メル、どうする?」
「せやな。それならもらっとこか。一応食料はテイニーはんが持ってきとると思うけど、別にとっておくに越した事はないやろうし。テイニーはん、どうする?」
「い、良いんじゃないでしょうか? オークの肉は食用に適しているそうですし。食べる為には焼く必要がありますが、メルさんなら焼けますよね?」
「もちろんいけるで! ならこれで決まりやな。ホクはん、ウチにオーク持ってきてくれへんか!?」
「あっ、うん、分かったよ、メル!」
ホクはそう言うとその場を離れ、少し経つとオークを掴んでメルの所まで飛んできた。
だいぶ重そうにしていたが、それでもオークを運ぶだけの力はあるんだな。
さすがは魔物と言うべきか。
「さて、それじゃ調理開始といきましょか! ウチの包丁さばき、しっかりと見ときや!」
メルはそう言うとリュックから包丁を取り出し、オークの前で包丁を構える。
それから目にも留まらぬ早さでオークを次々に切り込んでいく!
「す、スゴいです、メルさん……!」
「なるほど、こりゃ、コボルド二体の解体も一瞬で終わる訳だ……」
メルは結局一分もしないうちにオークを細かな部位に分けきっていた。
そして後はメルの魔法でこんがりとオークを焼いていく。
味付けに関しては、テイニーが色々と持ってきた調味料を使って味を整える。
こうして焼きオークの完成だ。
僕達はそのオークを食べ、ちょっとみんなと雑談してからテントで寝る事にした。
やはりテントの中とはいえ、地面に寝る事になる訳だからちょっと硬かった。
まあ、それでも結構疲れていたのもあって、そんなに寝るまでには時間はかからなかったんだけどね。
しかし、朝まで寝付けるかと思ったら大間違いなようで……。
「ねえ、あーく、あーくおきてー」
「うん……? その声はラスか。どうしたの?」
「じんがつかいにくくなったから、あたらしいのかいてー」
陣が使えなくなった?
ああ、そういえばラスにせがまれて、合成の陣をいくつか描いて欲しいって言われてたんだっけ。
確か三つ位は描いていたはずだけど、それでも足りないっていうのか、ラスは?
というか、そういえば今何時だ?
僕はテントから出ると、机のスイッチをつけ、明かりを灯して時計を見る。
時刻は深夜の3時。
というか、ラスの奴、まさか夜通し合成し続けていたって事か!?
「ラス、もしかしてずっと合成し続けていたんじゃないよね……!?」
「えー? そうだけど、だめなのー?」
その当たり前な事を聞かないでよ的な反応は何なんだ……。
何かツッコミが色々と追いつかないんだけど。
どうやらラスは体の性質上、睡眠を必要としないらしい。
見張りをただしているのも退屈だから、分体に仲間を探させ、仲間を呼んで合成しているそうだ。
そして今、陣の使い過ぎで陣があまり機能しなくなっているらしい。
具体的には他のスライムと一緒になる時に違和感が一瞬ある時があってそう感じるんだとか。
「……それだとラスの状態が心配だな。体がだいぶ不安定になっているかもしれないし。一度ヴァルドに見てもらった方が良いだろう」
「あーく、ぼくのことしんぱいしてるのー? もうだいじょうぶだよー?」
ラスはそう呑気に言っているが、合成は万が一の事があっては不味い。
念には念を入れておく事に越した事はないのだ。
僕はとりあえず寝ているヴァルドを起こす事に。
無理矢理起こされたヴァルドは大層機嫌が悪かったが、事情を話すと渋々ではあるが、ラスの様子を見てくれる事になった。
「……どう、ヴァルド?」
「……全く問題ないようだが」
「そ、そうなの?」
「ああ。ラスも大丈夫だって言っているんだから問題ないんじゃねえか? っていうか、数え切れない程、合成してるっていうのに、これだけ体が安定している方が驚きだろ。もしかしてラスは合成に耐性がついているんじゃねえか?」
合成に耐性……。
あり得なくはない話かもしれない。
合成を何度もしているうちに、精神的に合成への忌避感がなくなるのはもちろん、体も合成される事に対応出来ている可能性も否定は出来ないだろう。
つまり、他の魔物を体に取り込んだ時の順応性が向上する。
それにより体が不安定になりにくく、度重なる合成にも耐えられると言った所か。
まあそうだとは必ずしも言えないし、あまり過信は禁物だろうけど。
とにかく、ラスに問題がなさそうで何よりだ。
「とにかく大丈夫そうだから、俺様は寝るぞ!」
「あっ、うん、起こしてごめん。ありがとう、ヴァルド」
眠そうなヴァルドはそのまま寝っ転がって目を閉じる。
いつまでも明かりをつけていたらヴァルドや他のみんなにも悪いし、早い所、陣を描いてしまわないとな。
「待たせたね、ラス。それじゃ、陣を描こうか」
「うん、よろしくねーあーく!」
僕はラスの為に陣を描いてあげた場所まで移動した。
するとそこには、あちこちが擦れてしまっている陣が残っていた。
この感じからすると、地面をはって移動するスライムの影響を受けたんだろう。
きっとものすごい回数のスライムをここに連れてきたんだろうな、ラスは……。
陣は数回スライムが通っただけでは消えないはずだからね。
僕は古い陣を消し、新しい陣をまた三つほど描き直しておく。
陣を描き終わった所で、僕は自分のテントに戻って寝る事にした。
「ありがとーあーく」
「うん、大丈夫だよ。合成もほどほどにしておいてね、ラス?」
「しんぱいしてくれてありがとーでもだいじょうぶだよー」
そうラスは返事をしているが、ラスの近くには待っていただろうスライムが集まってきていた。
……まだまだ合成をやる気だな、ラスは。
まあ、でもさすがにきつくなったら止めるだろう。
とりあえず僕は寝るとしようか。




